シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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苛酷な選択肢(ロックダウン51日目・現時点の解除予定日まで残り26日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

以前にも触れたことのあるUniversity of WashintonのCOVID-19 Projections  は、各国及び米国の各州で、COVID-19による感染者数及び死者数の予測値をわかりやすいデータマップにして示している。なかなか信頼度の高いデータで、州政府やさまざまな公的機関でも使用される予想値だ。

そのデータが今日、新しい値に更新された。過半数を超える州が大胆な規制緩和に踏み切ることが、どのようにこの予測値に影響を与えるのかが注目されるところだ。

結果は、現時点での各州の規制緩和のプランをデータに反映させたところ、昨日まで7万人強だった全米の8月までの予測死者数は、いっきに13万4千人超まで跳ね上がった。約2倍とも言える大幅な変更結果である。

単純に言えば、各州の規制緩和プランを反映した前と後の差である約6万人の命が、早すぎる経済の再開によって払うことになる代償である。

この日記にも何度か登場しているファウチ博士は次のように語っている。

「これはバランスの問題であり、非常に難しい選択となります。なるべく早く普通の生活に戻るという目的のために、どれだけの多くの死と苦しみを受け入れる覚悟があるのかという質問に人々は向き合わなくてはなりません。私がこのような情報を送り続けるのは、事実を伝えなくてはならないという私の道徳的使命感からです。みなさんは自分たちでこの選択しなくてはなりません。」

今、連邦政府も州政府も郡の衛生局も市長も、目の前に苛酷な選択肢を突きつけらえれている。より多い生命の犠牲か、より深遠なビジネスの衰退かの二択である。

 大胆な規制緩和に踏み切った多くの州は、助けられる可能性のある命よりも経済繁栄を選択したと思われても仕方がない。しかし、単純に彼らの道徳心を否定できるかと言えば、実はそれは難しい。今回のパンデミックで苦しんでいるのは、現時点で7万人を超える亡くなった人々やその家族だけではないからだ。実に13百万人の労働者が、突然仕事を失ったのである。

仕事を失った人々は、経済が破綻した状態では新しい仕事を探すこともできない。また、米国経済の負った大きすぎる傷を考えれば、ロックダウン規制が緩和されたとしても、以前のポジションに戻れる保証はない。収入が突然にして断ち切られ、家賃もローンも払えない。最悪の場合は食べ物すらも購入できない。教会などが主催する食料品の無料配給イベントには、かつてないほどの長蛇の列ができている。

ビジネスオーナーたちも苦しんでいる。多額の借金を抱え、閉店・閉業も相次いでいる。そんな彼らのストレスは想像に難い。時間が止まってしまったロックダウンの中で、運用資金の残高だけが減っていく。ジリジリと真綿で首を閉められているようなものだ。このままでは、感染しないで生き残っても、経済的に破綻して自ら死を選んでしまう人が出てくる可能性も否定しきれない。

連邦政府も州政府も失業者や小規模ビジネスに様々な支援策を送っているが、影響を受けている人々の数が桁違いなので、実際のサポートは未だ行き届いていない。そこに加えて、中小企業に止まらず全米展開をしているような服飾メーカーや百貨店の倒産寸前であるという噂やAirbnbのような旅行関連業界での人員カットなどが相次いでいる

このような八方塞がりの状況では、犠牲になる命から目を逸らして、凍りついてしまった経済を少しでも早く動かしたいと考える人々を、単純に愚かだと言えるだろうか。今日、いくつかの州が規制を緩和したことを受けて米国の株価は上昇した。経済的に苦しんでいる人たちに、少し安心感をもたらしたニュースだっただろう。たとえ、それが規制緩和が正しくないと思っている人にとってもである。

ただ、今回のウィルスとの戦争では、目を逸らしがちではあるが、逸らしてはいけない事実がある。犠牲になる人々の多くは、炎天下に規制緩和を合唱できる元気がある人々ではなくて、むしろ家に閉じこもっているしかないような、もしくは生活必需品関連のビジネスに関わって毎日高リスクの環境で働き続けているような、社会的弱者であるということだ。年配の人々、慢性疾患のある人々、経済的弱者、健康的弱者が主に命を失うのだ。この状況を悩むことなく受け入れられる人は人間として倫理観が欠如している。

この苛酷な選択を人々はどうやって決めるのだろう。カリフォルニアのニューサム知事は、現時点では、犠牲になる命を最小限に留める方の選択肢を選んだ数少ない知事である。それと同時に、失業者のサポートする資金が州で足りなくなり連邦政府に借金を申し入れている。カリフォルニア州民の多くはニューサム知事の選択を支持しているが、職を失っている人々にとって、いつまで続くのかわからないロックダウン状態は息ができないと感じるほど苦しいはずだ。それでも、たくさんのカリフォルニア民は救える命と最前線で戦っている戦士のために家にいる。

ビル・ゲイツが某トークショーで、経済活動を犠牲にして健康と生命を守ることと、経済復活のための賭けをすることと、どちらが良いと思うかと聞かれた時に、こう答えた。

「もちろん健康と命です。命があり健康であれば、経済は後から必ず復活させることができるからですよ

 

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