シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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陰謀論者の語る世界を想像してみた

昨日の日記のコメントにワクチンの接種を拒否する人たちの中に存在する根強い陰謀論が紹介されていて、とても興味深かった。コメンテーターの甘栗さんが遭遇した陰謀論は次のようなものだ。

「彼ら(作者注:ワクチン否定論者)にとってワクチンは国家の陰謀なのです。他の人がワクチンを接種してパンデミックを終わらせた後に苦しみながら死亡し、彼らだけが生き残る世界を語って、ワクチンを拒否するよういまだに進めてきます。xファイルの世界に生きているのでしょう。」

これまで聞いた様々な陰謀論の中でも、これはそうとうファンタジックなもので、いっそのこと面白い。映画やテレビドラマのストーリーに非常に似ているので、コメンテーターさんも「X ファイル」を持ち出している。わかる。わかる。

90年代に米国製のドラマに触れていた人の中に「X ファイル」を知らない人はいないだろう。今だにあのテーマソングを折りに触れくちずさんでしまう人も多いだろう。私だ。あのドラマは社会現象といえるほどの大ヒットだった。20年以上たった今でもジョークに使う人がいるくらいで、例えば、私の顧客に当時米国に留学していたヨーロッパ人がいるのだが、仕事上のファイルをわざわざ「Xファイル」と呼んで渡してくる。

知らない人のためにちょっとだけ説明すると、「X ファイル」は1993年から2000年ぐらいまで続いたシリーズ物のドラマで、科学では説明できない超常現象のまつわる事件に、2人のアメリカ連邦捜査局(FBI)捜査官が取り組むというものである。物語はだいたい一話完結なのだが、微妙に完結していないオープンエンディングのエピソードも多い。長期のシリーズものドラマによくあるように、一話完結のシリーズだがその縦軸には、常に「米国政府が隠蔽を続けている異星人との接触・研究施設・解剖などの実験・秘密協定・誘拐事件と被害者の変化・人類の進化あるいは滅亡」(ウィキべデアより引用)というストーリーがあって、壮大な陰謀論が見え隠れする展開となっていた。映像も美しく脚本も秀悦、かつ、みんなが大好きなオカルトと陰謀論を扱っているということで、多くの若者が夢中になった。放映時間に大学構内のテレビのある場所が学生で溢れたくらいだ。

非常に良くできたドラマだったけれど、あのドラマはもしかしたら陰謀論に傾倒する人を増やしてしまったかもしれない。説得力をもたせるために、脚本、セリフ、映像を凝りに凝って作られていたがゆえに、見終わると、これはドラマだけど、もしかして似たような機密が政府にはあるんじゃないかと、現実と仮想現実の境目が曖昧になる人もいたかもしれない。陰謀に気づかずに、目に見える日々をのうのうと暮らしているのは頭の鈍い人たちだという印象をもたせる展開でもあった。

米国で人気のある映画やドラマは、こういう世界観のものは相当多い。社会現象となった「マトリックス」も世界観はそういう話だ。数年前の「オーファン・ブラック」もそうだったし、あげようと思えば実にたくさんの作品が挙げられる。たぶんSFの1ジャンルを構成しているといってもいい。

こういう陰謀論をエンターテイメントと楽しむ分には一向にかまわないのだが、ときにはこれらの作品に埋もれて暮らし、陰謀論の存在を信じたり、愛し始めたりする人が結構いる。このような人々の視点からすると、陰謀論を信じる人は物事を単純にとらえない賢い人間であり、そうでない人々は陰謀に簡単に踊らされる間抜けな人間なのである。

まぬけで結構。まったくもって余計なお世話なのだが、このような陰謀論は、かつては噂話の域をでていなかったのに、インターネットとSNSという現代の神器を得てから、強大な組織化が進んだ。陰謀論はあっという間に拡散され、仲間が形成され、根拠のない証拠が提示される。陰謀論者たちは、ネットワークで集まって、そのエキサイティングなストーリーをより現実的なものとして盛り上げ楽しめるようになった。つまり、たちが悪くなった。

さて、だいぶ横道にそれてしまったが、話を最初に戻すと、コメンテーターさんが遭遇した陰謀論は「他の人がワクチンを接種してパンデミックを終わらせた後に苦しみながら死亡し、彼らだけが生き残る世界」という壮大な陰謀ストーリーなわけだが、このストーリーがいかに非現実的でファンタジックであるかということは、とりあえず横においておいて、もし仮に本当にそういう陰謀が存在したらどうなるだろうと考えてみた。

仮に、「彼らだけが生き残る世界」というのを世界征服を企む人たちが欲していて、そのために「数年後に苦しみながら死ぬようなワクチンを人類に配布している」ことにしよう。この陰謀論を信じる人々は、陰謀を見破っている賢い人達なのでワクチンを接種しない。しかし、陰謀に踊らされている間抜けな一般人は人口の70%ぐらいはいそうなので、数年後には、この70%の人が苦しみながら死ぬとしよう。

残った30%の人たちのうち、多くは陰謀に加担した世界征服者、つまり「彼らだけが生き残る世界」を作ろうとしている人々であり、そうでない人々は彼らに支配されることになる。陰謀に踊らされずにワクチンを拒否した賢い人々は、そのディストピアに生き残ったところでどうするんだろうか?たぶん世界征服者はそういう邪魔者は放ってはおかないから、SF映画や陰謀映画よろしく、あっという間に始末されそうだ。レジスタンスにでもなって、地下に潜り世界征服者と戦うつもりなのだろうか。

ここまで考えて、仮に陰謀によりそのような恐ろしい世界が残るのだとしたら、そんなところに生き残る必要ないじゃんと思った。そんな非人間的な世界で苦しむぐらいなら、いっそのことほかのマジョリティと一緒に死んだほうがましなんじゃないかなと思う。

そんな来るか来ないかわからない不確かな未来を掲げて、他人にワクチンを打たないように説得しようとしたり、場合によっては馬鹿にしたり言い争いをしたりする、そんな必要はなにもない。仮に「数年後に苦しみながら死ぬ」としても、少なくとも今現在、ワクチンは人々の命を救っている。ワクチンを接種することで、自分の命だけでなく、家族の命やコミュニティの命を救っているんだという誇りをもって生きる数時間、数日、数ヶ月、数年には、十分な意味がある。

ということで、陰謀論は映画とドラマだけで楽しんでほしいと常々思っている。

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