シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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隔離生活とクオリティオブライフ(ティア1)

周知のようにパンデミックで多くの犠牲者を出ているのは60歳以上の人々だが、特にケアホームでの発生するクラスタは深刻だ。ケアホームでのクラスタは死亡率が通常よりもずっと高くなってしまう。それを踏まえて、多くのケアホームでは、外部からの訪問や面会を禁止にしたり、人が集まるアクティビティを減らし、施設ごと完全に隔離することでリスク管理をしている状態だ。

そのようなケアホームの入居者と窓越しに手を合わせる家族の写真や、分厚いビニール越しになんとか会話ができる面会をしている写真が、ニュースにはあがっている。

ほとんどの施設は全力を尽くして入居者の命を守ろうとしてる。が、実はそこには大きなジレンマがある。入居者の命を守ろうとすれば守ろうとするほど、施設におけるシニアたちの生活は無味乾燥になり、クオリティオブライフが著しく下がってしまうのだ。

パンデミック前は、毎日のように様々なアクティビティが催されて、家族や友人や近隣の学校の生徒達の訪問で賑わっていたケアホームは、パンデミックの隔離体制が始まると同時に、外部からの訪問は許可されなくなり、入居者はほとんどの時間を自室ですごすことになり、生気のない静寂がケアホームを包み込むことになってしまった。

ケアホームに入る人たちは、肉体的または精神的になんらかのサポートが必要だから入居している。本当ならば最後の時まで、家族や友人と過ごしたいと思っていた人がほとんどだろう。だからこそ、家族や友人たちは訪問して、入居者の寂しさを少しでも取り除こうとしたり、日々の生活に張りをもたせようとする。最後の時まで可能な限り幸せを感じられるように過ごしてもらおうとする。

家族が面接ができなくなったとき、認知症などを患っていた場合、なぜ面接ができなくなったかを合理的に理解するのは難しいだろう。

ある女性は、入居している夫との面接がかなわないために、入居先のケアホームの皿洗いの仕事に応募して就職したそうだ。彼女は、「愛する人が孤立した状態で死んでいく」のを受け入れることができないと言う。

また、ある女性は、パンデミック前は90歳の母親と面会のたびに一緒にポエムを読んで過ごしていたのだが、ロックダウンとともに会うことができなくなった。ビデオ通話をしてみようとしてもうまくいかない。最近になって、ようやく分厚いビニール越しの面会がかなったのだが、数ヶ月の間に母親はすっかり衰えており、ほとんど話すこともしなくなっていたという。彼女は、面会できない間、母親は捨てられたと感じたんじゃないだろうかと、やりきれない思いに苦しんでいる。

ケアホームが感染拡大を発生せず、入居者が生き残ることは疑いようもなく重要だ。けれども、それによって、入居者たちのクオリティオブライフが下がり、孤独と悲しみのなかで人生の最後の日々を送ることになるとしたらどうなんだろう。パンデミックはいつまで続くかわからず、彼らの生命はパンデミックが収束する前に燃え尽きてしまうかもしれないのに。

世界26カ国の平均データによると、パンデミックに関連する死亡者のうち47%がケアホームの入居者だそうだ。それほどまでに、ケアホームの感染率と死亡率は高く、米国ではケアホームをパンデミックのグラウンドゼロと呼ぶほどだ。

現在、ケアホームは悲劇の舞台だ。そこでは、感染でたくさんの人が亡くなっている。そして、生き残っている人々も、通常なら受け取れるはずだったクオリティオブライフを予告なく理不尽に奪われた寂しい生活に耐えなくてはならない。

そして、ケアホームの外、入居者の家族たちもそのジレンマに苦しんでいる。

 

 

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