シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ここまでしないとダメなのか?(規制緩和フェーズ2・次の緩和レベルまで残り2日)

米国に暮らして数十年たつが、この国の良いところは個人の考え方の多様性を認めているところだと思っている。

特に教育の場において、その長所は発揮される。米国の教育現場では、大多数とは違った考え方や行動をする子供たちを、可能な限りその子供の個性として受け入れようとする懐の広さがあって、そういう教育現場で育ってきた子供たちは、変わった思考や行動をする子供を「変わっている」ことだけを理由につまはじきにするという行動はしない。そういう子供は変わったヤツだなと思われるだろうし、友達になる必要はないなと思われることはあるだろうが、それだけだ。変わっていることを理由に責められることもないし、直すように強制されることもない。「多数と違う」ことが原因で、完全孤立に立たされるような構造的ないじめに発展することはたぶんない。

しかし、この長所は場合によっては弱点にもなりうる。何事もない世界では、自由に自分の意見を言い、やりたいことをやっていても、法を犯さなければ問題はない。しかし、有事には、人々の団結や相互協力が危機を乗り越える大きな武器になることがある。自分の主張を曲げてまで、社会の規律に従うことができない人々がたくさんいるこの国は、マスクをするという単純なことですら、政府が規制で縛らなくてはできないらしい。

昨日、ニューサムカリフォルニア州知事は州全体に、公的建物の室内でのマスクの着用を強制、並びに、野外においても2メートル離れることができない場合はマスクの着用を強制する命令を発令した

この命令は、すでに似たような命令が出ていた郡にはあまり影響を及ぼさない。特にシリコンバレー周辺においては、郡の命令が出ていようが出ていまいが、皆、すでにそのように行動をしていた。ところが以前の日記にも書いたように、同じカリフォルニア州でも南の方に行くとマスク着用率がグッと下がってしまう。象徴的なのはオレンジカウンティで、衛生局の役人がマスクの着用を強制する命令を出した途端にひどい嫌がらせや命の保証がないような脅迫を受け取るはめになり、辞職に追い込まれたのは記憶に新しい。これらの郡では、昨日までマスクの着用義務はなかった。

抑えきれない感染者の増加と、人々を制御しきれない各郡の苦戦を深刻に捉えた州政府が、やむを得ず州命令を出すに至ったのである。州政府の命令であれば、抗議や批判や起訴はありうるが、さすがに命を狙うような脅迫は影をひそめるだろうし、あったとしても州知事はそれなりのセキュリティに守られている。

ここまでしないとダメなのか?とさすがに驚いた。様々なデータが、マスクが感染拡大防止に役立っていることを示しているのに、また、たとえそれほど役に合っていないとしても、ちょっとマスクをするだけで済む話なのに、それでも「私は信じないからマスクはしない」と断固主張する人がいる。言うだけで済めば良いのだが、もちろん行動でも示す。それどころか、強制を廃止するためにありとあらゆる行動をとる。彼らは権力に屈しないと言う。自由の侵害だと言う。

いや、これは、社会に感染が蔓延しないための相互協力だから、自由の侵害ではないんですよと言っても、もちろん納得しない。そういう人たちには、感染拡大を防ぐための試行錯誤よりも、自分の主張を曲げない方がずっと大切なのである。

少し前にちょっと有名になった動画がある。

ある女性が、スーパーマッケットに入ろうとして、入り口で従業員にマスクをしてくださいと呼び止められた。もちろん、「買い物時にはマスクをしてください」と言う看板が入り口においてある。しかし、彼女は頑としてマスクをしないし、店には入ろうとする。そして、マネージャーを呼ぶように言うのである。

マネージャーがやってくる。当然のように、入り口の従業員が正しいと判断して、彼女にマスクをしないとお店には入れないと丁寧に説明する。そして、新しいマスクをさしあげるので、それをしてくださいとまで言う。彼女はそれも断り、まだ買い物をしようとする。マネージャーは、買い物リストをくれたら代わりに買い物をするので、ここで待っててくださいとまで言う。それでも、彼女は聞かない。自分はマスクをしないで店に入って自分で買い物をすると言い張るのだ。彼女はマネージャに対して「これは差別よ!」と大声で持論を展開、経営者に抗議すると大興奮だ。

呆れ気味のマネージャーは、どうぞどうぞ抗議してください、申し訳ないけど入れてあげられませんと言って去っていく。残された入り口の従業員は、彼女の方を見ないように、でもウキウキ小躍りしながら買い物カートの消毒を続けている。彼女はひどく怒っていて、この店がいかに不当で差別的かをビデオに録音し続けている。

この話で最も衝撃な点は、このビデオはなんと彼女が自分で撮ったもの、つまり彼女の目線で撮ったものであり、これを彼女は「不当な店を社会に晒す」目的でSNSにアップロードしたのである。つまり、彼女は最後の最後まで自分が正しいと信じ、周りの意見をこれっぽっちも聞き入れなかった。

その結果、このビデオは、当然のことながら店ではなくて、彼女に対する大炎上の口火を切ったのだった。

自分の主張は大切だ。でも、同時に、周りの意見を理解しようとする努力とインテリジェンスと冷静さも同じくらい大切だという教訓である。

 

 

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