シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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重なる災害、乗算の被害(規制緩和フェーズ2)

先週の日曜日カリフォルニアを襲った数千もの稲妻が放った山火事は、収まるところを知らない。カリフォルニア全土で大小500件以上もの山火事が現在も燃えている。

サンフランシスコの北、ワイナリーで有名なナパ周辺の山火事はカリフォルニア史上2番目の規模、シリコンバレーの都市サンノゼの東南で燃え広がっている山火事はカリフォルニア史上3番目の規模だと報道されているが、これに加え、シリコンバレーの西側でも規模は小さめだがたくさんの避難者を出しているサンタクララマウンテンの山火事が燃え続けている。

ナパ周辺の火災は少し遠いとはいえ、シリコンバレーはこの3つの山火事を繋げるとできる背の高い三角形の中にすっぽりと収まってしまう位置にあり、これらの火災により、現在世界一空気が汚染されている場所になっている。加えて、サンノゼ東南の火災はあまり遠くないうえに、山を降りてこれる位置にあるので、風向き一つでシリコンバレー周辺に広がる郊外の住宅に届く可能性もある。西側のサンタクララマウンテンの山火事も遠くない。幸いなことに山の向こう側なので、そう簡単にはこちらまでこないとは予想できるが、強風が吹いたりしたらなにがおこるかわらない。

山火事だから、空気汚染以外は人々の生活にそれほど影響がないと思うかもしれないが、実はこれらの山の中にも人が住んでいるし、街もある。普段や自然の中に暮らしていてうらやましいと思う素敵な別荘風の家々、彼らの生活拠点になる小さく可愛らしい街、それらの場所で次々に避難命令が出され、現在避難している人数は10万人を超えているそうだ。

パンデミックと大規模な山火事、この2つの歴史的災害をまともにくらっているカリフォルニアの被害は、2つの被害の単純な足し算ではすんでいない。

山火事の鎮火に時間がかかる理由の一つは、パンデミックによる山火事の消火スタッフの不足だ。これは実に複雑な経緯なのだが、カリフォルニア州は毎年、投獄者の一部を山火事の消火スタッフとしてリクルートして訓練している。命をかける危険な仕事をコミュニティのために遂行するということで、幾分かの報酬が支払われ、受刑罪を軽くしてもらえる。しかし、今回の山火事では、これらのスタッフが1000人近く足りない状態だ。カリフォルニア州のパンデミックは複数の刑務所で大規模にブレイクしてしまい、その経緯で受刑者は現在完全に隔離状態なのだ。

ただでさえ、500件の山火事を処理するには消防士が足りないところにきて、パンデミックによる予定外の人員の不足により、消防員はそれぞれの火事に広く薄く配置されている。効率的な鎮火のためには全然足りないレベルらしい。そこで、ニューサム州知事は、周辺の他州に協力を要請しており、すでに他州からカリフォルニアに向かっているのだが、いつ到着するのかは未だわかっていない。それでも足りないと判断されているので、現在ニューサム知事はカナダとオーストラリアにも協力を要請している。国境が閉鎖寸前のパンデミックの中、彼らはカリフォルニアを助けに来てくれるのだろうか。来てくれれば、カリフォルニア民は多いに感動して感謝するだろう。

避難民の方に話をふると、パンデミックによりソーシャルディスタンスを守るのように言われてきた住民が、今は避難所に避難するように要請され、ジレンマに苦しんでいる。ソーシャルディスタンスは、できるかぎり家に留まり他人との接触を避けるようにする要請であり、避難要請は、家から出てきて避難所で集まれてという要請だ。この全く相反する2つの要請の間で住民は混乱している。

混乱しているといっても、火事は現在進行形で危ないから避難すればよいじゃないかと思うかもしれない。しかし、避難要請というのは、火事がそれほど近づいていない状態でもだされることがある。となると、感染リスクの高い避難所に行くのを恐れて、ぎりぎりまで家に留まっていようとする人々が、通常より多いのは容易に予想できる。それで、逃げ遅れることがあってはならないと、警察や消防署が呼びかけている最中だ。

しかも避難する家族の中には、高齢者や基本疾患を持った人などの感染リスクの高い人がいるかもしれない。知り合いにウィルスで亡くなった人がいるかもしれない。そういう人たちにとって、沢山の人が集まって暮らす避難所に行くのは、相当な恐怖とストレスだろう。どんなにソーシャルディスタンスに気をつけていても、トイレや洗面所は共用なのだ。

州政府もいろいろ考えていて、避難所はなるべく家族ごとに隔離できるように、キャンプ場やモーテルのような場所を選んでいるようだが、10万人の避難民全員に対してそのような対応はできない。食事も普段の避難状態なら、ビュッフェ形式ですむのだが、パンデミックの今、すべての食事は個別包装が必要だ。パンデミックの最中の避難は、普段の避難とは違うのだ。

避難している人々は、感染リスクに怯え、自宅が燃えていしまっていないかどうかに怯え、今後の生活に不安を感じながら、燃え盛る山火事のニュースを見ているのだろうと思うと心が痛い。せめて、この避難から感染クラスターが発生しないことを祈るばかりだ。

そんな事を言っている間に、今週末も落雷の可能性があるというニュースが入ってきた。煙越しの太陽が作り出す黄色い世界をみながら、人の心配をしているだけではなく、自分の心配もしたほうがよいらしい。

 

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