シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ワクチンの分配と信用できる社会(パープルティア)

いよいよ米国における最初のワクチンの承認が近づいてきた。今後2週間以内にFDAによってPfizerのワクチンに対する正式な承認が降りると予想されている。

これに先立ちすでにワクチンの輸送が始まっていて、承認が降りたと同時に接種が可能になるように準備が進んでいる。前にもこの日記に書いたように、Pfizerのワクチンは超低温保管が必要で、接種直前まで摂氏-70度の状態で輸送保管が必要とされるという、なかなか取り扱いが難しいものだ。通常なら数年かかるワクチンの開発を数ヶ月で達成しているので、取り扱い時の安定性が犠牲になったのは仕方がない。むしろ、そんなに難しい取り扱い条件の輸送、保管、接種体制を整えることができる現代の技術に感謝と感嘆の意を表するべきだろう。

さて、承認に先立って行われているのはワクチンの輸送だけではない。誰が最初にワクチンを接種するのか、優先順位が決められなくてはならない。本日CDCは米国において最初にワクチンを接種するグループを決定するためのミーティングを行った。その結果、大方の予想通り、パンデミックとの戦いの最前線にたっている医療関係者とウィルスによって最も被害を受けている高齢者長期療養施設の住人が、最も優先順位が高いグループということで、ワクチンが最初に配布されるグループと決定された。

さて、ここで問題は、12月中に米国で接種可能なワクチンの数は4000万と言われているが、このワクチンは効果を発揮する為には2回接種する必要がある。つまり12月中には2000万人分のワクチンがあるということになる。しかし、米国における医療関係者と長期療養施設の住民はおよそ2400万人と言われているので、この時点ですでに足りていない。ということは、最初に分配されるワクチンは必要な人々全員には行き渡らないので、それでは中でも誰が接種するのか、つまり最前線の中の最前線は誰なのかを決める必要がある。なかなか難しい判断だろう。

良いこともある。医療関係者も長期療養施設の住人もすでに医療体制が整った施設にいる人々なので、超低温が必要な取り扱いの難しいワクチンであっても接種そのものの作業はそれほど複雑ではなく、誰が接種するのかさえ決まればスムースな接種が行われると思われる。

そして、1月には次のワクチンのバッチが分配されるので、12月に接種できなかった残りの人々の接種が可能になるだろうと言われている。次に誰が接種するのかはまだ決定されていないが、大方の予想では感染リスクの高い慢性疾患を持つ人々なのではないかと言われている。そして、その次が65歳以上の人々、最後に子供、若者、健康は大人という流れが一番可能性が高い。最後の段階に行き着くまでには、さらにたくさんのワクチンが承認され分配されるワクチンの量も増えて、2021年の夏ぐらいまでには米国全体に行き渡るのではないかと予想されている。

現時点での懸念は2つ。1つ目はワクチンの接種に反発する人々にいかにワクチンの接種を勧めるか。2つ目は現時点ではワクチンの効果がどれだけ長い期間続くのかがわかっていないことである。これは、今後ワクチンの接種が段階的に進むにつれ、ワクチンの信頼性が上がり、また、研究結果が増え、どちらも徐々に解決策や答えを得ることができるのではないかと言われている。

とうとう世界が回復へと動き出すニュースは明るいが、実際にワクチンが行き渡るまでの今後数ヶ月の間、人々は自粛生活を続け、できるだけ感染被害を押さえながら、かつ経済的にも生き残る必要がある。この8ヶ月間米国が主に失敗してきたことなので、今後6ヶ月から8ヶ月も失敗し続けるのか、または、これまでの失敗から学んだ知識によって賢く対応できるのか、まだ誰にもわからない。

さて、ブルームバーグ社が掲載した非常に面白い記事がある。これまでのパンデミックに対する対応を評価した上で、現時点では世界でどこに住むのが一番良いのかというデータだ。指標は、感染の拡大度や死亡率はもちろんだが、テスト実施能力、今後のワクチンの供給状況、医療体制、ロックダウンのような規制体制とそれによって影響を受けた経済状態、国民の行動の自由度など、様々な指標を基にグルームバーグ社が点数をつけた結果である。

参照:https://www.bloomberg.com/graphics/covid-resilience-ranking/

1位は誰もが納得のニュージーランド。ニュージーランドは死者が出ていない時点で素早くロックダウンを行い、国外からの入国を禁止した。島国ならではの技である。これにより、そもそも国内に入り込んだウィルスが極端に少ない状況でウィルスを制御することができたため、ここ数ヶ月の感染者は10人以下という、ほぼウィルスフリーの社会を実現している。国内ではライブミュージックや大きなイベントも開催可能で、国民はごく普通に暮らしている。ただし、ニュージーランドの最大ビジネスである観光は、国外からの入国禁止が続いている現状ではもちろん深刻な打撃を受けている。

そして、2位はなんと日本だった。日本の皆さん、誇りに思って良いと思う。この記事によれば、日本のアプローチはニュージーランドとは全く異なり、ロックダウンもしなかったし、規制がゆるいにもかかわらず感染は抑えられており、経済活動が継続できているのが特徴だ。その代わり発達したコンタクトトレースにより感染経路を制御していること、そして何よりも国民の社会に対する信用とコンプライアンスが非常に高いことが感染を低く押さえてている要因であると論じられている。確かに現在感染者は増えているが、ヨーロッパや米国の感染者の数に比べれば桁違いに低い。

この記事の内容で一番納得したのは、ウィルスへの対応の失敗や成功の様々な要因が記載されている中で、成功している国々の特徴は、国民が持つ政府に対する高い信頼感と社会的なコンプライアンスだ。国民が政府や権限を持つ組織を信頼し、そのガイドラインを守る社会が実現されていれば、日本のようにロックダウンを行わなくてもウィルスは制御可能だということだ。

この記事は、この8ヶ月の米国の現状を追ってきた私には大納得である。とにかく米国の多くの人々は、政府を信用していないし、社会を信用していない。いまだにパンデミックはでたらめで、コロナウィルスなど存在しないといっている人々が相当数存在している。ウィルスの存在を認めていても、マスクをするべきだという専門家の助言は信用できない。マスコミや権威によって状況が誇張され過ぎている、神経質すぎると信用しない。個人情報が流れると怖いのでコンタクトトレースには応じない。そもそも知らない人からの電話は信用できないから出ない。とにかく、この国の人々は、知らない人と権威を信じなさすぎる。

そこに、息をするように虚言をいう大統領による選挙戦後の混乱により、今や民主主義の基本である選挙結果の信頼性にまで泥がぬられ、票の信頼性を法廷で争っているだけならまだしも、この争いに煽られた人々により選挙管理人やその家族を脅迫が続き、彼らは命の危険を感じているという悲惨な状況だ。

米国の人々が、知らない人や権威を信用しない理由は、その建国の歴史とも大いに関係があるので、私のような外国人が軽々しく批判することはできない。が、それにしてもこんなに社会を疑って生きていくのは、さぞやストレスが高いだろうなと感じることはできる。

日本は社会的規範から逸脱しないように自己抑制する事による個人ストレスが高い社会だが、米国のような極度の個人主義が到達した先も、実は相当にストレスの高い社会だったりするのだ。

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