シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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試される能力(ロックダウン39日目・現時点の解除予定日まで残り10日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

私はシリコンバレーでソフトウェア開発をサポートする超小規模ビジネスを経営している。長年契約をしていただいているお客様は、大企業向けのソフトウェアを開発しているため、このような一時的なロックダウンの影響はすぐに現れない。

大企業向けのソフトウェアというのは元々、作るのも売るのも一朝一夕ではできないもので、製品の開発もセールスもサポートも、月単位、年単位で動くのが普通だ。そのため、1ヶ月のロックダウン体制が、即座に営業状態に影響を及ぼすような経営をしているお客様はいない。このようなお客様は、大規模な国際展開をしていて、体力も設備も十分に持っているので、従業員をさっさと在宅勤務に移行することもできる。

それじゃあ、そういう顧客を持っている私のビジネスも安泰なのかというと、それは全く違う話なのだ。今日、月単位でお客様から発注される作業の内容を確認したら、普段の半分ぐらいの量で驚いた。いや、予想してたから驚きはしなかった。でも、がっくりはした。

突然のロックダウンにより、世界中のソフトェア開発者は開発環境やプロセスを在宅ワークに切り替えなくてはいけなくなった。移行期間や慣れない在宅ワークの影響で、開発効率が落ちたとしても何の不思議もない。開発効率が落ちれば、1ヶ月で出来上がってくるプログラムの量が少なくなるので、開発速度に依存してサポートをしている我が社の仕事は減少して当然なのである。

願わくば、来月は開発者たちが在宅ワークに慣れて、元のスピードでソフトウェア開発を進めてほしい。欲をいうならば、今月遅れた分も頑張って追いついて、我が社に落ちてくる仕事の量を増やして欲しい。希望でしかないけれど。

というわけで、がっくりしたのだが、その後どうするか。そこが問題だ。

帳簿を隅から隅まで眺めてため息をつきながら、百円単位で支出を削ることもできる。しかし、そういう対応は精神衛生上悪いし、かかる時間のわりに減らせる支出はたいしたことがない。むしろ、頭に入っている漠然とした数字で十分なので、帳簿はあえて開かずに、足りない売上の補てん策を考えることに時間を使うことにする。実は、大幅な支出削減に関しては、先月末の段階で打てる手は打ったから、もう打てる手はあまりないということもある。

私は怠け者なので、普段なら自分の仕事を増やす努力はあまりしないのだが、今はさすがにその努力が必要だ。例えば、お客様とのメールを隅々まで熟読して、お手伝いを申し出たら喜んでもらえそうな項目をリストアップする。見つけてもすぐに飛びついてはだめだ。こちらから仕事をくださいとダイレクトに申し出ると、大企業にたかるハイエナみたいな感じになるのでなるべく避けたい。思わぬ方向から質問して会話をはじめ、ぐるりと半周回ったとことで、「あれ?その作業誰かがやらないとダメだねえ」という形に進め、最終的には私がその作業をやればいい、という話にしたい。そのために必要な情報収集はかかせないし、顧客の担当者の性格や信頼関係も重要なファクターになる。誰にどう話すか、頭のひねりどころだ。

こんな風に、発揮できる最大限の能力を試されるのは久しぶりだ。前回は、リーマンショックの時。米国でグレートリセッションと呼ばれる2007年から2009年の不況では、周辺の小規模ビジネス群があっという間に倒産していった。我が社も大赤字を叩き出したが、超小規模が幸いして首の皮一枚で生き残った。あの時は、とにかくある仕事は何でも引き受けたし、ない仕事を作り出すために頭をひねった。今回も同じように、うまくいこうが、うまくいかなかろうが、いろんな手を考えてやってみたほうがいいだろう。

でも、絶対にやらないほうがいいこともある。経営状態を毎日チェックするようなことはやらないほうがいい。そういう行動は、焦燥感と鬱を生み出し、あっという間に精神的にやられてしまう。精神的に困憊した人に仕事を頼みたいお客様なんていないのである。

必要なのはバランス感覚で、気にしなさすぎていつの間にか倒産するわけにはいかないが、気にしすぎて焦りや心配から身動きが取れなくなったり、反対に押し売りをしてお客様を不安にさせてはダメなのだ。

世の中のほとんどの人は、どんな時にも少しは冗談が飛ばせるような余裕を好む。こういう時こそ、不安を煽られるよりも、安心感を与えられたいのだ。

今日発表になった失業率から計算すると米国人の6人に1人がこの5週間で失業したらしい。今回の経済打撃は、リーマンの時よりもさらに悪く大恐慌並みだろうといろんなニュースで取り上げられている。

今は誰もが、危機的状況を受け止める能力を試されている。やっぱり必要なのはバランス感覚で、何とか生き延びる策を練らなくてはいけないけれど、先行き不透明な状況を細かく考えすぎて精神的に参ってしまわないようにしなくてはいけない。

また、ただでさえ普段より長い時間家族と過ごしているのだから、不安や不満ばかりを口にしていると、家族の中で不安感がむくむくと膨れ上がっていき、家族関係まで拗らせてしまう。最悪、仕事も家族も失ってしまうというシナリオだって考えられるのだ。

私たちはこの難しい世界でいろんな能力を試されている。個人的に一番必要だと思っているのは、どんな状態でも冗談が飛ばせるタフさである。

最後に余談だが、ソフトウェアの話に関連して書いておきたいことがある。現在、失業保険を申請するためのウェブサイトがうまく動作しないというトラブルが米国のあちこちの州で発生している。想定外の失業申請の量のため、お役所が使い続けてきた古いソフトウェアでは処理しきれないらしい。

そこで、州が必要としているのは、とりあえず現存のソフトウェアに応急処置を施すこのとできる開発者なのだが、なんとCOBOLのプログラマを探しているというのだ。今時の若い人はそんな古いプログラミング言語は知らないだろうから、かつてCOBOLを使っていた人に何十年かぶりにスポットライトが当たっている。

残念ながら私はCOBOLではなく、プログラミング言語としては化石並み古いアセンブラや超マイナーなPLIという言語を使っていたので直接関係ないのだが、昔ライバルみたいに思っていたCOBOLプログラマに再び脚光が当たるのを見るのは、懐かしい同志が褒められているみたいで、なんだかとっても嬉しい。

 

 

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