シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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インドを助ける

インドが非常に厳しい状況だ。米国が記録していた一日あたりの新規感染者数を、数日前からあっさり抜き去って、世界記録を更新している。その数、本日約35万人。1日で35万人の新規感染者である。

当然のことながら医療危機が始まっている。人工呼吸器や医療従事者のための防護機材はもちろんだが、吸入用の酸素までも危機的な状況だ。

この事態を受けて、ヨーロッパの各国と共に米国もインドへのサポートを今朝発表した。パンデミックの初期にニューヨークを筆頭にした米国の医療危機の時に、各国が助けを差し伸べてくれたように、今度は米国が手を差し伸べる番である。

今日の発表によると、人工呼吸器、防護服、酸素を含む医療機器全般でインドに届けることができるリソースをかき集めて輸送手配中のようだ。それに加え、インドが自国でワクチンの生産ができるようにワクチンの原材料と技術サポートも支援の内容に入るらしい。また、CDCをはじめとする専門家のチームもインドに派遣される。それぞれの支援の輸送には軍を使うことも検討されている。

実はもう一つ注目されている支援できるものがあるのだが、これが非常に微妙なのだ。

世界で流通しているワクチンは6種類ぐらいなのだが、そのうち英国で開発されたアストラゼネカは、米国のジョンソン&ジョンソンよりも早く完成し世界で流通が始まったワクチンだ。米国はその時点で相当数のアストラゼネカを購入しストックしたのだが、その後、米国はいまだにアストラゼネカの国内接種を認可していない。認可手続きに提出されているデータに不備が見つかったり、データの信頼性を再調査するようなプロセスが発生したからだ。その間に、アストラゼネカの深刻な副反応がヨーロッパでニュースになり、いよいよアストラゼネカの認可を躊躇する事態の中、ジョンソン&ジョンソンのワクチンが完成した。こちらはあっさり認可されたため、米国は自国製の3種類のワクチン、ファイザー、モデルナ、ジョンソン&ジョンソンを流通できるようになり、ストックされているアストラゼネカは必要ないのではないかと言われている。

ちなみに、2週間前にジョンソン&ジョンソンにもアストラゼネカに似た副反応が報告されて、ジョンソン&ジョンソンのワクチンの接種も一時停止されたが、ヨーロッパや英国が、アストラゼネカがもたらす効果は稀な副反応のリスクに勝るという理由で接種が続けられているのと同じ理由で、ジョンソン&ジョンソンの接種も再開された。現時点ではアストラゼネカよりもジョンソン&ジョンソンの方が若干副反応の割合が低いようだが、どちらにしても非常に稀な副反応であるため接種が再開されたのは予想された流れだった。

話を戻すと、米国は多分、アストラゼネカの認可を通す必要はなく、自国でワクチンをまかなえると思われる。では、米国が購入してストックしてある何百万接種ぶんのアストラゼネカはどうするのか?そこで、一部の識者の中には、有効なワクチンを眠らせておくくらいならインドに送るのはどうだろうかという意見出ている。

これは非常にセンシティブな問題だ。もちろん、米国政府はアストラゼネカをインドに送ることはできるだろう。しかし、そのタイミングややり方によっては、あたかもいらなくなったものを別の国に押し付けていると受け取られてしまうリスクは相当に高い。特に米国で認可されていないことを考えれば、認可できない商品を別の国に差し出すというのは、見方によっては非常に暗い解釈をされるだろう。

だからこそ、米国政府はそう簡単にはストックされているアストラゼネカを放出できないのだと思う。そんな面倒なことをいってないで、1人でも多くの命を救うために出すべきだという人もいるだろうが、出したら出したで、金満国が貧しい国人たちの命を軽く見て認可していないワクチンを渡していると唱える人たちも必ずいる。そして、そのような艶聞を利用して国際政治を揺るがす事態を起こそうとする人たちもきっといる。ワクチン外交は本当にセンシティブで、そんなに単純ではない。

少し話は変わるが、WHOやフランス政府は、ワクチンの分配があまりにも世界的に不公平であると批判している。確かにその通りだ。ありえないほど不公平だし、人道的に問題だという説を否定する人はいないだろう。また、これらの批判の中には、米国はワクチン製作の技術を公開するべきだというものもある。短いスパンで単純にいえばその通りだ。

しかし、アストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのような既存の技術で作られたワクチンならともかく、mRNAのような新技術、すでに製薬会社が何十年も投資と研究を続けて開発された新世界を担うかもしれない技術をあっさりと公開することは難しい。この技術は、癌の治療など免疫系の様々な難病に光をさす技術である。だからこそ、製薬会社や投資家たちは莫大な資金と時間を投じてきたのだ。その大規模な投資を回収できなくては、製薬会社も投資家も破綻してしまう。これが破綻してしまえば、これより先のさらなる技術開発が立ち回らなくなり、結果的に未来の医療技術の進歩を減速する可能性すらあるだろう。個人が欲に溺れているとか、そういう単純な問題ではなくて、もっとシステマティックな問題なのだ。

というわけで、少なくとも米国がワクチンの原材料と技術サポートをインドに送ると発表したのは、それだけでも非常に大きなことだと思う。現時点でどのワクチンの話かは書かれていないので、上記のことを前提に、ジョンソン&ジョンソンかなと私は勝手に思っているのだが、本当のところは私にはわからない。

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