シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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健康か教育か(規制緩和フェーズ2)

なんだか仕事が忙しい。そのせいで、夜異常な眠気に襲われている。昨夜も仕事を終えて、さて日記でも書くためにニュースでも読むかとソファにゴロッとしたらそのまま寝落ち。はっと目が覚めたら午前3時だった。

今夜も、今日こそ日記を書くぞと思って、再びニュースを片手にゴロッとしたら、数分間隔でうとうとしては起き、うとうとしては起きているうちに、なんだか午前1時をまわっていた。寄る年波には勝てない。少し忙しいと、あっという間に頭の中が疲労困憊してしまう。

その2日間は新しいニュース三昧で、表題だけを追いかけても興味深いものがたくさんあった。本当ならじっくり読んで、日記にも書きたいのだけれど、今日も今日とて深夜である。そこで、最も身近な問題である学校の新学期について少し書くことにする。

つい先週も書いたのだが、米国の学校は8月の中旬には始まる。今から1ヶ月後にはたいていの学校が新学期というか、新学年を迎えているはずだ。シリコンバレーの子供達は3月中旬からロックダウンにより家に閉じこもってオンラインスクールを受講していた。そして、そのまま夏休み入ってしまったため、新学年に登校して5ヶ月ぶりに友人に会うのを楽しみにしていたに違いない。

ところが、6月中旬からの著しい感染者の増加により、緩和されだした規制も今週から1ヶ月半ほど逆戻りしてしまった。こんな調子で1ヶ月後に迫った学校の再開はどうなるのか、子供をもつ親は固唾を飲んで状況を見ていた。

オンラインスクールはどんなに頑張っても、直接顔を合わせて受講する授業と同じレベルの教育を実現できない。たとえ全ての授業をリアルタイムのライブで受講できるようにしたとしても、実際に顔を合わせる授業とは違う。そこには学習しようとする教師と生徒から醸し出される空気感がない。

ピンとこない人はシアターやコンサートをイメージすればいい。どんなに有名な俳優が演じている舞台でも、劇場で観るのと画面を通して観るのでは明らかに劇場で観る方が得るものが多い。コンサートもそうだ。どんなに録音音源の方が音が良くても、目の前の荒げた息で音が外れたライブ演奏の方が感動するものだ。

そこにはリアルでしか存在しない伝える者とそれを受けとろうとする者が作り出す空気がある。伝える者は観客の反応を見て、少しづつやり方を変えるし、観客も伝える者に確かに受け取っているを伝えるために拍手をし、笑い、泣く。その場にいる全ての参加者の熱量が作り上げるあの空気感だ。

オンラインスクールは、どんなにライブでやってもあの空気感はない。その上、教師は生徒の反応が伝わってこないので、少しでも反応をして返してくれる、つまり質問をしてくれる生徒だけが存在する少人数の仮想クラスを相手に反応の見えない一人芝居をしているようなものだ。

また、生徒も教師のインストラクションを画面の前でじっと聞いているか、課題を一人でこなしているかのどちらかになりがちだ。グループワークを取り入れた授業でも、画面越しのミーティングでは、誰か一人ミーティングを回す人間が必要になる。そうしないと、誰がいつ発言すればいいかタイミングが取れずに時間がどんどん無駄になる。ミーティングを回すというのは一種の特殊スキルなので、それが身についた人がミーティングを回すようになり、グループワークは一部の生徒の独壇場になる。

そのような環境では、もともと学問に興味のなかったり授業に遅れがちな生徒はあっという間に居場所がなくなってしまう。そもそも、1人対30人であれば画面越しにサボっていても先生にバレる確率はとても低い。カメラの前に座っていて手元の携帯をいじっている生徒も続出だ。

と、ここまで書けば明らかなように、オンラインスクールは実際の授業に置き換えらえることはできないし、特に勉強にあまり興味のない子供たちには非常に不利なものなのだ。

今、親たちは、大切なのは健康か教育かと聞かれる立場となった。実際にそういうアンケートがまわってくる。パンデミックの中、どちらの教育体系を望むのかと質問されるのだ。

もちろん、健康の方が大切だ。命に勝るものはない。しかし、この質問への回答をさらに難しくしているのは、ウィルスが子供達の間では比較的感染しにくいことと、感染したとしても無症状の場合が多いことだ。親としては、それならばマスクとソーシャルディスタンスを保って学校に登校できるのではと望みをかけてしまう。

しかし、学校で教えているのは大人だし、運営している人々は皆大人だ。無症状の大人たちからウィルスが学校に持ち込まれることもあるだろう。また、生徒が親からウィルスに感染して、症状のないまま登校することもあるだろう。そして、それが教師や職員に感染することもあるだろうし、少ないとはいえ子供同士の感染もありうる。子供達は幼ければ幼いほど、ソーシャルディスタンスを守って行動することは難しい。最終的には、感染した子供達が家に帰って、健康的弱者である親や祖父母に感染させるかもしれない。

そんなことが容易に想像できる現状にあり、感染拡大が収まるどころか上昇傾向の今、やっぱり学校に登校させることはできないという結論に教育委員会も保護者もたどり着く。もちろん親はがっかりする。与えるべき教育をそのレベルで与えてあげられないことにがっかりするだけではない。子供達がしっかりオンラインスクールを受けているかどうか監視し、監視されるのを嫌がる子供とぶつかり、仕事や家事に集中できない環境にフラストレーションが溜まるのは、夏休み前に経験済みだ。

カリフォルニア州では、すでに、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンフランシスコの最大学区がオンラインスクールで新学期を始めることを発表した。感染状況が収まってくれば、徐々に登校できる授業を増やしていく計画ではあるが、実際はどのようになるのかはすっぽりと霧の中である。先が見えない。

というわけで、関係する全ての人が頭を抱える新学期はもう目の前だ。

 

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