シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

姉妹サイト「シリコンバレーをよむ」もぜひご訪問ください

どうしようもなく懐かしい(ティア2)

住人がコンピュータ関係の仕事をしているせいもあって、この家はオタク傾向が高い。各々が大きなワークデスクの上に自分のコンピュータとディスプレイを複数台所有していて、暇さえあれば自分のデスクに向かってなにかをしている。仕事や勉強をしていることもあるけれど、趣味に没頭している時間も相当に長い。加えて、バーチャルリアリティを含めた最新のゲーム環境まで充実しているこの家においては、ロックダウン生活は実はそれほど無理がないものだった。

むしろ、渋滞に巻き込まれてオフィスに出勤しなくてよくなった者、学校にいかなくても Zoomで授業をうけられるようになった者は、楽になったと喜んでいる傾向がある。ティーンですら、友人にはオンラインゲームで会えるし、新しい人にはバーチャルリアリティの世界で会っているので、ちっとも不便を感じず楽しく暮らしている言う。

我が家においてロックダウンによって奪われたものは、主に娯楽と社交であり、生活に必要なものは失われていはいない。その娯楽と社交でさえも、コンピュータとネットワークがあればある程度は代替が可能だ。そうやって暮らしてみると、いままで結構必要がないことや、なくても困らないことと一緒に暮らしてきたことがわかってくる。

友人と集まって過ごす時間は懐かしい。美味しいものを食べに行くのも懐かしい。旅行に行くのも懐かしい。食料品以外のショッピングも懐かしい。しかし、どれもこれも、どうしようもなく懐かしいというほどではなくて、手に入る代替手段でそれなりになんとかなるもんだなと思う。

映画はストリーミングでいくらでも見れるから、懐かしいのは大画面とポップコーンぐらいだし、友人とのお喋りだって、チャットやオンラインミーティングで結構こなせてしまう。パーティやキャンプや旅行は確かに代替が聞かないけれど、やらなければやらないで準備にかかるストレスや労働が減ったために楽になった側面も見逃せない。パンデミック前の生活は、むしろいろいろやりすぎだったかも、と思ってしまうくらいだ。

という風に、特に不満もなく毎日を暮らしを続けてきたわけだけれど、実は今日、どうしようもなく懐かしいものを見つけてしまった。

今日は、オンラインストリーミングで、ミュージカルの舞台を見ていたのだが、やはりライブの空気感はどうしても画面では伝わってこない。それでも、内容は十分楽しめる。いや、むしろカメラワークがいい分、劇場の安いチケットの席よりもよく見えているのは間違いないし。まあ、これはこれで十分楽しめるなと観ているうちに、舞台が山場がやってきた。

歓声と拍手がわきおこり、カメラが観客で溢れる客席を映し出した。赤いベルベッドの席にぎっしりと詰まった観客たち。一階席も二階席も、なんの不安も感じることなく隣の人と肩が触れるぐらい近くに座っている観客たち。何百人、何千人の人々が、舞台を観て歓声と拍手を共有している。

ああ、これはどうしようもなく懐かしい。混雑する劇場、人と肩が触れ合うくらい近くに座る客席。他人と近づきすぎることを恐れる必要がない場所。あの客席に座りたいと思った。

来年、ロックダウンが完全に解除されることになったら、できるだけ早く劇場に行こう。演劇でも、ミュージカルでも、コンサートでも、なんでもいいから、あの客席に座って、舞台に拍手を贈りたい。

ショッピングはオンラインのままでもいいし、レストランもデリバリーのままでもいい。でも、劇場はだめだ。劇場にはどうしてもいかなくっちゃいけない。

この衝動こそが、生きていくことには必須ではないにもかかわらず、長い歴史の中で芸術がサポートされ続ける理由なんだろう。

 芸術を糧にしている人びとにとって、今は大変なときだ。でも、必ず、観客は戻ってくる。映画館には戻らなくても、劇場には戻ってくる。その日が一日も早くやってくるといいなと思った。

 

  にほんブログ村 海外生活ブログ サンフランシスコ・ベイエリア情報へ
この他のブログ村SF・ベイエリア情報はこちらから!

 
この他のカリフォルニア州人気ブログはこちらから!

PVアクセスランキング にほんブログ村