シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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諸刃の剣(規制緩和フェーズ2)

今日からいよいよシリコンバレーは本格的な規制緩和に入った。といっても、私は今日も家を出る必要がなかったので街の様子は見ていない。ショッピングができる、パテオで食事ができるといっても、その前にしっかりと衛生局から住民の携帯電話に警告メッセージが入り、できるだけ家で過ごすようにと念を押された。友達と食事に行けるわけでもないし、ウィルスが消えてなくなったわけでもないし、相変わらず平和的ながらもデモンストレーションは続いているしで、家から出る理由が見つからない。

それでも毎日のように通っていたジムのプールが予約制で解禁されたと言うお知らせには触手が少し動いた。朝と夜は1レーンに一人の予約制のラップスイム、日中は大きなプールを分割して、一区画ごとに一家族が時間制で予約するというシステムでプールの使用が解禁された。ただし、ロッカールームは使えない。ちなみに、ジムの室内施設は未だ規制がかかっていて使用できない。これらは緩和のフェーズ3で解禁になると思われるが、いつ解禁になるのかは、全くわからない状態だ。

そんなこんなで、今日も家でニュースを読む日々だが、今日はこの一週間ぜひ知りたいと思っていたニュースを見つけた。今や全米に広がり11日目を迎えた人種差別と警察組織に対する抗議運動の参加者たちの、映像には決して映らない葛藤である。

ニューヨークは米国で唯一制御不能な感染爆発を起こした都市である。4月の初旬のニューヨークはニュースを読むのも辛い状態だった。感染者のグラフも死者のグラフもありえないくらい急傾斜でぐんぐん登っていき、1日の死者が700人を超える日が何日もあった。医療関係者は必要な防護服も医療機器も足りない状態で最前線に立たされ、人々は患者のためにも医療関係者のためにも祈っていた。6月に入り、ニューヨーク市は3月以降初めて死者数ゼロの日を迎え、徐々に規制緩和が始まるところまで回復した。彼らのために心から喜びたい。

そのニューヨークでも、もちろんデモンストレーションは起きている。むしろ、若者もアフリカ系アメリカ人も多く生きている熱気のある都市なので、ほかの主要都市よりも大きな運動となっている。そんなニューヨークの若者たちが、感染のことを考えて抗議運動への参加をあきらめるのか、リスクをとっても参加するのか、苦渋の選択をする様子がレポートされていた。

特に基本疾患を持つ若者、または、一緒に住んでいる家族に基本疾患がある若者は、自分の街で広がり続ける運動の様子を何日間もテレビでみたり、窓からみたりしながら悩み続け、ある者はリスクを選択して参加の道を選び、ある者は家に留まりながらもサポートできる方法を模索し、ある者は家の窓からや職場の屋上からメッセージを掲げる方法でサポートしている。

多くの米国の若者は、今回のムーブメントは彼らの世代における最も重要な公民権闘争になると考えている。米国で歴史的に闘争され続けるこの問題に対して、なんらかの変化をおこす可能性のあるこの機会を逃すことはできないと思っている。実際、これらのムーブメントは少しづつ効果を発揮してきていて、きっかけとなった事件に関与していた警察官の殺人罪の起訴レベルが上がり、全米のあちらこちらの警察署においてシステムやルールの改正が徐々に促されている。しかし、それだけでは足りないと、11日目を過ぎても運動は収まるところを知らない。

レポートに登場した喘息を患っている若者は、何日間も悩み続けた末の決断とその経緯を語っている。彼は自分の命だけではなく、高血圧の家族のことも考え、デモンストレーションによって街に発生しうる感染の第2波のことも熟考した。感染爆発中には彼の近所でも15分おきに救急車が走り回り、亡くなった人もいた。それほど身近にウィルスを感じ、感染の恐怖を感じていたからこそ、日々広がっていく運動に自分も参加したい、世の中を変えたい、一緒に人種差別撤廃を叫びたいと思っていても、容易に飛び出していくことはできなかった。それでも、彼は最後には参加することを選んだ。もちろん可能な限りの感染防止対策をしてである。彼は、「この闘争にとってウィルスは避けられない運命のようなものだと思う。でも、僕は今日行ってよかった。後悔はない。」と語っていた。ちなみに彼はアフリカ系アメリカ人ではない。

彼だけではない。このニュースには他にもたくさんの若者が、参加するかしないかを悩み、直接行動しない代わりに、政府機関や警察機関に毎日何通も手紙を書き続けたり、運動を支援してる組織や団体に寄付をしたり、デモ隊に食べ物や消毒薬を提供したり、家の窓や屋上から大きなメッセージを掲げてデモ隊をサポートしたり、様々な方法で参加しようとしている。もちろん、先の若者のように実際にデモ隊に参加する決断に至った人たちもいる。

デモを組織している人々もウィルスの存在を無視しているわけではない。ニューヨークのデモでは、参加者にマスクをするように呼びかけ、マスクをしていない参加者には寄付されたマスクを配っている。また、ハンドサニタイザーが携帯され、参加者に定期的に消毒を促しているそうだ。

しかし、残念なことに催涙ガスやペッパースプレーを使われると、人々は咳をして、唾を吐き、涙を流す。ある専門家は催涙ガスとペーッパースプレーの使用は感染を拡大するためのレシピのようなものだと語っている。そのため、現在、警察による催涙ガスとペッパースプレーの使用禁止の嘆願が大規模に集められている。

一人のアフリカ系アメリカ人の若者が語っていた。

「デモに参加すれば感染により命を失うリスクがある。しかし、参加しなければ、肌が黒いという理由で命を失うリスクを減らすことができない。僕たちにとっては、これは諸刃の剣なんだ。」

 

 

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