シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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なくすのは仕事だけじゃない(規制緩和フェーズ2)

この日記でも何度も触れているように、現在米国ではパンデミックに伴って沢山の人が職を失い失業保険で暮らしているのだが、彼らのなくしたのは実は仕事だけではない。彼らは仕事とともに、健康保険を失っているのだ。

米国には日本の様な国民皆保険制度がない。企業で仕事をしている人の殆どは、雇用主を通して健康保険を提供してもらい、保険料の一部を雇用主が負担してくれる。私のような自営業者は自分で保険を用意するしかないので、自分の会社の経費で保険を買って、自分自身に提供するという形をとる。この保険料がものすごく高いのだ。

ある資料によると、去年の雇用ベースの保険料の平均は1人年間7188ドルだった。家族を持っている場合、通常家族の保険料も払う必要があるので、4人家族の保険料の平均は年間20576ドル、日本円にして年間200万円超を健康保険のために支払わなくてはならない。

これを払っても、まだ、病院にかかれば保障でカバーされない分は自分で払わなくてはならない。うっかり病気になれないし、保障カバーが低い保険しか持っていない人は、病気になってもなるべく病院にいかないで治そうとする。これが、今回のパンデミックで低所得者層に犠牲者が多い一つの理由となっている。どうしても病院にいかなくてはならないほど悪化した時点で、すでに手遅れになってしまっているケースが多かったのだ。Covid19に関係する医療費は国が負担することになっているが、病院に行ったとして、もしCovidじゃなかったら、その医療費は個人に請求されてしまう歪な構成になっている。

さて、米国の健康保険と医療費の現実をさらっと説明したところで、先程の失業の話に戻る。通常、米国で失業すると、それなりの規模の企業であれば、数カ月分の給与や保険料の援助が保証されたりする。今回のパンデミックにより3月、4月に失業した人々は、その時点では、不安ではあっただろうが、すぐに健康保険を無くした人は少なかっただろう。そのうちに状況が好転して、保証期間が終わる前に再雇用されるのではないかと考えている人も多かったと思う。

ところが、残念なことに、半年たった今も、事態は一向に好転していない。パンデミックに至っては、当時よりも相当悪化してしまった。経済的には、多少の回復があったものの、通常の経済活動に戻れないことによる打撃は続いており、失業者の数は相当数に登る。失業者の健康保険を援助してきた企業もさすがにエネルギー切れで、失業者は次々と雇用を介した健康保険を失っている。

6百万人の労働者が仕事とともに健康保険を失ったと言われているが、その扶養家族も含めるとなんと1千万人を超える人々が健康保険を失ったとも言われている。

もちろん、このすべての人々が現在無保険なわけではない。妻、または、夫のどちらかだけが失業している場合は、仕事を失っていない方の扶養家族として健康保険を取得することができる。また、COBRAと呼ばれる制度に申し込めば、失業した後もこれまでの保険を継続することができる。ただし、保険料の負担は全額自分で払わなくてはいけない。先程述べた保険料の平均額を考えればわかるように、失業者に払える金額ではないので、COBRAを使える人は本当に限られている。
米国にも一応、Medicaidとよばれる保険料が安い、低所得者用の公的健康保険が用意されているのだが、この保険に入るには年齢制限や収入制限を始めいろいろな制限がある。さすがにこの大失業体制を受けて、いくつかの制限が下げられ、現在は相当数の人がMedicaidを適用することができるが、同時に様々な理由で適用できない人もいる。たとえば失業保険を受け取っている場合、Medicaidの収入制限はかなり低いため、それよりも少し多い収入を失業保険で受け取ってしまうケースは多い。この場合、Medicaidは適用されず、雇用ベースの保険の援助も得ることができず、保険会社の保険料の全額を払うのは高額すぎて無理。ほかにも税金控除の対象になる安い公的保険システムのオプションはないわけではないが、失業保険でやりくりをしていて、再雇用の見通しが不透明な状態では、たとえ一ヶ月100ドルだとしても相当な負担である。そこで、やむを得ず無保険の状態になってしまう人達が現実にいる。

 米国の医療費はとてつもなく高いので、無保険で救急車を呼んだり、入院をしたりすると、何百万円もの請求書を受け取ることになる。それこそ、子供の教育費や老後の生活費のための貯金などあっという間に吹き飛んでしまう額である。

救いは、Covid19に関係する医療費は国が負担することになっているいることだが、それ以外の医療費は誰も負担してくれない。糖尿病などの基本疾患を持っている人の薬代も、事故で怪我をした治療費も、誰も負担してくれない。こんなときに、大病が見つかったり、大怪我をして入院したら、冗談ではなくてあっというまに破産してしまう。

そこで、人々は病院に行かなくなる。明らかに病気でも病院にいかなくなる。手遅れになるかもしれなくても、検査に行かなくなる。事故にあうのが恐ろしいので、子供にスポーツをやらせなくなる。自転車にものせなくなる。心臓が痛くたって、頭が痛く立って、気のせいだと自分に言い聞かせる。

ここで描かれているのは米国の弱点だ。米国のセーフティーネットと社会保障は先進国としてはありえないほどみすぼらしい。この社会保障の脆弱さが、米国の社会不安の元凶の一つだともいわれている。

この国は個人が個人を守らねばならない。国は個人を守ってくれない。企業の方がよっぽど個人を守ってくれる。しかし、経済が行き詰まって、企業が弱体化すると、一気にこの国の弱さが露見し、人々の命が脅かされる。そんな、厳しい厳しい国なのだ。

 

 

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