シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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オンラインコミュニケーションの攻防戦(ロックダウン46日目・現時点の解除予定日まで残り31日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

最初に訂正!昨日の日記にカリフォルニアのビーチと州立公園が全面クローズになると書いたけれど、あれは誤報だった。昨日の時点で警察の業務命令にはそう書いてあったらしいが、今日のニューサム知事の会見で公式に発表されたのはカリフォルニア州のオレンジ郡(ロサンゼルスのすぐ南)のビーチだけだった。なぜ、その郡なのかといえば、その郡こそ、先週末人が溢れかえったビーチがあるのだ。やはり、ニューサム知事は間違いなくお怒りなのである。

じゃあ、ほかの郡のビーチは開くのかというと、実はそんなことはなくて、ほとんどのビーチはすでに郡が自発的に半分クローズした状態なので、州政府は各郡が正しく判断して運営すると信頼しているだけなのだ。先週末、開放感あふれてしまったオレンジ郡だけが、信頼されない郡として強制的にクローズされたというわけだ。だから、単純にいうと州全体において、州所有、郡所有のビーチは厳しく規制された半分クローズ状態だ。

さて、話は変わって、昨日も書いたがシリコンバレーの2大テックジャイアントといえば、多少、意見が別れるかもしれないが、AppleとGoogleを頭に思い浮かべる人が多い。この2社が協力して感染追跡システムの基盤となる技術を開発してリリースしたことは昨日書いた。

今日はさらにロックダウンが始まってからのGoogleの存在感とオンラインコミュニケーションについて書いてみたい。

シリコンバレーに住んでいるとGoogleはとても身近な企業だ。とにかく、Googleで働いている人は多い。誰でも知り合いの数人はGoogleで働いている。また、Googleの本社周辺のビジネスエリアは全て超広大なGoogleのキャンパスだ。キャンパスに近いマウンテンビューのダウンタウンはGoogle城下町である。

近年は、サンノゼの北部にも新しいGoogleキャンパスを建築中で、これがまた相当大規模なものなのでサンノゼもGoogle城下町になる日が近い。ちなみにちょっと前まではサンノゼはAdobeの町だったのだが、最近Adobeの存在感はだいぶ薄くなってきている。シリコンバレーはいつだって、技術の進歩とともにそのカラーをめまぐるしく変える変動の街なのだ。

さて、今回のロックダウンの兆しが明確になったのは、3月13日にシリコンバレーの学校の一斉休校が発表されたことだった。子供達が突然にしてやることなく、家でだらだら過ごすようになって、途方に暮れていた親たちは1週間後にオンラインスクールが始まると聞いて胸をなでおろした。

しかし、オンラインスクールが始まるためには、生徒全員の家にコンピュータとWiFiがなければいけない。シリコンバレーの学校のほとんどは、学校からGoogleのChomebook が無料で貸与されている。Googleは、将来の顧客候補のために、学校に大幅なディスカウントや寄付をしていると思われる。

しかし、広大なカリフォルニア州の全学校の話となればそうはいかない。農村部では、全生徒にコンピュータを貸し出すなんて贅沢をしている学校は少ないかもしれない。また、WiFiが設定されていない家庭もあるかもしれない。Googleはそんな状況にいち早く反応して、機材を持たない生徒のために4000台のChomebookを寄付、10万件の農村部の家庭に無料のWifiを三ヶ月間提供することを発表した。さすがだ。

もちろん、Googleに限らず、Apple、Cisco、Facebookなど、多くのシリコンバレーの企業が様々な形の寄付を、米国内に限らず、WHOを介して世界へ送り続けていることも、ここで触れておきたい。

さて、昨日、Googleはもう一つ注目するべき動きをした。これまで有料だったオンライン会議システム、Google Meet (Hangout Meet)の無料化を発表したのだ。ロックダウンにより、オンライン会議システムの需要が急激に伸びている今、これは大きい。

ロックダウンに入ってからというもの、Zoomの牽引によりオンライン会議システムの注目度は跳ね上がった。かつて、会社の会議でしか使われなかったZoomが、学校のクラスで使われたり、友人とのチャットで使われるようになったのは、ロックダウンの影響が大きい。数週間で「Zoomする」という動詞になるほどの破竹の勢いだったわけだが、ユーザの莫大な増加に伴いセキュリティホールも発見された。

ここで目をつけたのがGoogleである。彼らのオンライン会議システムであり、これまでは主に企業でしか使われていなかったGoogle Meetを無料化して、誰もが使えるようにすることにより、一気にシェアを奪おうという作戦だと思われる。ちなみにZoomは有料だから、これはGoogle Meetに流れる一般ユーザはかなりいるのではないだろうか。

また、Facebook Messengerもロックダウンをきっかけに、ビデオ通話を小さな携帯電話のスクリーンではなく、大きなコンピュータスクリーンで行うためのアプリを迅速にリリースした。こちらも無料だ。ところで、アジアで人気のLineは米国では極端にシェアが低いのでここでは触れないことにする。

さて、これらのサービスがこれまでの無料のビデオチャットと何が違うのかというと、コンピュータの画面を自由にコマわけする機能があることだ。やはり、複数の人間と会話をするときは、全員の顔が見える方が話しやすい。従来のビデオチャットは話している人の顔が大きく映り、他の人はワイプのように小さな窓に映るものが多かったわけだが、その形式だと、話していない人の表情はうかがえなかった。画面を等分にコマ割りしてくれるシステムであれば、学校のグループワークもプライベートな飲み会もお互いの顔を見ながら、より従来に近い形で進行できる。

今、ロックダウンにより、人々のオンラインコミュニケーション能力は日進月歩で進んでいる。ちなみに進んでいるのは技術ではない。技術はすでに存在していた。今、躍進しているのは、人間のオンラインコミュニケーション能力なのだ。

例えば、現在のオンラインのリアルタイムコミュニケーションでは、誰か会話を回す人がいないとスムーズに流れない。会話中の細かい表情やボディランゲージまでは、コマ割り画面でもうまく伝えることができないからだ。自分が喋っていいのか、他の人が喋ってくるのか、お互いに躊躇してしまう。だから、MCのように会話を回してくれる人間がいると相当助かる。

我が家のティーンエイジャーは、オンラインクラスに参加し始めた当初、要領が掴めなくて苦労していた。グループワークでは、全員がスクリーンのコマ割りの中に収まってシーンと画面を見つめている状態が長く、なかなか気まずかったらしい。もちろん先生が画面にいれば問題ないが、通常、生徒のグループワークには先生は参加しない。

さて、そんな彼はロックダウン開始直後から、テクノロジーイベントに参加するために週1、2回、友達とオンラインミーティングを開催していた。この場数の多さにより、オンラインコミュニケーションの進め方を先立って学ぶ機会があったためだろう。学校のオンラインクラスが始まってからしばらくすると、MCがいないとグループワークがちっとも進まないことに気がついて、自分からMCを始めるようになった。

シーンとしているコマ割りを「さあ、始めようか」の一言で打ちくだき、自分のスクリーンを作業場としてシェアしてから、参加者の名前をどんどん名指ししていくことで発言を促して、コミュニケーションを進行させるのである。オンラインのコミュニケーションでは、こんな感じに、これまでとはちょっと違ったスキルが必要とされるのだ。

しかし、彼曰く、近未来には会議はバーチャルリアリティ化するので、顔の表情やボディランゲージが従来通り伝わるようになり、オフラインのコミュニケーションとほとんど変わらない状態になるそうだ。

家族で家に閉じ込もらなくなてはいけないロックダウンは、その隔離状態を土壌にして芽生えた必要性を核にして、私たちをどんどん未来型コミュニケーションに誘っていく。やはり必要こそが、発明と技術革新の母なのである。

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