シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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パンデミックの中のFOMO (規制緩和フェーズ2)

FOMOという言葉を知っているだろうか。これは「Fear Of Missing Out」の頭文字をとった略語で意味は「取り残されることへの不安や恐怖」とでも訳せばよいと思う。SNSが流行り始めた10年ぐらい前から使われるようになった言葉で、SNSが生んだ一種の現代病だとも言われている。

その症状とは、例えば、友達が集まって素敵な店に出かけている写真をSNSで見つけたときに、「あれ?私は?もしかして取り残されてる?」とモヤモヤとした気持ちになったことはないだろうか、そう、その感情がFOMOである。これは特に自我の確立が曖昧な若者の間では深刻で、人のSNSを見ているうちに、取り残されたくない、話題に遅れたくない、という不安が募り、無理をしてイベントやパーティに参加しようとしたり、ひきりなしにSNSをチェックして、他人がなにをしているのか、自分が取り残されていないかを確認していないと落ち着かなくなってしまうストレス病だ。

さて、パンデミックにより、パーティやイベントや話題のお店を楽しむことができなくなってしまった今、現代人はFOMOから開放されたのだろうか。答えはイエスでもあり、ノーでもある。

もしあなたが、ロックダウン後に、前より生活がのんびりして、大きな声では言えないけど実は今の生活のほうが好きかもと思っているのなら、あなたはめでたくFOMOから開放された人だ。今や友人のSNSを見ても、自分が取り残されているかもしれないパーティやイベントやお出かけの投稿はない。かつてそういう投稿をみつけてはざわついていた心は、今や日々穏やかで精神的健康が保たれている。そういう人は「今の生活のほうが好きだ」と思っている自分のことを覚えていたほうがいい。いっそのことどこかに書きとめておいたほうがいいかもしれない。そして、ロックダウンが終わった後、再びSNSへのキラキラした投稿合戦がはじまったときに、うっかりFOMOに絡め取られそうになったら、「いやいや、これは自分に必要のないものだった」なと、今のことを思い出すことができればいいと思う。

しかし、実は多くのFOMO患者はロックダウン後も、違う形のモヤモヤ感に襲われているらしい。ロックダウンで家に引きこもるようになった人々がSNSの投稿をやめたかといえばそうでもなくて、今度は家でも自分ができることと、その生産性の高さをSNSに投稿する人が増えたのだ。手作りのパンやお菓子がもっとも象徴的なもので、パンデミックに入ってからベーキングが一気に流行し、この辺りでも小麦粉やベーキングパウダーやイーストが何ヶ月も手に入らなかった。もちろんベーキングにとどまらず、手作りの凝った料理やクラフトを投稿する人たちもいる。手作りマスク作りもそのひとつだ。それにとどまらず、ガーデニング、家のリフォーム、ボランティア活動、人種差別の抗議活動にいたるまで、様々な形の生産性の高い活動がSNSに投稿されていく。そんな投稿と自分の毎日を比べて、他の人に比べて自分は時間を無駄にしているようなあせりとモヤモヤを感じて、突然パンを焼きだしたり、クラフトを始めたりしていたら、そこにはFOMOがある。

本当にそれらの活動をしたい人が活動をして、自己実現や充足感を通して心の平安を獲得できるのならば、それはもちろんよいことだ。ついでに、それをSNSに投稿して人に褒めてもらい、さらに気分が良くなるのもいいと思う。ただ、その前提は、たとえ他人に褒めてもらえないとしても、その活動をやる情熱が本人に十分にあることだ。

しかし、単に誰かのSNSの投稿を見て、漠然とした不安を感じて、なにかしなくっちゃと思っているのだったら、なにをやってもたぶん焦燥感は減らずに、むしろ疲労感が募るだけになるかもしれない。やろうとしていることが、誰かに承認されなくてもやりたいことなのかどうか再考して、そうでなければする必要はない。今は、ただでさえ不安なパンデミックの時代だ。さらに心の不安を掻き立てる必要はないし、のんびり平和に過ごすことだって、十分に感染拡大防止に貢献しているのだ。

パンデミック後、ティーンエイジャーたちはますますネットワークで生きる時間が増えた。友達に会えない分、電話をしたり、メッセージを交換したり、SNSで自分や他人を表現したり承認したりして過ごしている。多くの子供達が一日6時間近くネットワークに触れているといわれる。

パンデミックの以前からFOMOに悩まされていた多くのティーンエイジャーたちが、パンデミックによって、学校を失い、部活動を失い、将来に不安をかかえて、なおかつ友人間のコミュニケーションで発生するFOMOに悩まされて、ネットワーク中を浮遊して毎日をすごしているとしたら、そのストレスは計り知れない。そんなことがないかどうか、大人がさりげなく確認したり助けてあげる機会があればよいなと思う。

 

 

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