シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ピントを外して世界をみる人々(規制緩和フェーズ2・次の緩和レベルまで残り4日)

最近気になることといえば、マスコミの報道と人々の生活との乖離である。

先週までデモンストレーションの大きさに影響されて、やや控えめに報道されていた感染者数の再上昇のニュースが、今週になってから毎日のように幅を利かせている。第二波の到来だとか、いや、まだ第1波が終わっていなかったから、これは第1波の拡大だとか、とにかく様々な数字や根拠をあげてマスコミが危機感を煽っている。あれはするべきではないとか、これは避けるべきだとか、ニュースだけ読んでいると、米国は未だ非常に緊迫した臨戦態勢のように思える

実際のところ、アリゾナ州を代表するいくつかの南に位置する州では相当早いペースで感染者数が増えており、入院のベッドが満床になるのも遠くないと言われている。この原因は規制緩和を開始の合図にして、多くの人々がNew Normalのではなく、従来の生活に戻ろうとした結果だと考えられている。

一部の州では、非常に早いペースで感染者数が増えており、それ以外の多くの州もコントロール下とはいえ感染者数はジリジリと増え続けている。本当の意味で感染者が減っている州はニューヨークを筆頭にする2、3の州にすぎない。

ここカリフォルニア州も全米一の人口を持つことを考慮すれば、相当に上手く制御していると思うが、やはり感染者は増え続けている。にもかかわらず、外に出れ周りを見れば、まるでウィルスは消滅したのではと錯覚できるほどに、人々が元の生活に戻ろうとしている。彼らは感染の増加の報道からなるべく目をそらして、あたかもウィルスは効果を無くしたか、または、もともと恐れる必要のない程度のものだったかのように振る舞って、いつもの夏を楽しもうとしている。未だ許可されていないはずの友人同士のバーベキューパーティなどが、徐々に催されているという噂もきく。

シリコンバレーのあるサンタクララカウンティは全米で最も早くロックダウンしただけあって、衛生局は規制緩和に非常に慎重だ。それでも感染を低く抑えられるならば、大変だけれども受け入れようとしている真面目な住人は多い。しかし、同時に一部の住民や特にティーンエイジャーたちを中心に、「もう、うんざりだ」とばかりに、あちらこちらで集っている人々の姿を見かけるようになった。みんな3ヶ月に及ぶロックダウンに辟易しているし、大打撃を受けた経済に至っては規制緩和が厳しいために、なかなか回復路線に乗ることができない。全米で最初にロックダウンを宣言することで、シリコンバレーを大規模な感染拡大から救ったと名を上げたサンタクララ衛生局のコーディ博士は、今週になって、なんと脅迫を受けとるという事態にまで発生している。

視線をシリコンバレーからカリフォルニアに広げてみると、カリフォルニア南部に至っては、まるで違う州のような状態になっているらしい。実はカリフォルニアで感染者を大幅に増やしつつけているのはロサンゼルスを中心にした南部であるのだが、先日、友人が所用でロス近郊まで一泊で行ってきたところ、多くの人々がまるでパンデミックが終了したかのように普通にしていたというのだ。レストランもプールもビーチも普通に開いていて、たくさんの人たちが夏休みを楽しんでいる様子だったという。ちなみに、シリコンバレーでは、その3つのどれも通常の形では開いていず、非常に制限のかかった状態でしか利用できない。

もっと視界を広げて、カリフォルニアを離れ他の州に目を向けると事態はさらに緩くなている。州によっては、州政府そのものが率先して大規模な規制緩和を進めたからだ。現在感染者拡大が発生しているアリゾナやテキサスなどでは、マスクをしていない人も普通にいる。

しかし、どんなにマスコミが騒いでも、深刻なデータを専門家が分析して警告を与えても、元の生活に戻ると決めてしまった人々にはもう届かないようだ。彼らはピントをわざと外して世の中を見ることにしてしまったらしい。深刻な報道を読んだり見たりするのを避けているんだろう。ある記事よれば、ラスベガスのホテルでは、6月の規制緩和以来、夏休みを楽しむ人々がホテルのカジノやプールで過ごしているわけだが、プールサイドでマスクをしている人に対して「あの人なんでマスクしてるの?」と揶揄したそうである。この記事を書いた記者は、そのホテルのプールサイドで唯一マスクをしている人だったらしい。

こんな風に、マスコミが報道している緊迫感のある米国の状況と、夏休みを普通に楽しもうとする米国民の状況には、大きな乖離がある。しかし、その裏には、どちらにも共通する緊張感はあると思うのだ。普通の生活に戻った人たちは、見たくないものを故意に見ないようにしているだけで、そのバックグランドで鳴っている危険な警笛が全く聞こえていないわけではない。ただ、目をそらし、耳を塞いで、知らないふりをして過ごそうとしていだけなので、心から緊張感が消え去ることはないだろう。

その気持ちはすごくわかる。私だって、客を招いてバーベキューパーティがしたい。友達とレストランやカフェに行って会話を楽しみたい。ビーチで釣りなどをしながらのんびりもしたいし、観光地に行ってホテルで羽を伸ばしたい。

ただ、そのような普通の夏を過ごすことで、先の問題を重くする可能性がある今、それくらいことは我慢できると思っているだけだ。ぼやけたピントを調節して、冷静に現状を把握してしまえば、気軽にマスクを外したり、ソーシャルディスタンスをやめることはできない。

必要なのは、希望的観測というバイアスのない状態で、何が事実で何が虚偽なのかをはっきり見極めることなのだ。

 

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