シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ICUゼロの領域が発生中

カリフォルニアの感染拡大が止まらない。本格的に再ロックダウンが始まってからまだ一週間もたっていないのだから、今週中には感染拡大の勢いが止まらないことはわかっていた。たぶん来週も止まらないだろう。

しかし、わかっているのと、それを実際に目にするのとでは、そのストレスはぜんぜん違う。カリフォルニアの感染者数も入院者数も死者数も、その増加の勢いがまったく弱まらない。グラフはシャープに右肩上がりだ。これが、このままもう一週間は続くのかと思うと、しばらくニュースを見るのをやめようかなという気分になってしまう。なんの解決策にもならないけれど、ニュースを見なければ少なくとも精神の平穏が保たれる。

別に感染しないように閉じこもっていればいいといえば、その通りなのだけれど、やはりニュースを通して生々しいレポートや一日で亡くなった人の数を知ると、まったく知らない人の話であっても心が痛むし、どうにかならないのかというフラストレーションが溜まってしまう。ニュースを読んでいるだけでそうなのだから、実際にケアにあたっている医療関係者の心労は図りしれず、そのことを考えるとまた胸が痛む。

現在、カリフォルニア州は、州を5個の領域に分けて、その領域内のICUの残りベッド数が15%以下になった領域からロックダウンすることになっているのだが、5個の領域のうち3領域は既に今回定められた Stay at Home 規制の適用レベルにまでICUベッド数が残り少なくなっている(下の地図に水色の領域がすでに15%以下の領域)。そして、とうとう今日、カリフォルニア中部のSan Joaquin Valleyと呼ばれる領域のICU残りベッド数が0%になってしまった。つまり、この領域にはもう使えるICUベッドがないということだ。

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もちろん、臨時のICU設備を用意するなどの対応は進めているのだろうが、とうとうパンデミック当初から恐れていた医療崩壊の足音がすぐ近くまでやってきた感がある。現在、病院の駐車場にテントなどを張って、COVID以外の患者を移すなど、今後のさらなる患者数の増加に備えて対応中だ。

ちなみに、シリコンバレーはBay Areaと呼ばれる領域に属していて、現在のICU残りベッド数は17.6%だが、この領域は15%に達していないにもかかわらずほとんどの郡がボランティアでロックダウンに入っている。15%まで待っていたら、現在のSan Joaquin Valleyのような状態にあっという間になってしまうだろうという郡の保健局の英断だと思っている。もちろん、ロックダウンの影響をもろに受けるレストランやパーソナルサービスのビジネスオーナにとっては、英断だとは考えられない苦しい選択ではあるが。

そもそも、これだけの感染拡大状態が蔓延しているのにも関わらず、連邦政府からの支援金がおりない。十分な支援があることがわかれば、人々はビジネスを休むことも、仕事を休むこともでき、これほどの反発もなくロックダウンを受け入れることができるだろう。しかし、残念ながら連邦政府からの支援金はもう3ヶ月以上も議会での合意が得られず人々の手元におりてこない。その上、ホワイトハウス運営は1ヶ月以上前の選挙結果を未だ受け入れることができずに闘争中で、パンデミックへの対応ははっきりいってなにもしていない。

というわけで、ロックダウンを受け入れることができない人々がたくさんいる状況での今回のロックダウン規制なので、もしかしたら2週間たっても感染拡大は思ったほど収まらないかもしれない。そのようなことが発生したら、ここBay Areaでさえも、ICUゼロの日が今年中にもやってくるかもしれない。そうならないことを願うばかりだ。

ICUゼロというのはどういうことかというと、ICUが必要な病状の人が、必要なケアを十分に受けられない可能性がでてくるということだ。それにより、助かるかもしれない人が助からないという状況が発生して、死亡率が上がっていく可能性が高い。9ヶ月の経験と知識で下げた死亡率が、その経験と知識を活かせない状況に追い込まれることによって上がっていくという、なんとも歯がゆい状況に到達してしまう。

そして、その原因は、人々が単純な規制を守らなかったからなのだ。マスクをすること。ソーシャルディスタンスを保つこと。一緒に住む家族以外とは集まらないこと。集まる時はマスクとソーシャルディスタンスを保つこと。パーティに参加しないこと。旅行をしないこと。どれも、そんなに難しい規制ではない。仕事のために外に出なくてはいけない人たちもいる。コントロールが難しい幼い子どもたちもいる。でも、それ以外の人達には決してそれほど難しいルールではなかったのに、それが守られなかったために感染が広がり、今や、病院では死ぬ必要がなかった人が死んでいくかもしれないという瀬戸際にたたされている。

今日読んだ記事で印象的だった言葉がある。米国のサイコロジストの言葉だ。

「パンデミックは公共財(Public Good)の問題なのです。公共財の問題というのは、社会の全員にからなずしも影響を与えることはないが、その問題を解決するにはその社会に属する全員の協力が必要になります。

公共財の問題というのは、通常、その解決を個々人の意志に託すことはできません。たとえば、税金を払うことが、政府やコミュニティサービスを運営し社会的な問題を解決していることがわかっていたとしても、税金を個人の意思に託して寄付で集める社会というのは存在しません。なぜなら、税金がどんなに役に立っているとわかっていても、個人の意思で税金を払う人はいないからです。」

公衆衛生ルールに従うことがパンデミックの拡大を止めることができるとわかっていても、自分自身に直接的な影響がない限りは、公共の利益よりも個人の欲求に従ってしまう。だからこそ、個人の良心や意思を頼りにしていては、パンデミックは解決しない。

自由意志に任されたとき、全員が私的にベストな選択よりもコミュニティのためのベストの選択をするということは、残念ながら、通常の人間界ではあまり多くないのだ。

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