シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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もしもの話(パープルティア)

今日、カリフォルニアのニューサム州知事は、現在パープルティアの郡に対してさらに厳しい規制が発令される可能性があることを示唆した。いよいよ再ロックダウン寸前である。現在パープルティアの郡と書いたが、カリフォルニア州にある58郡のうち51郡はすでにパープルティアに属しており、カリフォルニアの全人口の99%は現在パープルティアに分類されている郡に住んでいる。つまり、パープルティアにロックダウンが発令されれば、実質カリフォルニア全土がロックダウンされることに近い。

前回カリフォルニアが全土に渡りロックダウンしたのは(実際にはShaleter-in-Place と呼ばれる規制)3月16日だ (「シリコンバレーロックダウンまでの経緯」を参照)。そのまま6月の初めまで2ヶ月半に渡りカリフォルニアはロックダウン状態だった。厳しいロックダウンだったが、そのおかげでカリフォルニアは、全米でも早い段階で感染者が出たにもかかわらずパンデミック初期の大波に飲まれることなく、ニューヨークのような医療崩壊の悲劇を再現することはなかった。さて、この長いロックダウンの間、パンデミック初期には感染が広がっていなかった北部地方の郡では、感染者がほとんどいないのにビジネス活動ができない状態に大きな不満が広がり、それを発端にカリフォルニアでは郡単位の規制システムを採用する形ができあがった。

さて、もし今回再びロックダウンが発令されたとしても、前回のように人口の少ない地方から不満の声があがることはないと断言できる。なぜなら、残念なことに今回感染拡大が一番深刻なのは、最初のロックダウンの時にほとんど感染者がいなかったカリフォルニア北部地方の郡なのである。

現在の感染拡大で最も懸念されているのは、ICUと入院用ベッドが足りなくなる可能性だ。現時点で、カリフォルニアの全ICUベッドの75%が既に占有されている。これらの患者がすべてCOVIDの患者ではないが、COVIDの患者が増え続けICUのベッドを占有していくにつれ、COVID以外の様々な理由でICUを必要とする患者の看護状態も脅かされていく。

このまま、特に対策をせずに現在と同じ状態で感染が拡大し続けた場合、最初にICUベッドが足りなくなるのは皮肉なことに先程話題になったカリフォルニアの北部地方で、12月初旬にICU施設が足りなくなると予測されている。夏に深刻な感染拡大の舞台になったカリフォルニア南部でも感染は再拡大を迎えており、12月中旬にはICUベッドは満床になりそうだ。州都のあるサクラメント周辺では12月下旬、そして、シリコンバレーのあるベイエリア周辺では、来年の1月にはICUのベッドが足りなくなるという予想がでている。

つまり、溢れた患者はもうカリフォルニアのどこに行くこともできない。カリフォルニアと隣合わせのすべての州もカリフォルニア州と同じくらいか、もしくはもっと深刻な状態なので州を越えた助けも期待できない。そして、現連邦政府は感染拡大についてはさじを投げたままなにもしないので、今や州は州でなんとかするしかないのだ。いよいよ再ロックダウンがかかったとしても、やむを得ないとしかいいようがない。

私のように在宅で働ける者は、いっそのこと全土を厳しくロックダウンして感染拡大を今すぐ止めてほしいと思っている人も多いかもしれないが、規制緩和によりようやく再び働けるようになった人たちにとっては、厳しいロックダウン再来はライフラインの消失につながる。最初のロックダウンのときには、連邦政府の特別予算から失業保険の給付金に補助金が特別上乗せされたり、スモールビジネスのための特別給付金、一定所得以下の国民への一律一時給付金の支給などが迅速に対応されたが、今の連邦政府の混乱状態と現大統領自身のロックダウンに反発する姿勢から考えると、政権が交代するまでは連邦政府からの助けはあまり期待できない。こんなに不安な状態で州全土をロックダウンするのは、実は相当苦しい決断となる。

実は今日、連邦政府のコロナウィルスタスクフォースのアトラス博士が辞任した。アトラス博士については、ぜひ「集団免疫論についてちょっとだけ考えてみた」を参照してほしい。彼の主張する集団免疫論は非常に危険な発想で、免疫学の専門家たちに大いに批判されていたが、トランプ大統領の「コロナウィルスはたいしたことない、感染防止の努力などしなくてもそのうち消える」という主張にしっくりはまる学説を展開する学者だったため、トランプ大統領からタスクフォースへの参加を要請された。その後しばらくは、彼がタスクフォースの中心であるかのように表舞台にでてきていたが、彼の主張が専門家に批判されるたびに少しづつ露出が減り続け、大統領選挙の終結とともにその存在はほぼ聞かれなくなっていたところだった。

トランプ大統領が政権交代へのプロセスを認めた(選挙での敗北はまだ認めていない)ことにより、彼のイエスマンとして雇われたアトラス博士のいる場所はもうないわけで、彼が辞任したのは理にかなっている。だた、この辞任に伴い、私の中でワイルドな考えが沸き起こった。

もし、もしも、大統領選挙でトランプ大統領の再選が決まっていたら、今、多くの州で医療崩壊寸前なこの状況を、トランプ大統領やアトラス博士はどう表現したのだろうか。

きっとトランプ大統領は、自分の素晴らしい采配のおかげでワクチンが完成し、皆すぐに摂取できるようになるから、状況はよくなっているといっただろう。実際に、ワクチンは今月中に摂取できる人がいるかも知れないというところまできている。が、全米国人にいきわたるまでにはまだ何ヶ月もかかる。という事実はスルーして、ワクチンができてよかった、もう大丈夫だとお得意の虚言を並べたことだろう。良くなる前にちょっとばかり悪くなるけど、大丈夫だからそんなに心配することはないと言っただろう。そして、マスクをしないでゲストを招きホワイトハウスのクリスマスパーティを開催しただろう(これはまだ催す可能性があるが)。アトラス博士がなにを言うかはまったく想像できないけれど、少なくともタスクフォースを辞任することはなかっただろうし、たぶん大統領の主張にしっくりするコメントを続けていたのではないかと思う。

ただでさえ危機的な医療体制と数週間で確実に死者が増える状況を目の前にして、あのお気楽な虚言を聞かなくてすんでよかった。パンデミックの中、すでに私達の生活はストレスにあふれているのに、国の最高責任者とその側近たちが発する明らかに真実ではない発言を聞くときのストレスとフラストレーションは、これまで相当に私を疲弊させていたらしいと、聞かなくてすむようになってから気がついた次第だ。

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