ワクチンと米国の失敗(ティア2)
夏が終わり秋が近づいてくるにつれて、ワクチンがいつ承認されるのかについての話題が徐々に増えてきている。
この日記に何度も登場しているファウチ博士は、随分前からワクチンの開発状況から言って2020年の末、または2021年の始めには、ある程度有効で安全なワクチンが承認されるのではないかと説明していたが、最も最近のインタビューでは、2021年の始めの説を押していた。2020年の末というのは不可能ではないかもしれないが、まず無理ではないかという言い方だった。
にもかかわらず、連邦政府は州に対して、11月1日からワクチンを分配して摂取できるような体制を整えておくようにという指示を出した。11月1日という日付は実に曲者なのだ。今、米国を揺れに揺らしている大統領選挙の11月3日だからだ。
このような政治がらみに日付をだされると、たとえ本当にワクチンが完成して11月1日までに承認されたとしても、素直に信じることが難しい。現大統領は再選を狙ってあえてこの日に目標を据えたのだと思われるが、それが仇となってかえって怪しい感じになった。たぶん11月には間に合わないと多くの専門家が言っているので、あくまでも用意しておくだけなら、別にかまわないのだが、まさかの10月中に承認されたら、そのワクチンは怪しすぎて摂取する人がいるかどうか、ちょっとわからない。
そのうえ、先日、FDAの偉い人が最終の臨床試験が終わる前に緊急許可がおりるかもしれないなどと言うものだから、米国人はさらに疑いを深めてしまった。
名前にも問題がある。大統領陣営が、ワクチンのプロジェクトに「ワープスピード」などという幼稚な名前をつけてしまったため、この名前を聞くたびに、一部の人々はさらに不安になる。ファウチ博士も「ワープスピード」という表現は使いたくないといっていた。できないことを超越した速さでやろうとするイメージを彷彿させるために、人々を不安にさせるかもしれないと言っていた。まったくもってそのとおりだ。
確かに、ワクチンは必要だ。それもなるべく早いほうがいい。
ロックダウン以来、米国の失業率はものすごい数値を示しているが、それに加えて、このままの状態が続けば、旅行業界のかきいれどきである感謝祭やクリスマスのホリデイに、例年のように遠くへ旅行する人は激減するだろう。とんでもない数の感染者数を抱えている米国からは他国へ入国することもできないし、わざわざこのような状態の国に別の国から観光にくるとも思えない。このままでは、航空会社やホテルなどの旅行業界では、さらに大規模な解雇が発生するのではと言われている。
ワクチンさえあれば、人々が免疫を手に入れれば、もとの生活が戻ってくることはわかっている。しかし、摂取しても免疫率が50%のワクチンだったり、免疫率は高いけれども危険な副作用があるワクチンだったら意味がない。
そもそも通常なら3年や5年かけて開発するワクチンを1年で開発しようとしているのである。せめて最終の臨床試験を終わらせて試験結果を踏まえた上で、データをしっかりと分析して承認するかしないかを決めてほしい。
そんなニュースを読みながら、SNSを開けたら、今現在、世界中をヨットで旅している友人の投稿がアップロードされていた。投稿によると、彼らは今、地中海のヨーロッパ沿いの島や港によりながら旅をしている。写真を眺めると、地中海らしい古くノスタルジックな町並みの写真に映る人々は、ごく普通に生活していた。そこは、ロックダウンとは別世界だった。マスクをしないで、ウィンドウショッピングをしたり、アイスクリームを舐めたりしながら、美しい街並みを普通に歩いてる。レストランの野外席が客ががいっぱいで、楽しげな笑い声がきこえてきそうだった。
半ロックダウン生活を半年ちかく続けてきた私には、その写真は衝撃だった。
その風景を見れば一目瞭然だ。
確かにヨーロッパは一時期たくさんの死者を出した。しかし、その後、第一波をしっかりと抑え込んで、ここまで普通に近い生活を取り戻していたのだ。第二波が来ているとはいえ、第一波にくらべれば小規模であることが統計上わかっている。たぶんコンタクトトレースができているのだろう。
それに比べてて、米国はまだ第一波すら抑え込めていない。コンタクトトレースも一部の州をのぞいて、ほとんどの州で機能していない。これほどまでに、米国はパンデミックの対応に失敗したのだという証拠をつきつけられたようで、ショックをうけた。これまでの米国のパンデミックの対応が正しかったと思っている人は、米国の外の写真や動画をみてみたほうがいい。
そして、自分たちの現状と比べて、いったい何を間違ってしまったのかを、そしてせめてこれ以上間違えないためには、どうしたらいいのかを考えたほうがいい。米国はすでに、たくさんの犠牲を払ってきた。ビジネスも人の命もである。これ以上の不必要な犠牲はいらない。