シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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シリコンバレーにもたらされる変化

今日、私にとってのショッキングなニュースは、感染拡大よりも、とうとう承認されたワクチンよりも、選挙がらみ法廷闘争の動きよりも、オラクルの本社がシリコンバレーからテキサスに移転するというニュースだった。

20年前に私がシリコンバレーに流れ着いたとき、巨大なデータベースシリンダーの形をしたピカピカ光るオラクル本社のビルは、シリコンバレーの象徴の一つだった。あの頃のオラクルは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中で、ビルと同様に製品も開発者たちも輝いていた。設立者のラリー・エリソンの変人エピソードはことかかず、彼は Apple のスティーブ・ジョブズと並んでシリコンバレーのキング的存在だった。

あの頃、オラクルはまだ企業買収を始める直前で、既に十分な名声を手に入れていたが、今ほど巨大ではなかった。データベースによる技術が非常に高く評価されて、市場をほぼ独占状態で疾走していた。シリコンバレーといえば、Apple、Oracle、Intel、AMD、HP、Netscape、Adobe などなどといった具合に、必ず名前を挙げられていた。そんなオラクルが2000年初期から企業買収を始めると、シリコンバレーの名のある中小企業がどんどんとオラクルに買われていった。

Sunが買われたときは、シリコンバレーの住人は嘆いたものだ。あのSunがOracleに買われたって!そのちょっと前に、Sunの本社ビルのてっぺんについていたSUNの文字のSの文字が壊れて逆さになっていたことがあって、「沈む太陽(SUN)か」などど感慨深く思ったものだ。

そんな企業買収が何年も続いて、とうとうオラクルは世界第二位のソフトウェア企業になった。が、私は今のオラクルには20年前のあのキラキラを感じない。それは私がシリコンバレーに長く住みすぎてオラクルの存在に慣れてしまったからかもしれないし、もしかしたら、企業としてのオラクルはやっぱりすごいのだが、技術的には成熟しきっていて新しさのない技術になりつつあるのかなと感じるからかもしれない。

それでも、オラクルがシリコンバレーからテキサスに引っ越してしまうというニュースは寂しすぎる。それも、つい先月、HPの本社もシリコンバレーからテキサスに引っ越すのを発表したばかりだったので、二重の衝撃なのである。HP もシリコンバレーで始まったシリコンバレーを象徴する企業の一つだ。近年、企業的にも製品的にも成熟しきって、オラクル同様、シリコンバレー独特のワクワク感はなく、影響力は低くなってきている感はあったが、それでもいなくなると思うとがっかりする。

もちろん、彼らは本当にいなくなるわけではなくて、支社としてはシリコンバレーに残り続けるわけだが、本社がいなくなるということはシリコンバレーの企業ではなくなってしまうということだから、地元としては本当に寂しいの一言に尽きる。

なぜこのような大型企業のお引越しが次々に発表されているのかというと、実はこれはパンデミックと関係があると考えられている。もともとこれらの企業は、テキサスへの移転を考えていたには違いないのだが、多くの技術者がシリコンバレーに集まっていることを考えるとなかなか決定できないところもあっただろう。そこにパンデミックが発生し、技術者どころか営業やサポートに至るまで、すべてが在宅ワークになってしまった。さて、数ヶ月に及ぶ在宅ワークによるビジネスを続けた結果、彼らは誰もが気がついたことに気づいてしまったのである。場所って関係ないね。これって、カリフォルニアにいる必要ないよね、と。

通信技術の発達により、今やソフトウェア開発は、在宅ワークでも問題なく進むことが判明した。これにより、技術者が企業のオフィスの近くに居住していなくてはいけない理由は激減してしまったのである。たくさんの技術者が、パンデミックが終わった後も毎日オフィスに通勤することはなくなるだろうと言われている。この前代未聞の労働環境の大転換を受け、適用力の高いシリコンバレーの人々は、これってどこからだって働けるじゃんとシリコンバレーから引っ越していると言われているが、同じ理由で企業だって引っ越すことができるのだ。

では、なぜテキサスのなのかというと、テキサスは税金が安い。法人税の税率も低いし、個人所得税に至っては0%だ(これはあくまでも州税の話で、連邦政府の税金はテキサスの人もちゃんと払っている)。この税金の低さは、企業にも技術者にも魅力的なはずだ。そのうえ、不動産が安い。家の価格に至ってはシリコンバレーの3分の1ぐらいの価格で、シリコンバレーよりも広くて立派な家が変えるらしい。ということは、企業は、技術者の給料をそれに合わせて抑えることもできる。企業にも個人にもwin-winの環境だ。

そして、テキサスは企業に対する規制がゆるい。税金が安いのは、テキサスが小さい政府を目指す州だからだ。基本的に個人にも企業にも厳しい規制はかけない政策は、特に大企業を運営する側としては相当ありがたい環境なのだと思う。

とにもかくにも、パンデミックがHPとオラクルの移転への決断に拍車をかけたのは多分間違いない。これ以外の中規模の企業もいくつかテキサスに移転しているし、スペースXやテスラで有名なイーロン・マスクも自宅をテキサスに移転していることを考えると、将来的には彼の企業もテキサスに移す気があるのかもしれない。

こうやってシリコンバレーを去っていく企業があるのはさみしいことだが、もともとシリコンバレーの栄枯盛衰は激しく、10年前に一斉を風靡した企業が今は影も形もないなんてこともざらなので、これもその一環だと思って受け止めることにしよう。

パンデミックとロックダウンは、私達に予想もしない副作用を次々ともたらしているようだ。

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