シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

姉妹サイト「シリコンバレーをよむ」もぜひご訪問ください

ラーニングポッドは吉か凶か(規制緩和フェーズ2)

シリコンバレー周辺の郡では、小中高の新学年の始業が刻一刻と近づいている。我が家のティーンエイジャーも、来週から新入生として始まる高校のオンラインクラスに備えて、様々な書類の署名、学校から支給されるChromebookの受け渡し、学生証の写真撮影、バーチャルオリエンテーションなど、多様な予定が今週は毎日のように入っている。どのイベントも少人数でソーシャルディスタンスを保って行うか、オンラインミーティング形式かのどちらかで、感染拡大予防処置が万全に取られている。ということはこれらの用事で学校に行っても、基本的に友達と再会するということは無い。

高校生ぐらいであれば、それでも特に困らないし、オンラインクラスだって本人のやる気次第で普通のクラス並に学べることもできるだろう。しかし、対象を小学生で考えてみると、オンラインクラスは子供にとっても親にとっても相当な負担となる。

たとえば、親が在宅で働いているケースを考えると、日中、自分の仕事に従事しながら、子供の勉強のチェックや手助けをするのは至難の業だ。子供が幼ければ幼いほど、画面の中の授業だけに長時間集中することは難しい。たとえば、親の仕事が教師だったりしたら、オンラインで授業を自分の生徒に教えている間、自分の子供を放置して学習を助けてあげることができないというジレンマに陥るだろう。もっと厳しいのは在宅で働けない親で、学習を手伝うどころか、幼い子供だけを家に残して置くこともできずに途方に暮れるしかない。

このような状況の救世主として、困りに困った親たちが考え出したのがラーニングポッドというシステムで、今、シリコンバレーで急速に広がっている。これは、少人数の子供でグループを作り、誰かの家に集めて、家庭教師を一人雇うか、子どもの親が順番で、オンラインクラスを受ける子どもたちをサポートするというシステムだ。学校のクラスをベースにする超マイクロ化したグループ学習だと思えばよい。

ポイントは、グループは同じ生徒で固定すること。それぞれの家庭は自分たちの家庭に感染者が出ないように最新の注意を払うこと。毎日、体温チェックをはじめ、体調管理をして少しでも具合が悪かったら休ませること。そのような細かいルールをいくつも決め感染予防に注意を払い、余裕があるなら実績のある家庭教師を共同で雇い、余裕がないなら親が先生役をして、毎日のオンライン学習を進めれば、時間的精神的な親の負担は劇的に軽くなるうえに、授業をさぼったり、わからいない状態で放置される子供がいなくなる。

これは素晴らしいアイデアだとばかりに、このシステムがFacebookで提案された途端に何百人というシリコンバレー周辺の親たちが、ラーニングポッドに参加したいとFacebookに続々集まり始めた。知り合いでラーニングポットを作ったり、家庭教師希望者が募集して作るものもあれば、第三者がマッチングして作るもポッドもある。

確かにこれは独創的なアイデアで、一気に問題を解決しそうではあるのだが、いくつかの問題が提起されている。

まず、当然ながら健康の問題である。細かくルールを決めたとしても、やはり同じ家に住んでいない子どもたちが5人6人と集まって学習をするとなれば、感染拡大のリスクはあがる。家族の感染は子どもたちにの感染に繋がり、子どもたちの感染はその家族の感染につながる。家族クラスタですむはずだった感染が、ポッドクラスタというより大きな感染クラスタを形成する可能性があるのだ。

次に考えられる問題は、子供の安全である。ラーニングポッドは、従来のチャイルドケアのようにライセンス制ではない。あくまでも親同士の約束に基づいた個人的な集まりなのだ。つまり、集まる場所も先生役の人間も、バックグラウンドチェックもセキュリティチェックもされていない。よく知っている友達同士が集まって作るラーニングポッドであれば、大きな問題はないだろう。しかし、希望者が集まって作ったラーニングポッドや、家庭教師が集めて作ったラーニングポットは、根拠のない信用だけでなりたっている。どこかで学習している自分の子供の安全が、精神的にも身体的にも確実に保証されるかどうかを誰も事前に確認してくれないのだ。

もう一つ気になるのは、ラーニングポッドにはお金がかかるという点だ。もちろん、先生役も場所も、各家庭が順番で担当するというならば費用は発生しないかもしれないが、一つの場所を選んで、家庭教師を雇ってとなると、費用がゼロとはいかない。現在のラーニングポッドのアイデアでは一週間に子供一人に付き150ドルから250ドルほどの負担を考えているとされている。となると、その余裕のない親たちには、ラーニングポッドという贅沢な選択肢はないのだ。仲のよかった友達グループのうち何人かが集まって一緒に勉強しているのに、家庭の事情で仲間に入れず孤独を深める可能性のある子供の存在も無視できない。ラーニングポッドのアイデアに集まっているのは主に裕福な白人層であることもあって、貧富の差ですでに引き裂かれている米国を、更に引き裂く可能性が懸念されている。

このような様々な心配要素や懸念要素があるにしても、複数の幼い子供をもっていて、仕事もしなくてはならないというような親には、ラーニングポッドは選択肢というよりも、これなくしては新学期は立ち行かないというレベルの価値をもつ。おそらくたくさんの子どもたちが、秋からラーニングポッドで学習を始めるだろう。

その結果が吉とでるのか、凶とでるのか、今は誰にも答えることができない

幸い、我が家のティーンエイジャーは、放っておいてもそれなりに授業をうけるし、友人との交流はチャットシステムやオンラインゲームで十分な年頃なので、我が家にはラーニングポッドはいらない。前例のないパンデミックによるオンライン学習環境でも、悩む必要がほとんどないことは本当に幸運だと思っている。

 

PVアクセスランキング にほんブログ村