パンデミックのファッション
アンディ・マクドウェルがインタビューに出演していたのだが、あのロレアルの宣伝で有名になった黒く豊かなくるくるの巻毛がなんと半分白かった。いや、白とか灰色とは呼ばないでくれと彼女が言っていた。シルバーと呼ばれたいそうだ。
ちにみにアンディ・マクドウェルはすでに60歳を超えているのだが、その見かけは相変わらずセクシーな可愛さがあって、60歳を超えているようには全く見えない。そして、そのシルバーヘアも彼女のキュートな巻毛のせいで、やっぱりゴージャスに見える。
そもそもパンデミックのせいで髪を染めることができずに放置していたのが始まりらしい。娘にクールでかっこいいとコメントされたアンディは、それいいじゃんとしばらく染めないことに決めたそうだ。若い人の間では、平凡じゃないクールなヘアーとして、通称シルバーフォックスと呼ばれる白とグレーが混ざったツヤツヤの髪、手入れを良くしていればまさしく銀狐と呼ばれるにふさわしいそのヘアスタイルが流行っているからである。
アンディの場合は、自然体でいようしているというよりも、自然体でいたらなんだかおしゃれになってしまったという恵まれた人なのだが、実際のところ、米国の女性はパンデミックにより自分の見かけに対する認識が大きく変わったといわれている。
スーツからスウェットに、ヒールからスリッパに履き替えた女性たちは、メイクもあまりしなくなり、ムダ毛処理に時間をかけるのをやめたという人も多いそうだ。特にキャリアウーマンは、もともとプロっぽい見かけにしていないと、男性に甘く見られるからという理由でばっちり決めていた女性も多かった。在宅勤務になったら外見がまったく関係なくなり、仕事の内容だけに集中できるようになってからというもの、これまでいかに見かけにお金と時間を費やしてきたか気づいたという意見が多いようだ。
そういう女性の中には、パンデミックが終わったらまたおしゃれをしたいと思う人と同じくらい、パンデミックが終わっても、もうスーツもヒールも化粧にも戻る気がないという人もいる。そういう人たちは、人にどう見られるかで自分が評価される時代は終わった。これからは自分の心地よいと思える見かけでいることにするという。
パンデミックによって、化粧品業界の売れ筋も大きく変わってきている。売れ行きが大きく伸びているのは、高級石鹸やローションのような・スキンケアを楽しむための商品で、逆に売れなくなったのはいわゆる化粧品、口紅を筆頭にファンデーションやチークなどの売上は落ち込んでいる。想像に難しくないと思うのだが、アイメイクの需要は高まっている。マスクをしたときに唯一表情を見せる目元の化粧は、それなりに需要があるらしい。
仕事はZoomが多くなったので、実際のところ、顔はパンデミック前よりも見せる機会が多くなっているのだが、それでも多くの女性達は以前のようにばっちり化粧をしなくなり、リラックスした状態でミーティングに参加する人が多いそうだ。たぶん人々の仕事に対する認識そのものが変わってきているのかもしれない。今や仕事は外の顔でするものではなくて、仕事と日常生活の境目が曖昧になり、仕事のための外面は必要なくなり、いつも同じようにしていようという流れなのだと思う。
総合すると、沢山の人々が自分自身の姿に対してより心地よい評価ができるようになった、よりリラックスした環境で仕事ができるようになったので、悪い流れではないのだが、化粧品業界やファッション業界にはたまらない流れだ。もちろん、売れ筋商品に力を入れればいいとはいえ、スキンケアと石鹸、スウェットにスリッパに力を入れたところで、これまでのような高級化粧品とスーツやブーツの売上の代わりにはならない。
ヘアカラーの話に戻ると、巻毛のアンディはシルバーヘアーでもとても美しかったわけだが、誰もがああいうわけにはいかないのが現実だ。もともと髪が黒いが普通のアジア人が、シルバーヘアーになると、どうしてもクールには程遠いただの年寄になってしまうような気がしてならない。
しょうがないので、また自分で下手くそに染めようかとため息をつく。いつか、見かけをとりつくろうのをやめて、なにもしていない状態が一番気に入っていると達観できるような人たちの仲間入りをしたいなと、心から思っているのだけれど。