シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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マスク大論争(ロックダウン55日目・現時点の解除予定日まで残り21日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

ほんの2ヶ月前までは、米国人にとって人前でマスクをするのは奇妙な行動だった。米国人は、職業で必要な場合を除きマスクをしなかった。風邪の予防目的でマスクをしないのはもちろんのこと、自分が風邪をひいている場合でも、他人にうつさないようにマスクをするという慣習はなく、そういう発想がなかった。そのような日本の慣習を説明すると驚いたり、感心したり、笑ったりしたものだ。

今は、食料品の買い物に行くと、みんなマスクをしている。シリコンバレー近辺の郡では、公共の場でのマスク着用が強制になった。一方、シリコンバレーのあるサンタクララ郡では、マスクの着用を推奨しているが強制はしていない。その理由の一つはマスクの着用することで安心し、ソーシャルディスタンスをとることをやめてしまうことを避けるためだそうだ。ソーシャルディスタンスの方がより高い感染防止力があるという観点からである。どちらにせよ推奨はされているので、シリコンバレーの人たちはマスクをするようになった。マスクもするし、ソーシャルディスタンスも守る。それで、最もリスクが低くなるのならば、それをしない理由はない。

科学的な見地からいえば、ソーシャルディスタンスは、感染しない、感染させないの両方に効果があるが、一般的なマスクは、主に感染させないことに効果がある。マスクをしていても空気状に飛沫しているウィルスからの感染を予防できないが、症状のない感染者がマスクをしている場合、マスクをしていない場合に比べて、ウィルスが飛沫する距離を劇的に短くできる。よって、ウィルスの感染拡大予防には有効となる。つまりマスクをするのは、自分のためというよりも、公共の利益のためだ。

子供にもわかる単純な論理だと思うのだが、なぜかホワイトハウスの人たちには通じない。

過去二日間、ホワイトハウスに出入りをする2人のスタッフの感染が報道された。1人は大統領の身近なスタッフ、もう1人は副大統領の身近なスタッフである。ホワイトハウスは、当然のことながら厳重に感染防止に勤めていたはずだ。大統領や副大統領をはじめ重要なスタッフは全員、毎日テストを受けていたという。にもかかわらず、感染者は出てしまったし、その感染者は気づかないままホワイトハウスに出入りをして、大統領や副大統領の身近で行動していた。

彼らはなぜかマスクをしていない。毎日テストをしているので感染していないからマスクをする必要はないというのが彼らの論理だとは思うのだが、現に毎日テストをしているスタッフの1人が、前日は感染していないという結果であったのに、翌日は感染しているという結果を出した。そのスタッフは、少なくとも翌日のテスト結果が出るまでの数時間、ホワイトハウスの人々を感染させる可能性があった。

これにより、この日記にも何回か登場しているファウチ博士をはじめ、3人の対策委員たちが自主隔離の状態に入った。感染者と濃厚接触はしていなかったらしく、厳格な隔離状態ではないが、今後2週間は緊急時以外は自宅でテレワークをし、マスクを常に身につけると発表している。彼らは、すでにテストを受けて感染していないという結果が出ているが、さすがは対策委員の科学者たちだけあって、感染している可能性がゼロとなる2週間後まで自ら隔離する選択をしたのだ。彼らは専門家だけあって、感染を拡大させないことが最も重要だということを知り尽くしている。

この事態を受けてもまだ、ホワイトハウスのスタッフたちはマスクをしていないのだろうか。もしそうならば、どうにも理解しがたい。本当は、取材されるときはしていないけれど、舞台裏ではいつもしているということであれば理解できる。ぜひそうであってほしい。トップの人たちだからこそ、公共の利益のために、リスクを最小限にする行動をとってほしいと思う。

そして、このニュースが私たちに教えていることはもう一つある。

ホワイトハウスのような厳重に警戒されているような施設でも、感染者はでるし、その感染者が気づかないまま出勤して、ほかのスタッフを感染させる可能性があったのである。これにより、ごく普通のオフィスや公共施設では、どんなに注意していても、感染リスクがゼロではないことを明示的に証明してしまった。様々な規制が緩和されるこのタイミングで、奇しくもその危険性を伝えてしまったのである。

規制が緩和される街の人々は、ぜひソーシャルディスタンスだけでなく、公共の場でのマスク着用もしてほしい。自分のためではない。公共の利益のためにだ。

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