FOMOの再発を防止
パンデミック中のFOMO(Fear of missingout)について書いたのは、去年の7月末だ（「パンデミックの中のFOMO」を参照）。FOMOとは、日本語で言うならば「取り残されることへの不安や恐怖」となり、情報化社会が生み出した一種の現代病である。詳しくは前の日記を読んで欲しいのだが、一言で表現するならば、周りと比べて自分が取り残されているのではないかという漠然とした不安を指す。
さて、前回の日記に書いたように、パンデミックとロックダウン生活が人々にもたらしたいくつかの良い副産物の中には、FOMOから解放がある。ロックダウンのため、誰もが外出を避け、パーティを避け、お洒落もしなければ、レストランにも行かない。誰もが同じ様に引きこもっている生活では、自分だけが取り残されるという不安もなく、多くの人々がFOMOから解放されて、他人の視線に映る自分を演出するのをやめ、自分の尺度で自分がリラックスできる暮らし方を発見した。
しかし、パンデミックの収束の流れに伴い、再びFOMOがあっという間に蔓延し始めているのを感じている人もいるんじゃないだろうか。そう、現在最も象徴的なFOMOはワクチンの接種だ。
もし貴方が、SNSやニュースに溢れるワクチン情報に触れたり、知り合いからワクチンを接種した話を聞いたりしているうちに、「周りの人がどんどんワクチンを接種しているのに、自分は取り残されるんじゃないだろうか」という不安に囚われ始めているとしたら、それはFOMOである。それは、ワクチンを接種している人が増えるにつれて、もやもやと薄霧みたいに人々の心の中に生まれてきている。ああ、おかえり、現代病。
米国は現在ワクチンの接種資格者を急速に増やしている。ワクチンの接種資格者が増えれば増えるだけ、ワクチンの予約は取りにくくなっていく。ワクチンの予約が取りにくいだけでも十分にストレスなのに、周りに接種した人が増えるていくと、取り残された感が高まり焦りを感じるのは無理もない。それに加えて、ワクチンを接種した人は、より自由な生活ができるようになるため、外食したり旅行にいく人が増え始め、SNSではパンデミック前の生活が一部戻ってきつつある。となると、本格的にパンデミック前のFOMOが戻ってきて、自分は楽しみから取り残されてるんじゃないかと、不安に思い始めるのもわからなくはない。
でも大丈夫。ワクチンは全員に保証されている。何億人もの順番待ちがあるから、ちょっと時間はかかるかもしれないし、周りの人が自分よりも早く接種して、自分よりも自由な生活を先に始めるかもしれないけれど、だからって焦る必要はない。そういう時には、去年思いがけなくFOMOから解放されて、のんびりしていた頃を思い出してみるといい。
旅行も外食もパーティもイベントもなかったけれど、そういうレジャーはなくても意外と困らないもので、パンデミック以前にあれこれ忙しく遊んでいたのは、周りに影響されていたという側面もあったことに、思いがけず気づいたりした人も多かったんじゃないだろうか。ロックダウンは、立ち止まる暇もなく走り続けるような生活を止めて、自分の身近な人や物をゆっくり眺める時間をもたらした。
思いがけずFOMOから解放されて、精神的自由を獲得した人たちは、今再び現代病に囚われる必要はない。確かにワクチンはなるべく早く接種した方がいいし、接種するために予約をとるのは大事だけれど、それは自分とコミュニティの健康を守ためであって、周りに遅れないようにするためでも、取り残されるのが不安なためでもないようにしたい。
そして、なかなか予約が取れなくても焦る必要なんか全然ない。自分が予約が取れなければ、コミュニティの他の誰かの予約が取れている。そうやってコミュニティでのワクチン接種者が増えていけば、やがてコミュニティ全体がパンデミックから解放される。
よく言われることだけれど、自分が制御できるのは自分のリアクションだけだ。予約が取れないことも、ワクチンの分配が遅れることも、自分では制御できないけれど、それを自分がどのように受け取るかは、自分で制御できる。上手に制御すればストレスを最小限に抑えることもできるし、FOMOからも開放されるのだ。
