シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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アジア系に対する連続事件

なぜこのタイミングなのかよくわからないのだけれど、この数週間の間に、シリコンバレーのあるベイエリアと呼ばれる地域で、立て続けにアジア人差別に根に持つと思われる犯罪が相次いでいる。

今年の1月の末、サンフランシスコに住むタイ人の高齢者が朝の散歩中に、19歳の若者に突き飛ばされ、それで負った怪我が原因で亡くなったのを始めとして、サンフランシスコのチャイナタウンやサンフランシスコ湾の反対側のオークランドでも、アジア系の老人が突き飛ばされたり、強盗に襲われたりする事件が連続で起こっている。

アジア人、アジア系アメリカ人に対する差別は、ウィルス感染が大きく拡大を見せ始めた頃から、米国で目に見える形で増加していた。そもそも、ウィルスが中国で発症した可能性が高いということから、このウィルスを「チャイナウィルス」とか「武漢ウィルス」と呼ぶ人たちが出てきてからというもの、アジア人に対する差別に火がついた。

去年の春、ロックダウンの初期の頃、シリコンバレーの某独立系スーパーマーケットで買い物をしていたアジア系アメリカ人の女性が、後ろに立っているお客さんに、ソーシャルディスタンスを保つために少しさがってもらえないかと丁寧に頼んだのを聞きつけた店員が、彼女に「あんたたちがウィルスを持ってきたんじゃないか!」と難癖をつけ、他の従業員と一緒に「中国に帰れ」と彼女を店から追い立てた事件があった。この事件は、彼女と周りにいた他の客によってすぐにツイッターにより拡散され、このスーパーマーケットは大炎上、最初に絡んだ従業員は速攻でクビになった。

こんな調子で、警察を呼ぶほどの事件ではないアジア系差別事件は、去年年間を通して、米国のあちらこちらで起こっていたのだが、これに油を注ぐように、前大統領が去年の年間を通して、何度も何度も「チャイナウィルス」と公衆の面前で煽るように呼び続けるのをやめなかったのも痛かった。この間、アジア系アメリカ人の30%がパンデミックに入ってから、なんらかの差別を受けた、または差別発言をされたと答えているし、26%が外を出歩くときに危険を感じることがあると答えている。

そんなおり、とうとう前大統領から政権が交代し、現大統領は就任してすぐにアジア系アメリカ人に対する差別を鎮めるための対策をとる大統領令にも署名したので、これで差別事件が収まってくるのかなと期待していた矢先、ベイエリアではこれらの事件が連続して発生ているので残念だ。一部では旧正月を今週の金曜日に迎える中国人コミュニティが、旧正月の用意のためにいつもより現金を沢山持って買い物をしているから狙われているのではないかとも言われている。が、事件のいくつかは強盗だが、いくつかはただ突き飛ばすというだけの単純に傷つけることだけを目的としているものなので、旧正月と関係あるのかどうかはわからない。

100歩譲って、ウィルスが中国から来たことに腹が立っているのは容認するとしても、それと街を歩いているアジア系の老人を突き飛ばすのとは全く別の問題だ。彼らがウィするを運んできたわけでもない。そもそもアジア系のルーツを持つだけで、米国で生まれて育ったアジア系アメリカ人も同様の差別を受けているというのだから、差別をする側の「チャイナウィルス」を持ってきやがって!というのは、ただの言い訳で、本当の差別をする理由はたぶんもっと根深い。

米国では実にいろんな形の差別があり、人種差別はその一つだが、人種差別にもいろいろな種類がある。この夏以降盛り上がり続ける「ブラックライブズマター」は黒人差別問題だが、それとは別に中南米系のラティーノに対する差別もあるし、ムスリム系に対する差別もあれば、アジア系に対する差別もある。アジア系に対する差別に対する話題が若干少ないのは、全人口に占めるアジア系の数が、黒人やラティーノに比べて少ないからなのかもしれない。

日本の人が人種差別と聞くと、白人が有色人種に対して差別をしているというイメージが多いかもしれないが、実は事態はそんなに単純ではなく、むしろアジア系に対して差別事件を起こす加害者はアジア系以外の有色人種が多いような気がする。これはたぶん、一連の移民の中でアジア系は比較的豊かな傾向があり、アジア系だけが他よりも得をしているよう感じらえることがあるからかもしれない。また、アジア系は教育熱心な傾向があり、大学進学率が人口比に比べて高い。それも、一部の白人やほかの有色人種に疎んじられる原因の一つである。

いずれにせよ、普段からアジア系移民に対してさまざまな不満を抱えていた人々にとって、今回のパンデミックはアジア系に怒りの矛先を向けるのにちょうどよかったのかもしれない。それにしても、対象が主に老人だというのが実にいやらしいと思う。明らかに自分よりも弱い存在を攻撃をするという、そこには人種差別だけではなくて、腹が立つから自分より弱い存在に八つ当たりをするという、人間のいやらしい一面が浮き彫りになっている。

若いアジア系アメリカ人たちも黙ってはいない。ボランディアでチャイナタウンをパトロールをしたり、顔の広い人々が集まって差別反対運動の声をあげており、先日の大統領令もこの動きを後押ししている。

米国の人種差別の特徴は、人種差別はどこにでも暗黙的・構造的に存在しているのだが、それが何らかの形で明示的に拡散されると、SNSなどを通してあっという間に袋叩きにあうところだ。米国の都市部では、表面化した人種差別を決して許さない。仕事を持っていれば、即クビになるし、ビジネスを持っていればあっという間に顧客が去ってしまう。社会的に厳しい罰を受けるのだ。

しかし、そのような社会からはみ出てしまった人々にとっては、社会的な罰など気にする必要はない。パンデミックによって、沢山の若者が食を失い、社会的地位を失い、貧しい生活の中ストレスが深まるばかりだ。そんなときに従来から持っていた差別意識にまかせて、腹がたてば差別対象を突き飛ばし、お金を持っていそうなら財布もいただく。そんな風にアジア人の被害者が増えているというのが、実際のところなのかもしれない。

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