シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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社会に見捨てられた人々のヘイトクライム

アジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが広がっている。昨日アトランタで発生したスパ3件の連続発砲事件の被害者8人のうち6人がアジア系アメリカ人だった。3件のスパの経営者が全員アジア人だったことを考えれば当然の結果だ。

現在、犯人がアジア系のスパを狙ったのはアジア系アメリカ人に対する憎悪が根底にあるのかどうかが争点となっているが、現時点でははっきりしていない。すでに犯人は捕まっており、本人はヘイトが動機であるという可能性を否定している。では、なにが動機だと話しているのかとうと、セックス中毒が原因の衝動に駆られた結果だと主張している。なぜセックス中毒が原因でスパを狙うのか、この主張の論理が私にはまったくわからないのだが、そもそも1時間以内に3件のスパで発砲して無差別に8人の人間を殺した人間に論理を求めること事態に無理があるような気もする。

ただ、心理学の専門家によれば、セックス中毒というのは心理的問題による結果として発生する問題行動であることはあるが、セックス中毒が原因となって殺人のような別の問題行動を起こすことは通常ないそうだ。こっちのほうは、なんだかとても納得できる。

というわけで、犯人は否定しているようだが、やっぱりアジア人に対するヘイトが根底にあるじゃないだろうかと人々が勘ぐってしまうのは無理もない。なにしろパンデミックが始まって以来、全米でアジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが広がっている。特に最近は暴力的なものが目立っており、シリコンバレーのあるベイエリアにおいても、毎日のように危険なヘイトクライムのニュースが入ってくる。

今週の月曜日には、サンフランシスコの繁華街で、日中、オフィスからランチを食べに出かけていたアジア系アメリカ人が、突然殴られ瀕死の重傷を負った。彼は幸い命をとりとめ、腫れ上がって開かない両目でニュースのインタビューに答えていた。。失明寸前まで殴られ両目が腫れ上がっている姿が痛々しかったが、彼がそこまでしてインタビューに答えたのは、ヘイトクライムが実際に身近で発生していることを世論に知らせるためだ。被害者が黙っていてはヘイトクライムが広がっていくばかりだ。恐れずに声を上げることによって、米国を揺るがしている暴力の連鎖をなんとかして断ち切らなくてはならないと考えたという。

彼は命をうばわれることはなかったが、残念なことに、ベイエリアでもすでに数人がアジア系アメリカ人を対象にしたヘイトクライムで亡くなっている。そのどれもが、突然街で突き飛ばされたり殴られたりして亡くなったというものだ。被害者と加害者にはまったく面識がなく、被害者は単純にアジア系の見かけであることが狙われた理由だった。

ある記事によると、米国の主な都市における2019年と2020年のアジア系アメリカ人を対象としたヘイトクライム件数を調査すると150%も増えているらしい。例えば、シリコンバレーのあるサンノゼ市の場合、2019年は4件だったものが2020年には10件に増えたそうだ。確かに150%増加している。

さて、誤解のないように書いておくと、人種による差別は米国だけの話ではない。確かに米国には差別がある。アジア系の差別もあれば、黒人の差別もあるし、イスラム系の差別もあるし、ヒスパニックの差別もある。ほかにも数え切れない差別がある。しかし、これは実は世界中にある。私はいくつかの国を訪れたことも住んでいたこともあるが、どの国にも人種差別は結構ある。米国に住んで20年を超えるが、「パールハーバを忘れるな」と怒鳴られたのは米国以外の国にいるときだったというのは、実はちょっと衝撃だった。

ちなみに、日本にもある。米国ではアジア系は一緒にされて差別されることが多いが、日本ではアジア系がさらに細かく分類されて差別される。ときどき「日本には人種差別がありません」と語る人に会うことがあってびっくりすることがあるが、私の知る限り日本にも人種差別はあるし、差別的発言が結構普通に公共の場で発せられることがあって驚くこともある。

という具合に、差別は実は世界中どこにでもあるのだけれど、この話題に関しては米国にしかないと感じるものもある。それは、差別を発端にした死に至る暴力や発砲事件だ。こちらのほうは、これまで行ったどの国でも米国のような例はあまりない。特に発砲事件は米国の一つの特徴だ。

なので、個人的には米国にはヘイトが多いのではなくて、ヘイトを原因とした死傷事件が多いのだと考えている。それは、米国の銃規制がゆるゆるであることも原因の一つであるし、人の命を奪うほどの暴力的な衝動に駆られる怒りや不満を抱えて生きている人間が多いことも原因であるように思える。また、ストレス過多な生活の中でそれだけ精神的に追い詰められて病んでいる人間が多いことも原因であるような気がするし、必要な助けを得られず生きることに絶望して暴挙に走る人間が多いことも原因であるように思える。どれを原因にしても、そこには米国の闇があって、個人主義と自己責任を追求し続けた結果、あまりにも生き辛くなってしまった社会で見捨てられてしまった人々の怒りがそこで渦巻いている。

パンデミックはこの生き辛さと怒りに油を注いでしまったのだと思う。パンデミックにより経済が停滞し、生活が苦しかった者ほどより苦しくなったと言われている。ドラッグ中毒から抜け出すためにソーシャルワーカーのサポートを受けていたたくさんの患者が、ロックダウンによって一時的にサポートをうけられなくなったという記事もあった。

社会から見捨てられてしまったと感じる人々が、投げやりな怒りを何にぶつけるかは様々だ。ショッピングモールや学校で銃を乱射する者もいれば、議会を襲う者もあり、家族に矛先を向ける者も、自分自身に銃口を向ける者いる。アジア系アメリカ人への嫌悪も、そんな対象の1つであり、残念なことに前大統領は湧き出したその流れを断ち切るどころか、むしろ促した。流れが速く大きくなれば、思考力を失っている怒りは簡単に流れに乗ってしまう。

その結果が、現在毎日のようにニュースを揺るがしている過激なアジア人ヘイトクライムの元凶なのかもしれないなと思った。

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