シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ホワイトハウスのクラスタ(ティア2)

大統領の感染ニュースの続報だが、まず彼自身は現在、軍の病院にある大統領執務室に移動し隔離されている。「ついに大統領感染(ティア2)」を書いた時点、つまりカリフォルニア時間で木曜日の深夜の段階では、大統領は無症状だという報道だったのだが、実際には症状は出ていたらしく、金曜日の朝の時点では熱もあり血中酸素も一時的に落ちていて酸素補給をうけていたらしい。その後、大統領用の執務室がある病院にヘリコプターで移動した。これを入院というのかどうかが微妙なところなのだが、とにかく検査や看護を受けられる環境で執務を行うという発表がされた。

その後、土曜日の昼頃の専属の医師の発表によると、薬の投与の効果もあり、目に見えて回復していているそうだ。が、どこの国でもいえることなのだけれど、こういう非常時だと、政府関係者のいうことは、はっきりいって何も信用できない。人によっては、感染そのものまで、同情をひくための策略なんじゃないかとかいう人もいるくらい、政府というのは信用されていないのだ。

まあ、この時期に感染したふりをしても大統領の得になることはあまり考えられないので、感染したのはまちがいないだろうし、一時期よりも回復しているというのも嘘ではないと思う。ただし、この日記にも書いているように、今回のウィルスの特徴の1つは、最初のうちは軽い症状でも数日後に悪化することであるので、楽観的な発表をしていた医師たちも、心のなかではこの数日は予断を許さないと感じているのではないかと思う。

さて、この間、ホワイトハウスに出入りした人々の感染テストの結果が次々と発表され、すでに十数人の陽性者が発表されている。このクラスタがどこでどう始まったのかは未だにわかっていないのだが、1つ注目を浴びているのは、先週の土曜にホワイトハウスで行われた最高裁判所の陪審判事候補をノミネートするイベントだ。

このイベントはいろいろないわくつきだ。リベラル派で米国民に愛され続けたRBG(ルース・ベーダー・ギンズバーグ)が87歳で亡くなったのが9月18日だった。トランプ大統領を批判し続けた彼女の遺言の一つは、彼女の後任をトランプ大統領には選ばせたくないというものだったのだが、もちろん故人の遺言には強制力がないので、トランプ大統領は大急ぎで保守派の判事を選びノミネートすることにした。今、リベラル派に変わって保守派を最高裁に送り込むことができれば、共和党としてはとても有利になるからだ。

最高裁判所の陪審判事のノミネートというのは大きなイベントで、習慣的にホワイトハウスで式典とパーティを行ってきたのだが、今回に限っては、通常通り式典を開くかどうかは考える余地があったはずだ。パンデミックの真っ只中、政府が大きなイベントは開催するべきではないという見解を発表しているのにも関わらず、大勢のゲストを集めて式典を開くリスクについて、ホワイトハウスがどう考えたかは知らないが、結局は習慣通りに、相当数のゲストが招かれて150人以上の人々が集まる華やかなイベントが開かれた。

その映像をみればわかることだが、参列者の殆どはマスクをしておらず、各席はすぐ隣り合わせでソーシャルディスタンスはなかった。その上、いくつかの報道写真をみると、かれらは握手をしたりハグをしたりして挨拶を交わしているのだ。政府が推奨している感染予防の努力は、そこにはほぼまったく見られなかった。その光景は、まるでパンデミック前の普通の生活が突如その空間にだけ戻ってきたような、不思議な光景だった。

そして、その式典の出席者から、現時点で大統領を含め8人の感染者が発表されている。必ずしもその式典で感染したとは断定できないのだが、あの光景をみれば、あの場で感染したとしてもまったく驚きはない。式典は野外であったのだが、式典の後は室内に移動したとの報道まであった。

この話は、メイン州で60人のゲストを集めて野外結婚式を開催し、大規模クラスタを発生させていたカップルの話とそっくりだ(「コンタクトトレースが教えてくれる」を参照)。唯一の違いは、式典の出席者はホワイトハウスに到着後、5分で結果が出る簡易検査を受けたことぐらいだ。しかし、この簡易検査は不正確な結果をだすことも多いと知られているし、たとえこの検査で陰性と出た場合でも、体内に潜在しているウィルスは他の人間に感染する可能性があると考えられている。つまり、ウィルス検査をしたとしても、マスクをして、ソーシャルディスタンスをとる必要はあった。

はずだが、そういうNew Normalな視点は全く無視された。政府のアドバイザーとして、ファウチ博士が口を酸っぱくして伝えていることは何一つ、大統領を始めホワイトハウスの関係者には伝わっていなかったらしい。

その週末は、式典だけではなく、大統領は火曜日に迎える大統領候補のディベートの用意で忙しかった。また、その後も選挙の遊説で大統領は大勢の人達に会っていた。もちろんマスクをしないで、ソーシャルディスタンスをとらないでである。その間、彼は自分が他の人を感染させる可能性があるとは夢にも思わなかっただろう。

現在、、彼のディベートの戦略を一緒に練った共和党議員や選挙キャンペーンの責任者などが、次々に陽性のテスト結果を発表している。ホワイトハウスの報道関係者にも数人感染者が出ている。今後もこのクラスタは広がっていく可能性がある。

陪審判事ノミネートの式典は、今や、スーパスプレッダーイベントのお手本のようだと言われている。あの式典に参加していたすべての人は、今頃は正式なPCR検査をうけたことだろう。しかし、一度陰性が出ても、その後いつ陽性が出るかわからないのも、このウィルスの特徴だ。とにかく潜伏期間が長い。彼らには不安な日々が待っている。

今、ホワイトハウスも議会も混乱のさなかにいる。ノミネートを受けたエイミー・コニー・バレット判事が正式に最高裁判所の陪審判事に任命されるためには、議会での投票が必要だ。しかし、投票に参加するべき議員の数人は、感染のために隔離または入院中である。その人数が増える可能性まである。はたして、彼女は本当に選挙前に正式に任命されることができるのだろうか。共和党としてはどうしても任命して最高裁での保守派の力を強めたいので、無理をしてでも推し進める可能性は高いが、このクラスタの広がりや大統領の容態によっては、思ったようにプロセスを進めることができない可能性がある

「私の後任をトランプ氏に選ばせたくない」というRBGの信念が、どこかで空気を震わせているような気がした。

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