シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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パンデミックと野外集会(規制緩和フェーズ2・次の緩和レベルまで残り13日)

シリコンバレーでレストランのパテオでの飲食が再開された金曜日のニュースでは、ハイエンドのショッピングセンターにあるおしゃれなピザ屋のパテオで食事をする人々の映像が流された。カリフォルニアらしい明るい日差しを避けた日陰のパテオは本当に気持ち良さそうで、家族と座ってピザを頬張っているティーンエイジャーが「家族以外の人たちの顔をみられることが、ただただ嬉しい」と笑っていたのが印象的だった。シリコンバレーはこのまま2週間様子を見て、感染状況が悪化しないようであれば、21日の父の日を目安にさらに規制を緩和する予定である。

しかし、歴史の紐を解いてみれば、今後2週間の感染状況の行方はいたって不透明だ。

話は、第一次世界大戦の最終戦線の頃にさかのぼる。あまり知られていないが、当時、世界はインフルエンザのパンデミックの最中にあった。1918年9月フィラデルフィア市は戦時債権の販促の手段として大規模なパレードを開催した。インフルエンザのパンデミックを受け、医療関係の専門家から警告を受けていたが、フィラデルフィア市は咳やくしゃみをするときは口を覆うようにという広告を配布するにとどめ、パレードを決行したのだった。華やかなパレードは大成功を納め、多額の資金や募金が集まった。が、同時に72時間後にはフィラデルフィアの病院のベッドは満床になり、その後1ヶ月の間にインフルエンザにより1万人の死者が報告された。ちょうど同じ時期に予定されていたパレードを中止したセントルイス市で報告された死者は7百人にとどまったそうだ。

これは、パンデミック時に人々が集まることの危険性を伝える歴史の一コマだ。パレードとデモは全く違うけれど、たくさんの人々が集まることはたとえ野外であっても感染を広めるリスクが高いことを示している。

このような歴史の教訓をあげなくても、医療関係者は、全米のみならず世界で盛り上がりを見せている人種差別と警察の暴力に対する大規模な抗議行動が、現在のパンデミックに与えうる影響を警告し続けている。

先週だけでも、何千万人という米国人が広場やメインストリートに集まり抗議の声をあげた。そして、これまで知られているようにウィルスが最も感染しやすい経路は飛沫感染だ。彼らの多くはマスクをしていたが、ソーシャルディスタンスを守れる状態ではなかった。デモでは人々は叫ぶ。また、平和な抗議行動が多かったとはいえ、警察が催涙ガスやペッパスプレーを使う事態もあった。このような感染リスクが高い状況で一日中過ごしたデモに参加者たちは、デモ終了後、バスや地下鉄に揺られて家に帰り、友人や家族と時間を過ごす。

多くの専門家たちは、デモ参加者の気持ちも理解できるし、その目的も100パーセント指示している。それどころか、自分も参加したいと考える人も多い。しかし、専門家であればあるだけ、そのリスクの高さがわかってしまう。

ある専門家は、今後感染が一気に拡大した場合、デモと時を同じくして米国の多くの州で規制が大幅に緩和されているタイミングでは、たとえ規制緩和が原因であったとしても、政治的枠組みからデモ参加者に責任が押し付けられる可能性があると懸念している。

また、ある専門家は、「感染のアウトブレイクを恐れるのと同じくらい人種差別を傍観することによって起こりうる事態も恐れている」ため、抗議行動に参加した。「公衆衛生の専門家としては参加したことに非常に罪悪感を感じている。でも、傍観者として過ごしていたら私はもっと罪悪感を感じていたと思う。」とコメントしていた。

またアフリカ系アメリカ人の医者は、抗議行動に参加したいけれども、医者としては参加できないと語っている。「黒人であることと医者であることのどちらも大切であり、どちらかをとることはできない。<中略>そして、本当に不公平である真実は、人種差別もウィルスも、どちらも私たち(アフリカ系アメリカ人)のコミュニティの人々を殺しているということだ。」すでに多くのレポートが報告しているように、感染の犠牲者の多くはアフリカ系アメリカ人である。そして、その原因はアフリカ系アメリカ人が米国での社会的弱者であるからだ。アフリカ系アメリカ人の犠牲者が多いことと構造的な人種差別には、実はダイレクトな関係があると、彼はメディアに伝えている。

この大波の中で、パンデミックと抗議行動の行方はどうなるのだろう。抗議行動は少しづつではあるが明らかに結果を出してきている。しかし、同時に世界のパンデミックの感染者も増え続けているのが現状だ。

この不透明な世界の中で、せめて人種差別の不正義だけはボヤけることなく人々の記憶に刻みつけられて欲しいと思わされるニュースだった。

 

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