シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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錯覚(規制緩和フェーズ2・次の緩和レベルまで残り12日)

野外の飲食が許可されたことだし、近所のタピオカティーを売っているお茶屋さんまでエクササイズを兼ねて自転車で15分。家を出る前にオンラインで注文をして、店で受け取るときのためにマスクを懐にいれて準備万端である。店の前のベンチで飲んで帰って来よう。

お茶屋が入っているストリートモールには、他にもサンドイッチ屋やハンバーガー屋、スターバックスにスーパーマーケットなどが軒を連ねている。すでに夏休みに入ったとはいえ学校が近いこの場所は、ロックダウンに入る前はいつも老若男女で賑わいを見せていたが、3月半ばのロックダウン開始後2ヶ月半の間は主に食料品の買い物をする主婦層の姿が目立っていた。

しかし、6月になり本格的な規制緩和に入ってから訪れると、若い人たちがたくさんうろうろしている。みんなマスクをしているのだが、明らかに友達同士でぶらぶらしている。今週から学校は夏休みだから、友達とつるんで、タピオカティーを買って、おしゃべりをして羽を伸ばしているのだろう。

これが普通のときならば、夏休みらしい微笑ましい風景なのだが、今の規制では、自分と同じ家に住んでいる人間以外とのぶらぶらすることは推奨されていないし、会うのであればソーシャルディスタンスを守らなければならないことになっている。しかし、この規則、徐々に骨抜きになってきているようだ。マスクをしているとはいえ、普通の距離感でティーンエイジャーたちがたむろっている姿を見ると、ウィルスが実はなくなったのではないかという錯覚に陥る。

実際のところは、ここシリコンバレーでは規制の厳しさの賜物なのか、新規感染者の数こそ増え続けているが、死者やICUが必要な患者は減り続けている。死者はこの2週間で5人しか出ていない。感染者が増え続けているのは、感染テストを非常に簡単に受けれるようになったため、テスト数が増えていることと関係があると思われる。

しかし、カリフォルニア全体としては未だに過去2週間の死者は8百人を超えているし、入院患者の数も少しづつとはいえ増えている。感染者は確かに増えてはいないが減ってもいないのである。

にもかかわらず、友達と集まって過ごしている若者を見ていると、まるで最悪の事態はとっくの昔にすぎてしまったような錯覚を覚えるのだ。この錯覚が、錯覚じゃなくて本当だったらどんなにいいだろうかと思う。抜けるような青空と眩しい太陽とカラリと爽やかな風に吹かれて、風景はいつもと同じ夏のシリコンバレーの装いだ。いつもと同じ夏ならいいのにとどんなに願っても、ティーンエイジャーたちがどんなに現実逃避をしても、残念ながら、データも専門家のコメントも、それを肯定してくれない。

しかし、実際のところ、ヨーロッパに目を向ければ、米国よりも一足早くロックダウンを終了し、はや1ヶ月近く経つヨーロッパ諸国において、感染は減少傾向の一途を辿っていて第二波の予兆は全く見えていない。あれ?このまま収束するのかなと思ってしまうくらいに。

と、ここまで楽観的な気分に冷や水を浴びせるのは再び歴史の教訓だ。第一次大戦末期にパンデミックを起こしたインフルエンザも実は夏の間は収束していたのだが、その後の秋に世界は第二波に襲われている。この第二波、感染者数はだいぶ抑えられてはいたが致死率が第一波に比べて相当高かったという。どうやら、専門家がいうように、このまま収束するんじゃないかというような希望的観測は捨て、緊張感は保っていたほうがいいらしい。

しかし、どんなに専門家が声を大きく警告を発しても、米国の空気は、まるで米国のパンデミックはもう終わったかのような様子なのだ。もう終わったと思いたい願望が、行動として出てきているのだろう。普通に過ごしたいという切実な願望だ。

少なくとも、せめて夏の間は、このまま感染者が増えることなく、規制が緩んで地味でもいいからストレスが低い夏が過ごせればいいなと思う。その後にくる秋のことを考えると、学校も始まるし、不安は尽きないけれど、少しぐらい休息が必要だ。

ここまで考えて気がついた。そもそも、その前にデモによる感染拡大の可能性が警告されている夏の現実とも向き合わなくてはいけないかもしれないのに、どうやら良い天気と規制緩和に浮かれて、私もみんなと一緒に激しい錯覚を起こしているらしい。

 

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