シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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レストランは空前の被雇用者市場

今もしウェイターやウェイトレスの仕事を探そうとしているのならば、仕事を見つけるのは簡単だ。求職史上最も簡単な時期かもしれない。ワクチンの普及と規制緩和に伴い、米国のレストランは次々にその扉を顧客たちに開き始めた。持ち帰りの料理で難をしのいでいた多くのレストランのオーナーたちは、待ちに待った再開店に胸を踊らせたに違いない。そして、解雇してしまっていたウェイターやウェイトレスたちを慌てて雇い直そうとした。

が、彼らの多くは、再就職のために帰ってこなかったらしい。今やレストランはその営業を継続するために戦々恐々だ。規制が緩和された始めた街には、これまで家に閉じこもっていた分まで楽しもうと、人々がくりだし、美しい天気もあいまって、店のパテオでくつろぎ料理に舌鼓をうとうとしているが、そのお客様をもてなすべきウェイターやウェイトレスが足りないのだ。

この自体の原因を、毎週300ドル上乗せされている失業保険のせいにするのは簡単だ。実際にレストランのオーナーや団体は、現政権によりCOVIDに対する経済対策の一環として失業者に支払われている給付金が、これらのウェイターやウェイトレスが職場に戻ってこないことの原因だと叩いているのだが、本当に原因はそれだけだろうか?

実は、パンデミックが始まる前もレストラン業界はウェイターやウェイトレスを見つけるのに苦労をしていた。給料は安く、重労働で、ストレスの高いこの職業は、もともと就職先として夢見るような職業ではない。その上、パンデミックがこの職業の不安定性を非常に明確に表面化してしまった。

昨年、多くのレストランはパンデミックの規制が強化されるにつれ、持ち帰りや配達を中心にした営業に切り替えたわけだが、多くのレストランオーナーたちは生き残りをかけて、多くの従業員を解雇または一時的解雇することになった。あっという間に仕事を失ったウェイターやウェイトレスは、店にとっての自分の仕事の価値を嫌がおうにも知ってしまうことになったのである。

また、料理人の中でもこの現象は起こった。毎日調理される料理の数が減っていく状態の中、全員の料理人を雇い続けるほどの売上がなかった店は、いなくてもなんとかなる料理人から順番に解雇することになる。働き続ける料理人もいる中で、解雇された料理人は、必然的に自分の仕事の価値を目の前に突きつけられた形となってしまった。

その一方で、パンデミックの影響を全く受けずに、バーチャルで在宅勤務し続けるホワイトカラーも多く、その様子をマスコミや人づてにきくにつれ、自分がこれまでやってきた仕事は、賃金が安く、重労働であるだけではなく、こんなにも格差があり、簡単に見捨てられてしまう仕事であることに、多少なりともショックをうけたに違いない。そして、パンデミックが終わったときには、こんな不安定な仕事に戻りたくないと考えたとしても、誰も責めることはできないんじゃないだろうか。

幸いなことに政府からは、失業保険に上乗せの給付金が出ているのだから、これを期に勉強したり資格をとったりして、キャリアアップをしようと考える人がいてもまったく不思議ではない。実際にパンデミック中に解雇になった多くの人々は、もとの仕事に戻る気がないとアンケートに答えている。

また、彼らほど弱い立場にではなかった人気店のオーナーシェフでさえも、規制中に店を維持するのに多大なストレスを抱えていたところに、人種差別反対運動が盛り上がったタイミングで、「Black Lives Matter を応援します」と店のサインに掲げた途端、客の一部から抗議を受けるはめに陥った彼は、さっさと店を閉めてしまった。もう二度とレストランビジネスに手を出したくないと、たとえ人気店であってもレストランというビジネスの立場の弱さを痛感したそうだ。

レストランで働けなかったら他に働く場所がないのであれば、これらの人々はそんなに悠長なことを言っているわけにはいかないが、実際は意外と生き残る道はあるらしい。新しいスキルを身に着けて就職するものもいれば、大手スーパーの中に入っているカフェで働いたり、持ち帰り専門チェーンで再就職している者もいる。新しい就職先に求められるのは、少なくともきちんとした健康保険などの福利厚生が整っていることだ。このような福利厚生は、小さな個人経営のレストランではなかなか用意できない贅沢なので、働くものとして一段上を行く待遇を得られたことになる。

先程出てきた人気のオーナシェフぐらいの知名度とスキルを持っている場合、会社や個人のパーティでの出張シェフとして活躍しつつ、Youtube でお料理番組を配信することにより、レストラン経営よりもずっとストレスの少ない毎日を送れるようになったそうだ。

こんな調子で、多くのレストラン従業員はその業界から離れようとしいる。今やレストランを経営しようとするビジネスオーナーは、顧客のためにベストなレストランでいるだけではなく、従業員のためにもベストな就職先でいなくてはならないことを念頭におかなくてはいけなくなった。

という感じに、パンデミックの影響はこんなところにもある。パンデミックを引き金に、新しいレストラン文化が育ちつつある今、そのうち注文をとったりお料理を運んできたりするのは人間じゃなくてコンピュータやロボットになる日が、実は少し近づいたのかもしれないと思った。

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