シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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オンライン授業の苦悩 (ティア2)

ティア2に入ったことが発表になった翌日、シリコンバレーの美容院やネールサロンを始めとする耐えに耐えてきたビジネスたちの多くがその扉を開け放とうとしていた朝、シリコンバレーの空は紅かった。

朝焼けとかそういうわくわくするようなものではなくて、乳白色がかったピンクのようなオレンジのような鈍い色の空、その光により家の壁や木々の色彩が失われてしまったような、そんな朝だった。

カリフォルニアの2020年は大災害の年として歴史に残るだろう。春にパンデミックが口火を切った災害のオンパレードは、夏には記録的な猛暑、その暑さが原因の大停電、何千もの稲妻が襲ったドライストーム、それが発端の500箇所を超える歴史的規模の山火事、そしてその山火事が発端となった想像を絶する空気汚染、異常気象と煙と灰がもたらしたシリコンバレーの今日の空は、SF映画の特殊映像と勝負ができる非現実な光景だった。目が覚めたら、いつのまにか火星に移民していましたという感じ。その煙霧に煙る世界は、一日中鈍いオレンジのままだった。

そんなことで、今日頑張って再開に望んだビジネスには残念なことだが、多くの人々は今日は家の留まっていたことだろう。ビジネス再開にいきなり水をさされた形になったが、ここまで数ヶ月待ったのだから、この煙霧が晴れるまで、あと少し待つことはなんでもないかもしれない。

我が家も、窓から差し込むオレンジの光に映る世界を時おり眺めながら、全員、在宅ワークやオンラインスクールに励んでいた。共有の仕事場となっているリビングルームで、高校生が普段はヘッドセットで聞いている授業を珍しくスピーカーで流していた。同じ部屋で仕事をしながら、スピーカーから流れる授業を聞くともなしに聞いているのは少し面白い。内容は数学の基礎解析のようなだった。

女性教師が画面で共有されているホワイトボードに計算を書き込みながら、早口で計算方法を説明している。その間も、生徒が先生あてにチャットで書き込んでいる答えを確認して、正しい答えを返している生徒を名指しで褒めている。とにかく、彼女が一人でずーっと話し続けているので、あれは疲れるだろうなと思っていた。

ふと、教師が数式の説明をとめて、こう語りだした。

「このクラスには本当に感謝しているの。このクラスで課題を提出しないのは2人ぐらいだけど、同じ内容の別のクラスではもっとたくさんの生徒が課題を提出してないのよ。そんなことが続くと、私のせいなんじゃないか、私の授業が悪いんじゃないか、私がだめな教師だから生徒が課題をやらないんじゃないかと、気分が沈んでしまうこともあるのよ。学校に集まって普通の授業をしていたときは、生徒の間を歩いて、誰が理解していて、誰が理解していないのか、誰が困っていて、誰が助けが必要なのか確認しながら、それに応じていろいろな働きかけができてた。でも、オンラインスクールだとそれができない。ただ、こちらから説明するばかり。反応がみえにくいから、生徒はわかっていないんじゃないか、興味を持てないんじゃないか、助けてあげられないんじゃないかと、心配になる。そんなとき、このクラスのことを思い出すと救いなの。全く同じオンライン授業でも、ちゃんと課題をこなしてくれているくれている生徒たちがたくさんいることを思い出すと救われるわ。」

先生、大変だな、と率直に思った。確かに画面越しに、それも30分割の小さなコマ訳の中にいる小さな生徒の顔から授業の反応など読み取ることはできない。そもそも、先生も画面のホワイトボードに書き込みながら授業をしているのだから、生徒たちの顔など観察する暇はないだろう。これが、クラスルームの授業ならば、ホワイトボードになにかを書きながら説明していたとしても、チラチラ教室に目をむければ、生徒の集中度はわかるものだ。オンラインスクールではどうしても伝わらない空気感がそこにはある。

教師たちは慣れないオンラインスクールで戸惑い、心配して、自己嫌悪におちいったりしながら、最善をつくして生徒たちに教育を与えようとしている。教師たちの中には、親の立場で自分の子供のオンラインスクールのサポートをしながら、自分の授業をライブ送信している人もいるのだ。

親の立場といえば、オンラインスクールは在宅ワークの親たちにも非常に厳しい時間をもたらしている。幼い子供であれば、画面越しの授業に集中させることだけでも一仕事だ。目を離している間に、youtubeを見たりゲームを始めたりしてしまう子供も少なくない。

では、勉強熱心なこどもであれば苦労がないのかといえば、そうでもない。オンラインスクールでは、授業内容がわからなかったときに質問がしにくい。その部分はたいてい親が授業の後にサポートしたりするのだが、何十年の間にアカデミックな記憶は薄れているうえに、教え方も変わってしまったりしている。ある親は、なにを聞かれても90%ぐらいは、調べないと答えられないと嘆いていた。今やyoutubeの教育用番組は子どもたちのためではなく、その親が理解して子供に説明するために大活躍だ。

また、親には子供のコンピュータやネットワークトラブルの対処や、子供には管理しかねる量のZoomのリンクやミーティングパスワードの管理など、とにかくやらなくてはいけないことが山積みだ。

その上、自分の在宅仕事もやらなくてはならないのだ。その苦悩は計り知れない。

たくさんの人達が学校が始まるを心待ちにしているとは思う。思うのだが、ティア2のまま2週間頑張った末、一部の生徒の登校が認められたら、誰もが両手をあげて喜ぶだろうか。答えは否である。子供やティーンは症状が出にくい。しかし、感染はする。教師や職員は普通に感染しやすく、人によっては重症化もありうる。また、子供やティーンであっても、症状が出にくいとはいえでている例もあり、非常にまれではあるが何週間たっても後遺症のような症状に悩まされているティーンもいる。

では、いったいどうすればいいのだろう。

オンラインスクールは、サポートから取りこぼされ、授業についていけなくなる生徒を確実に増やしていると思われる。パンデミックからぬけだすころには、もう一年同じ学年を繰り返す必要のある生徒が多く出現するのではないだろうか。

「それもありか」

という、柔軟な覚悟を教師も親も、今からしておかなくてはならないのかもしれない。

 

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