シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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共感と優しさとノージャッジメント(規制緩和フェーズ2)

今日のニュースで一番記憶に残ったのはこの言葉だ。

必要なのは共感と優しさとノージャッジメントです

これは、ニュースのコメンテーターとして出演していた科学者が「現在のエピデミックをでっち上げだと思っている人に実際にあったらどう対応しますか?」という質問に対しての答えだ。

以前の日記にも書いたように、米国には米国の感染拡大状態を信じない人が非常に多くいる。現在、1日に7万人を超えている感染者の増加も、15万人を超えた累計死者数も、陰謀によりでっち上げられたデータだと捉えて、マスクの着用やソーシャルディスタンスの保持のような規制には従う必要はないと行動する人が本当にたくさんいる。そういう人たちはたいてい保守派で、保守系の新聞を読み、保守系のテレビ局を鑑賞するので、彼らに入る情報では、エピデミックは実際はたいしたことなくて、リベラル系のマスコミによって誇張されたフェイクニュースであることになっているのだろう。

この状況が、科学者や医療関係者の感染拡大を防止しようとする努力を非常に困難なものにしている。どのような規制を打ち出しても、現状を信じずに、それを守る気がない人々に守らせるのはとてもむずかしい。

不思議なのは、世界中に科学を信じない人はいるのに、なぜ米国だけがこれほどまでに悲惨な状況になってしまったのかということだ。たぶん答えは、科学を信じない人の数の桁が違うというところだろう。ほぼ互角の力を持つ2大政党制において、現在政権を握っているのは保守派の共和党だ。中でも、極端に保守よりの大統領が4年前の選挙で選ばれたことを考えると、現在の米国には、科学よりも歴史や宗教を重んじる人々が相当数存在していると思ってよい。国民の半数近くが、陰謀論やフェイクニュースの存在を信じているのだとすれば、「リベラル派によって、でっちあげられたエピデミックを抑制する努力はする必要なし」と考える国民が半分いるのとおなじである。つまり、どのような規制をだしてもそれを守る人は半分しかいないということだ。もちろん、これは極端な話で、実際の選挙では浮動票が結構あるので、国民の半数が強い保守派とはいえない。それでも、生まれてこの方保守派と言い切る人々の数は相当な数に登る。5割とはいかなくても4割ぐらいはいると思う。不運なことに、今回のような感染力の強いウィルスを抑制する規制は、少なくても8割ぐらいの国民が同じコンセンサスを持って行動しなければ意味がない。

米国のエピデミック状態を信じていない人たちには、なにを言ってもむだなんだろうなと思うと気が重い。彼らは感染拡大情報を信用せず、マスクもしないし、ソーシャルディスタンスも保たない。科学者がどんなにデータを掲げて説明しても、保守系の新聞やニュースが掲げている別のデータが与えられているので無駄である。むしろ彼ら側の言い分を延々と聞かされることになるだろう。

ニュースのコメンテータは、これらの人々は、現状を信じていないから規制を守らないというよりも、信じれば規制を守らなくてはならなくなる、規制のない自由な米国的生活に戻りたいがために、「規制を守らなくてすむ正当な理由]を創造しているのではないかと語っていた。

そして最後に、アナウンサーの「あなたが自身が、現在のエピデミックをでっち上げだと思っている人に実際にあったらどう対応しますか?」という質問に彼女はこう答えた。

「人々は多くの情報の中で混乱しています。誰もが科学的なデータだけを選別し理解しているわけではありません。様々なデータや意見、全く反対のデータや意見が世の中には大量に存在し、それらはメディアやSNSを通じて、どちらも同じくらい広く拡散されています。その中で、どれが正しく、どれがフェイクなのかを判断するのは難しいものです。私が誰かに科学的な情報を伝えようとするときは、共感と優しさとノージャッジメントがとても大切だと思っています。」

つまり、相手が自分と反対意見で、自分とは逆傾向のマスコミ報道を信じていたしても、相手の考えが良い悪いというジャッジはすべきではない。必要なのは、溢れる情報の中から間違った情報を拾ってしまう可能性は誰にでもあるという共感、それに対する優しさ、そして、相手に対して善悪の判断をしないことが、相手を説得する鍵になることを、彼女はこれまでの科学者という立場での経験を通して学んだそうだ。

なにごとも論理的に白黒をつける科学の世界だが、それを世間に伝えるときは、共感と優しさとノージャッジメントという、まったく科学的ではない手法が必要だという興味深い話だった

ここ数ヶ月のエピデミックを信じない人たちや規制を守らない人たちのニュースばかりを読んでは、もうあの人達を説得することはできないんだろうなとあきらめムードの中で、いったい誰が、共感と優しさとノージャッジメントを駆使し、制御不能な感染拡大状態を制御できるところまで導いて行けるのだろう。

そのいつ現れるかわからない、現れないかもしれないヒーロー・ヒロインの登場が待ち望まれるばかりだ。

 

 

 

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