シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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在宅ワークの影響(規制緩和フェーズ2)

シリコンバレーを代表する企業の1つであるGoogleが年末までの予定だった在宅ワークのオプションを来年の6月までに延長した。これは、TwitterやFacebookが在宅ワークオプションを永久に設定したのとは違って、あまり明るいニュースとはいえない。なぜなら、パンデミックの現在の状況から見て、来年の6月ぐらいまでは普通の状態には戻らないだろうという予測が、この延長決定の基盤にあることが明白だからだ

実際のところ、ワクチンの開発には楽観的なファウチ博士も、ワクチンは来年の初めぐらいには開発されるだろうが、それが人々に行き渡るのにはその後数ヶ月かかるだろうと コメントしたばかりだ。わかっていたこととはいえ、この状態がまだ一年近く続くのかと思うと憂鬱にならない人はいないだろう。

それにしても、TwitterやFacebookのように今後永続的に在宅勤務を認める会社が出てくる一方で、GoogleyやAppleのように在宅ワークの期限を定め、状況をみながら延長していく会社もある。また、規制に違反しないところでは、ソーシャルディスタンスを定めることにより交代でオフィス勤務を始めている会社もある。

ロックダウンが始まった当初、シリコンバレーは実にスムースに在宅勤務体制に移行し、大きな混乱も空白もなくビジネスを継続できたため、今後在宅ワークという働き方が一気に加速するのではないかという予想が立っていた。しかし、実際は、永久に在宅ワークという働き方を承認した会社はほんの一部で、多くの会社は社員にオフィスに戻ってきてほしいと考えているらしい。特にスタートアップ企業にはその傾向が顕著だ。

そもそも、ロックダウンの不安の中で在宅ワークに移行した3月、多くの従業員は仕事を失う危機感を持っていた。よって、在宅ワークに移行したときも生産性を落とさないように最大限の努力をし、たぶん普段よりも必死で働いていた。その結果、各企業のトップは在宅ワークにおける生産性に大いに満足したに違いない。しかし、時がたつにつれ、様々な弊害が可視化されていく。

たとえば、オフィスにいれば相手の席までちょっと行って聞けばいいような要件まで、ミーティングをスケジュールしたり、メールやテキストでやりとりしなくてはいけないためタイムラグが生まれ、必然的に生産性がが落ちてしまい、計画した時間内に製品が納品できなくなった企業がある。また、採用された社員のトレーニングも、以前なら周りの席の人に教えてもらえたような単純なことまで、すべてをトレーニング化しなくてはならなくなったため、効率が悪くなった。それから、シリコンバレーに多いスタートアップ企業というのは、社員が集まってガンガン意見を交換し合う熱量とチームとしての推進力が成功の一つの鍵なのだが、顔を合わせて笑ったり騒いだりしながらやるのと、リモートで画面越しにやるのとでは、やはり同じ熱量を発揮するのがむずかしい。実際の製品や設計を目の前にして顔を突き合わせて仕事をすることには、やはり意味があるという結論にたどり着く企業がでてきたのだ。

というわけで、思ったよりも社会の完全在宅ワークへの移行は進みそうにないが、たぶん、週に何日かはオフィスで、他は在宅でという働き方には移行していくのではないかと見られている。しかし、それもこれもパンデミックが収まりワクチンが普及した後の話で、その前はシリコンバレーのほとんどの在宅ワーク可能な企業はGoogleの決断に追従して在宅ワーク期間を延長すると思われる。

さて、現在のような在宅ワークが続くとあちらこちらに影響がでてくるるわけだが、良い影響は、通勤渋滞が減り空気がきれいになったことだ。また、家族と過ごす時間が増えて、従業時間も柔軟性が高くなり、これまでできなかった家族へのサポートができるようになった人も多いだろう。

明らかに悪い影響としてあげられるのは、オフィス街で営業していたレストランやコーヒーショップへの打撃である。彼らは顧客の8割以上を失ってしまった。ランチや休憩に訪れる客だけではなく、オフィスから注文をうけて配達していたケータリングサービスも壊滅的だ。このまま、社員が戻ってこなければ、彼らは店を閉めるか移転するしかない。オフィス客をターゲットにして出店した彼らにとっては、まさに降って湧いた不運である。

そして、もう一つ大きな影響を受けているビジネスがある。スーツやオフィスカジュアルを専門にしている服飾店や、ハイヒールやハンドバッグのブランドである。オフィスにいかなくなった今、多くのオフィスワーカの生活は大きく変化した。これまで、オフィスに行くためにスーツやジャケットやネクタイを身につけていた男性も、洗練されたアウトフィットにハイヒールやハンドバッグをコーディネイトしていた女性も、今や朝起きたら、リラックスした部屋着やアクティブウェアに着替えてさっさと仕事を始めてしまう。オンラインミーティングがあったとしても、スーツを着てオンラインミーティングに出る人はいない。チームミーティングなら部屋着のままだろうし、お客様とのミーティングだって、上着だけきちんとしていればよいのだ。もちろんハイヒールもハンドバックもクローゼットから出てくる機会はない。というわけで、オフィス系の服飾店やブランドの営業状況は散々で、店舗を大幅に減らしていたり、倒産も視野にいれているところがいくつもある。

代わりに、部屋着になるような楽なカジュアルウェアやアクティブウェアを専門とする店の売上は大きく伸びているのが、いかに人々の生活様式が変わったのかを象徴している。ちなみにシリコンバレーはオフィスで働く人の服装がカジュアルで有名だが、さすがにジーンズにTシャツぐらいは来ていた。スエットやエクササイズウェアで出勤する人は少なかった。いなかったとは言わないけれど。

ふと思ったのだけれど、来年のどこかのタイミングで、ワクチンが普及して、これまで在宅ワークを推奨していた会社から、オフィス帰還の号令がかかったときに、社員たちはきっと慌ててオフィスウェアを買いに行くんじゃないだろうか。一年以上におよぶユルユル服の在宅ワークのおかげで、以前に来ていたオフィスウェアがすっかり着れなくなってしまっていて。

そうだ。在宅ワークのもう一つの悪影響はたぶん体重の増加だ。

 

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