シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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再挑戦(ティア1)

全米で最も早く州全体をロックダウンし、米国エピデミックの初期に、全米で最も人口が多い州であるにも関わらず感染者数と死者数を低く抑え、「カリフォルニアの奇跡」と呼ばれたカリフォルニア州だった。が、経済の大打撃から回復すべく行った6月以降の性急な規制緩和と混乱により、急速に感染が拡大、7月14日をもってそれまで再開してきた経済活動のほとんどを再閉鎖するという苦しい撤退を余儀なくされた。この経緯は、7月14日の日記「潔く退がろう」でレポートしている。

そして、8月2日の日記「規制強化とタイムラグ」では、7月14日の撤退の効果が2週間遅れてようやく現れだしたことについてレポートした。この時、8月末か9月のはじめには再び規制緩和の動きに入るのではないかと書いたが、これがなんとなく当たって、8月29日の今日、ニューサム知事は来週の月曜日8月31日から、再び経済再開プロセスに挑戦する趣旨の発表をした。

前回、混乱を招いた経済再開方法はあっさりと捨てられ、新しい指標とルールが発表された。同様の混乱が発生しないように、単純かつ具体的な内容となっている。また、緩和のタイミングについても詳しく記載されており、これに従えば、必然的に規制緩和のスピートが十分に遅くなる。

前回の規制緩和時、サンタクララ郡のサラ・コーディ博士のような一部の専門家たちは、規制を一段階進めたら、次の段階の規制緩和までは少なくとも2、3週間様子を見てから先に進むかどうか決めるべきだと言明していたのだが、実際には、経済再開を焦る団体やグループからのプレッシャーにより、相当に早いペースで次々と緩和されてしまったのが残念だった。

そのような反省を生かして、今回は規制緩和の明確な基準だけではなく、一段階緩和したら少なくとも同じレベルに3週間は留まらなくてはならないというような、非常に具体的な緩和プロセスが明記されている。

規制緩和段階は4つあり、それぞれがティア1ティア2ティア3ティア4と呼ばれる。それぞれのティアには色が割り当てられている。1が紫2が赤3がオレンジ4が黄色だ。今日発表されたカリフォルニアの地図には、各郡ごとにこれらの色が塗り分けられている。シリコンバレーのあるサンタクララカウンティや、州の最大の感染者数を記録しているロサンゼルスなど人口の多いほとんどの郡はティア1の紫に塗られている。一方でカリフォルニアの北の端の田園地帯や山岳部にはティア4である黄色に塗られた郡もある。

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規制が最も厳しい紫のティア1は、過去7日間の1日の平均新規感染者が人口10万人につき7人以上、テストの陽性率が8%以上の地域に割り当てられている。赤のティア2だと、新規感染者が4人から7人の間、陽性率は5-8%の間だ。オレンジのティア3は、新規感染者が1人以上3.9人以下、陽性率は、2-4.9%の間だ。そして最大の規制緩和が適用される黄色のティア4が割り当てられるのは、新規感染者が1人未満、陽性率は2%以下だ。

10万人につき1人未満!これは相当厳しい指標だが、前回の失敗から学んだ様々なデータを元に、これくらい厳しくしなくては再び感染拡大の波に絡め取られてしまうということなのだと思う。

ちなみに、シリコンバレーのあるサンタクララ郡の過去7日間の平均新規感染者は10万人につき8人、陽性率は3.4%だ。現在はティア1であるが、7日間の平均新規感染者が10万人につき1人減れば、一段回規制の緩いティア2に手が届くところにいる。新規感染者数と陽性率がそれぞれ違うティアの指標に属する場合は、当然ながら規制の厳しい方のティアに留まらなくてはならないことも決まっている。

さて、このティアを一段階上げるためには、郡は各ティアに割り当てられている指標の数値を2週間出し続けなくてはならない。たまたま患者が少ない日が続いたとかそういう不正確な理由で、規制が不正に緩和されないようにするためである。

また、先ほども述べたように、緩和を一段階あげたらそのティアに少なくとも3週間は留まらなくてはならない。以前にも説明したように、ウィルスには1日から2週間の潜伏期間がある。このタイムラグを回収しても、安定して感染者が増えていないかどうかを確認するには、3週間は同じ緩和レベルに留まる必要がある。非常に論理的なルールだ。

これ以外にも細かいが明快なルールがいくつも設けられていて、ざっと読むだけでも、この規制緩和は、非常にゆっくりとしたペースで慎重に進められいくことが予想できる。

各ティアでどのようなビジネスが再開されるのかは別途詳しいルール表が発表されている。それによると、最も規制が緩和されているティア4でさえも、レストランでは通常の50%の顧客しか店内で食事してはいけないことになっている。なかなかに厳しい。

そして注目なのは、のティアないことだ。つまり、ワクチンが摂取できるようになるか、突然変異でウィルスが消滅しない限り、私たちはこの規制ティア内で暮らし続けていくのだというメッセージがそこにはある。パンデミック前の生活である緑になることは、パンデミックが収束するまでは決してないという現実と覚悟を表している。

この厳しい経済再開プロセスをみて肩を落としたビジネス経営者は多いだろう。私も経営者の端くれなので、明日をも知れぬ経営状態時の気持ちは痛いほどわかる。

しかし、同時にこれだけ厳しくしなければ、もしかしたら厳しくしても、カリフォルニアは再び感染拡大の波を起こし、再撤退を余儀無くされる可能性が多いにある。そのようなことになれば、再び経済は閉ざされ、とてつもない死者数を毎日ニュースで確認する不安な日々が戻ってくる。それくらいならば、感染者を増やさないレベルで、少しずつ少しずつ経済を動かし続けた方が、長い目で見れば打撃は小さいだろうという判断がここで働いているのがわかる。

経済再開といってもハッピーエンド的な再開ではない。私たちは、まだウィルスとの戦いの最中で、新しい持久作戦をたてたばかりだ。今度こそうまくカリフォルニアを開いていこう。

過去5ヶ月の間、カリフォルニアが経済再開方向に動いていたのは、ほんの1ヶ月足らずだった。そのおかげで、私たちはもうだいぶNew Normalな生活に慣れてきたし、今を出発点にして、少しづつできることが増えていき、にも関わらず感染者が増えないのであれば、それは小さな勝利であり、ワクチンが摂取できるようになるまで、この小さな勝利を積み重ねていけばいい。

忍耐力のいる作戦だ。でも、できそうな気がする。さあ、もう一度、カリフォルニアの奇跡を実現しようか。

 

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