シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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仕事を辞める人々

米国はワクチンの接種拡大に伴って、本格的に経済が再始動、求人が大量に発生し、雇用市場は完全に売り手市場だ。特にレジャーやレストラン業界は働き手が十分に集まらず四苦八苦している。

そんな折、今年4月中に仕事をやめた人の数、なんと400万人近いというデータが発表された。こんなに沢山の人が一ヶ月間に辞職するのは記録だそうだ。仕事を得た人の数ではなくて、辞めた人の数である。

なんでこんなことが起こるのか、理由はいくつかある。

まず、レジャーやレストラン業界で働く給料が安い労働者たちの場合は、理解しやすい。なにしろ売り手市場なので、少しでも給料がよい仕事を求めて転職するのが背景だ。彼らには同じ雇用主のところでしごとをしていても、役職があがるとか、出世するという可能性はあまりない。それならば、雇用主のところに長くとどまる理由はなく、少しでも多くの給料を払ってくれる職場を求めて仕事を辞めるのは、誰もが納得するところだ。この流れに伴い、現在、レジャー、レストラン産業では、賃金の上昇傾向が顕著である。

しかし、これだけが辞職者400万人の理由ではない。

こちらも予想できるものだと思うのだが、長いロックダウンの間に出社せずに働いていた労働者が、出社を求められたタイミング、または、出社をはじめてすぐに辞職するというケースだ。そもそも、出社しなくて良くなった時点で、職場から遠くに引っ越した労働者もいれば、身軽な人々の中には、なんと車を改造して、仕事をしながら米国をロード・トリップし続けている強者もいる。このような人々は当然ながら、出社しろと言われたタイミングで、仕事をやめる選択をする人は多い。では、引っ越しもせず、ロードトリップにも行かなかった人はどうだろう。もちろん、素直に出社生活に戻った人もいるだろう。が、1年以上に及ぶ長い自宅勤務生活の中で、より多くの自由な時間を手に入れた労働者の中には、これまでやりたくてもできなかった趣味や活動に時間を費やす生活を手に入れ、それを手放せなくなった人も多い。再出社を始めても、かつては普通だと思っていた生活、つまりオフィスに束縛されて、気が向いた時にジョギングや犬の散歩にも行けず、通勤時間に2時間も無駄な時間を費やすような生活に耐えられずに辞職する。彼らは、自宅勤務を認めてくれる企業や、趣味を活かせる仕事を探そうとしている。

そして、さらに興味深いケースは、パンデミック中に会社の労働者への対応をみて、会社が自分の価値を十分に認めていないことに失望した、または、再認識したというものだ。自らの健康事情や家庭の事情により、パンデミック時の働き方に柔軟性をもたせてくれるように要求しても応えてもらえず、会社における自分の価値を認識させられたという人もいれば、通勤時間や社交時間が減った分、インターネットでいろいろリサーチした結果、自分の給料が仕事に対して少なすぎることに気づいてしまった人もいる。これらの人々は、パンデミックがなくても、いずれはその仕事をやめていた可能性が高いのだが、パンデミックにより肩を押されたケースだろう。

パンデミックは、パンデミック前の忙しさの中で見落とされてきた様々な視点を可視化する社会現象となった。代表的なのは、雇用主と労働者の関係を浮き彫りにしたこと。つまり雇用主が個々の労働者を大切に考えているかがわかりやすく可視化された。そして、もう一つは、生きる時に何が一番の価値があるかを考える時間を人々に与えたことだ。

仕事に忙しくしていたときは、大勢の人々が目まぐるしく働くオフィスの中で達成感や充実感などで溢れ、同僚との情報交換や社交にも忙しかった。自分の会社への貢献が自負になるし、自分の価値を肌で感じることができただろう。

しかし、パンデミックで自宅勤務になった人々は、家族に囲まれた環境で、または、一人だけの環境で、同僚との社交もなく通勤もなく余った時間で、これまでにくらべてずっと柔軟な環境で、自分の本当にしたいことをする時間というのものを持つようになった。そして、気づいてしまったのだ。自分が生きるのに一番大切なのは仕事じゃない。

そして、これを機に、やりたかったことや、やってみたかったことをしてみようと思った人もいれば、仕事は生きるための手段にして、もっと自分のやりたいことに時間を費やす生活体制に変えようと思った人もいる。とにかく、これまでの仕事中心の生活に戻らないと決めた人がたくさんいる。そして、このような人たちをパンデミック前の精神構造に戻すことは難しい。

多くの企業がこの変化を肌で感じているだろう。未だに多くの企業は労働者をオフィスに戻していない。戻したとしても希望者だけとか、週に数日だけとか、一部でしかない。そして、徐々に出勤する人数も日数も増えていくだろうけれど、人々の精神構造が元の状態にはもどらないように、週5日出勤するような元の労働体制にはもうもどらないだろうといわれている。

どうやら、パンデミックは米国社会の価値観に始まり、その精神構造および社会構造の土台に大きな地殻変動を起こしたのは間違いないようだ。

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