シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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水を得た魚

この日記を長く読んでいる人ならば知っていることだが、私はファウチ博士が好きだ。ファンだといってもいいぐらいかもしれない。

80歳という年齢を感じさせない、エネルギッシュな姿勢を尊敬しているし、科学的な解説を難しい言葉で煙に巻くようなことはせず、わかりやすく解説できるところも素晴らしいと思っている。そして、なによりも自分の好きな仕事と与えられた使命のために、一日の時間をほぼ使い果たしているというちょっとオタクっぽいところが良いなと思っている。科学を愛する科学者だなあと思わせる人だ。そして、そんなところが、彼が多くの人々に信用される理由だと思う。彼のように、好きな科学と仕事に時間を費やすことこそが人生の意味だと感じている人は、それに関して嘘を言う必要などない、というか、嘘を言うことはできないだろうと思わせるのだ。

そんなファウチ博士はパンデミックの初期にホワイトハウスのコロナウィルスタスクフォースの会見に立つたびに、国民の信頼を積み重ねていき、次第にちょっとした人気者になった。特に前大統領が、間違ったことを口にした時に、その後に躊躇せずにやんわりと間違いを訂正する態度がメディアに注目された。素人が聞いてもトンチンカンだと感じる主張を繰り返す上司を恐れずに、その言動をなんとか正そうとする部下のようだった。彼の人気はうなぎのぼりで、とうとうブラッド・ピットがサタデーナイトライブで彼のモノマネをしたり、ワシントンのプロ野球チームナショナルズのファーストピッチに招かれたぐらいだった。

そして、ちょうどその頃ぐらいから、前政権のファウチ博士に対する風当たりは強くなり、彼のメディアへの露出は目に見えて減っていった。ホワイトハウスでの定例会見はなくなり、たまに行われるタスクフォースの会見でも、中心人物のはずの彼の姿を見かけることは減って、たとえその場にいることがあってに話す機会を与えられることはなかった。

代わりに、民間のメディアや有名人のSNSのインタビューなどで、ファウチ博士が見かけられるようになった。しかし、どうやらそちらの露出内容もホワイトハウスから相当厳しく制限されていたらしく、毎日のように彼を見ていたにも関わらず、繰り返される情報があまり多くなかった。そんな状況でも、多くの人はファウチ博士がメディアで語る情報を逃すまいとしていたと思う。

今日、ファウチ博士は、本当に久しぶりにホワイトハウスの青いサインをバックに会見の壇上に立った。それも一人で立った。後ろにも横にも彼にプレッシャーをかけるように立つ者はいなかった。あまりに久しぶりに見るホワイトハウスでのファウチ博士の姿が、とても嬉しくかった。

ファウチ博士はとてもリラックスした様子で、記者の質問に生き生きと答えていた。ときどき笑いを交えながら、記者たちが聞きたい情報を簡潔に話してくれていた。その様子は、まるで10歳ぐらい若返ったようだった。

記者が前政権と現政権との働く上での違いは何かと聞かれたときに、彼は科学に基づいて知っていることを話せるので、自分は「解放」されたと感じると答えた。そして、現政権が前政権と大きく違うことは、わからないことがあれば、わからないと言うところだ、といったその顔は明るかった。政治という名の網に囲まれたぬるい水の中で動きづらそうにしていた魚が、フレッシュに澄んだ水に放たれてすいすいと泳ぎだしたようだった。

今後、彼が私達に運ばなくてはならないニュースたちは、決して明るものばかりではない。が、彼が運んでくるニュースを聞けると思うと、それだけでも安心する。これからは、ホワイトハウスの会見で、ぎょっとすることも、腹立たしくなることも、首をかしげることも少なくなるだろう。悲しくなることやがっかりすることは、なくならないだろうけれども、それでも、正しいデータと状況を伝えてもらっていることは重要なのだ。

ファウチ博士は、今日の夜明け前からWHOの会議に出席していたそうだ。米国は昨日、バイデン大統領の初日の大統領令でWHOからの脱退を撤回したところだ。早速、翌日、会議に出席したファウチ博士は、米国はほかの富裕国と共に、貧しい国へのワクチンの配布に協力することを表明した。

ああ、米国が帰ってきたなと思った一日だった。

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