シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ソーシャルメディアとニュースソース(規制緩和フェーズ2)

先週から続報を追っていた話題がもう一つある。カリフォルニア州と正反対の対応で、新学期の開校を強く推奨しているジョージア州の某ハイスクールの夏休み明け初日の様子が、先週の月曜日、ソーシャルメディアにアップロードされた。

写真には普通の校舎の廊下が写っている。その廊下は、教室の移動をしなくてはならない生徒で完全にすし詰め状態だ。お互いに接近している過半数の生徒はマスクをしていない。廊下は通行方向が規制されているのだが、撮影者と同じ方向に進む生徒も、その反対方向に進む生徒も、自由に身動きが取れる状態とはいいがたく、なかなか前に進めない生徒たちがうんざりした様子で写っていた。

ちなみに、この学校の学区は、事前にマスクを着用するかしないかは個人の選択とし、ソーシャルディスタンスは守るのはほとんどの場合で不可能であるという報告をしていた。同時に、学校が始まる前の週に、事前に練習を開始していたフットボールチームですでに複数の感染者が出ていたこともわかっていた。そのような状態で学校が始まったのである。

この写真をソーシャルメディアにアップロードしたのは、同校の生徒だ。夏休み明け、恐る恐る登校したこの生徒は、目にした光景にショックを受け、その様子をソーシャルメディアにアップロードした。そして、この写真はまたたく間に全米を駆け巡り、ニュースメディアでも取り上げられることになった。

それを受けて学校側が行ったことは、なんとこの生徒を停学にすることだった。学校で就学時間内にソーシャルメディアに投稿するのは校則違反であるという理由で停学になったのだ。ちなみに、この生徒の保護者は生徒が写真をアップロードしたのは、就学時間内ではなく自宅に帰ってからであると抗議した。

このニュースは再び全米を駆け巡り、当然ながら大きな批判をあびた。専門家のコメントまでニュースにあがり、学校で撮影されたすべての写真をアップロードしている生徒全員が停学になっていない限り、この停学は不当であると報道された。まったくもってそのとおりだ

ということで、先週の金曜日には手のひらを返すように、この生徒の停学が取り消されたとう報道が流れた。だからといって、学校の現状は変わらないらしいが、少なくともこの生徒のためにほっとした報道だった。大学入学に高校の実績が重要な米国では、高校の成績に停学が記録されるのは非常に高いストレスだからだ。

さて、このニュースをうけて、この学校の他の生徒もニュースソースによりインタビューされたのだが、それによりわかったことは、私達が想像するよりも厳しい彼らの現状だった。

ジョージア州は現在感染拡大の真っ只中で感染者のICU占有率が90%を超えていると言われている。そのような状態で登校するを不安に感じたある生徒の親が、オンラインスクールを自宅で受けるためのオプションに申し込んだところ、申し込みが多すぎて受付てもらえなかった。この生徒も前述の生徒同様、初日にマスクをして恐る恐る登校したのだが、例の写真のような状態に多大なストレスを感じることになった。ソーシャルメディアの写真を見た親も驚き、「明日は学校にいかなくていい」と言って、学校に早速連絡をとって交渉を始めたところ、学校側の態度は頑なで、学校にこないのならば停学処分にすると告げられたそうだ。そこで、この生徒はどうしようもなく翌日も登校したという。

あまりにも不当な話で開いた口も塞がらないのだが、今日、また続報があった。先週学校にいた人間のうち9人の感染が確認されたいうのだ。先週の今日なので、彼らは学校が始まる前に感染していた可能性も高いが、学校で感染した可能性もある。その上、重要なのは、彼らはおそらく感染した状態で数日間マスクをせずに学校に朝から夕方までいたことで、つまり、何十人何百人の生徒たちが確定した複数の感染リスクと共に無防備に行動していたということだ。今後のクラスタの発生が非常に気になる。今後の続報にも注目していきたい。

そして、このような報道があっても、この高校は明日の月曜日も、普通に学校を開けるのだそうで、また生徒たちは恐る恐る登校するのだろう。これを個人の選択だといっていいのか非常に疑問な状態だ。

それにしても、なぜこのようなことがまかり通るのかというのが、多くの人が持つ疑問だと思う。実際に、せめて全校生徒がマスクをしていれば、ある程度リスクが下がると言われているのに、過半数の生徒はマスクをしないことが選んでいる事が、今どこにいってもマスクをしている人しか見ないシリコンバレーにいる私達には異様に感じる。

その大きな理由は、これだけ報道されているにもかかわらず、多くの米国民がパンデミックやウィルス感染の報道は誇張されていると信じているからである。同時に、そういう人々は、自分の所属しているソーシャルメディアの情報に多く触れている。所属しているソーシャルメディアで、ウィルス報道は誇張されているだけだとか、何百人何千人つながっているネットーワークで一人も感染者がいないとか、 マスクはする必要がないとか、そのような情報に毎日触れていては、どうしてもそちらを信じてしまう。また、ニュースメディアはバイアスがかかっているとして信じていない。

この情報の悪循環が今の米国を作り上げている。

ソーシャルメディアは、一個人でも重要な情報を発信できるという意味において大きな役割を果たしている。ちょうど、最初にあげた身動きがきない廊下の写真をアップロードして問題提起をした生徒のように。

同時に、ソーシャルメディアはバックグラウンドチェックのない情報が溢れ出る社会も作り出してしまった。今、ありとあらゆる情報に溢れた社会は、なにが本当になにが作り話なのか確認するすべがない。ニュースソースを含め全部が作り話だと言い張ることすらできる。データも作り話だ、写真も作り話だ、すべてが作り話だと、そんな作り話にのせられるほど、自分は騙されやすくないぞと多くの人が思っている。

では、いったい何を信じたらいいのだろう。むかし、新聞しかなかった時代、人々はニュースを信頼していた。そして、ニュースを報道する人たちは真実を社会に伝えることに誇りを持っていた。命を賭けていた人達もいる。私は、そんな彼らのことをまだ信用しているし、思いついたことをバックグラウンドチェックもなく真実のように伝えるソーシャルメディアよりは、少なくともずっとまともだと思っているけれど。

 

 

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