シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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倒産(Chapter 11)と閉店(規制緩和フェーズ2)

米国ビジネスを少し知っている人であれば、通常聞いたことのある言葉がChapter 11である。これは、連邦倒産法第11条のことなのだが、基本的に大きな会社の倒産手続きに使われる法律で、あまりによく使われるので省略してChapter 11と呼ばれている。倒産といっても再建型倒産処理手続きに関する法律であり、日本でいう民事再生法に値する。つまり、Chapter 11の手続きをしたからといって、その会社がすぐなくなるということはなく、なんだかんだ営業方法や商戦を変えて、生き残ったりしているところも多い。

さて、今回のパンデミックでたくさんの大企業がChapter 11の申請を余儀なくされている。衣料販売店、輸入雑貨販売店、レストランチェーン、デパート、スポーツジムチェーンなど、どれもパンデミックの影響を直接かぶり、誰もが知っているようなビッグネームでさえもChapter 11を申請している。

しかし、3月下旬からニュースを賑わし続けているこれらの大規模な倒産は、実は米国ビジネス界に累々と横たわる大量の屍のほんの一部でしかないらしい。なぜなら、今回のパンデミックの影響を最もダイレクトに受けているスモールビジネス(小中規模ビジネス)の多くは、Chapter 11の申請せずに閉店するからだ。

その理由は2つある。1つ目は小さなビジネスほど、借金がないことが多い。借金がなければ倒産申請は必要なく、ただ店を閉店するだけだ。特別な手続きは必要ない。2つ目は、仮に倒産手続きをすると、その後のクレジット信用が落ちてしまい、将来お金が借りにくくなる。それくらいならば、店の資材を売って借金を返してから店を閉める人も多い。そうすれば倒産手続きはしなくてすむからだ。

ということで、中小企業のビジネスがどれくらいの閉店になっているのかは、実は簡単には数えることができない。ただ、米国で絶大な人気を誇り、あらゆるサービスのオンラインレビューを掲載しているYelpによると、3月1日から7月25日の間になんと8万件以上のビジネスが閉店している。そのうち6万件は支店が5件以下のローカルな店やチェーンであることがわかっている。

閉店した主なビジネスの内訳は、ダントツでレストラン、次に販売店、続いて美容関連、車関連、イベント関連と続く。

このような小さなビジネスの閉店の一つ一つが米国経済に与える影響は大きくないが、その全てを集計すると影響は膨大だ。なにしろ、従業員500人以下のビジネスは全米のビジネス活動のなんと44%をしめているのだ。そして、そこで働く人々は全米の労働人口の約半数だといわれている。

前にも書いたけれども、小さなビジネスは資金的に体力がない。営業が滞って売上がなくなればあっという間に営業が立ち行かなくなってしまう。半年ぐらいは耐えられても、それ以上はなかなか難しい。連邦政府も州政府も、様々な形の支援を用意しているが、それも十分ではないうえに、いつまで続くかわからない状態だ。先行きが不透明な状態では、資金が少しでも残っているうちにビジネスを閉めてしまおうとする経営者も多くて当然だ。今や58%の経営者が自分のビジネスを閉店しなくてはいけないのではないかと心配しているというアンケート結果が出ている。

こうやって小さなビジネスが閉店していけば、それに伴って失業者も増える。シリコンバレーのハイテク企業は在宅ワークにあっという間に移行して、まるでなにごともなかったかのように営業をつづけているが、在宅ワークによりゴーストタウンになったオフィス街のレストランやバー、ショッピングモールや服飾店などからは、膨大な数の失業者が生まれているはずだ。秋には、大学の新学期がオンラインで始まるとすると、学生からの売上で成り立っている学生街のおしゃれな店たちも、顧客を失い閉店をよぎなくされ失業者を生むだろう。

倒産ではない、静かな閉店。ただ看板をおろし、ガスや電気を止めて、店舗の賃貸契約を終了するだけ。そういうひっそりと閉店していく店が無数にあり、その一見可視化されにくいにくい小さな衝撃たちがどんどんと積み重なって、大きなうねりとなって米国経済を蝕もうとしている。

 

 

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