シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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暴走とストッパー(ロックダウン60日目・現時点の解除予定日まで残り16日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

今朝のトップニュースは予想に違わず、ファウチ博士の米上院委員会の公聴会での証言とそれに対するトランプ大統領の対応だった。これは、ファウチ博士が公聴会で証言することがわかってから、すでに多くの人の間で予想されていたことなので驚いた人はいなかっただろう。

パンデミック宣言がされる前の2月初めから、メディアにおける露出が顕著になっているファウチ博士だが、彼の言動は常に一貫性があってブレたことがない。彼の発言は常に科学と事実が中心であり、政治的な発言もしなければ、余計な感情をのせることもない。そんな彼を見てきた人々は、彼がどのようなスタンスで公聴会で発言するのかは最初から明らかなことだった。そして予想通り、彼の証言の趣旨は「早急なロックダウンの解除は感染の再拡大を導くおそれがあり、不必要な苦しみや死を招く可能性がある」だった。

そして、トランプ大統領の言動も内容的には微妙に一貫性がないが、スタンスとしては一貫性があった。ロックダウン状態をなるべく早く終わらせて米国の経済再開を急ぎたいという姿勢だ。なので、ファウチ博士が公聴会で、大統領の姿勢に反するような決定的な証言をすれば、トランプ大統領は確実にそれを非難するだろうというのも多くの人の予想の範囲内だった。そして、予想通り、トランプ大統領はファウチ博士の証言unacceptable「受け入れられない」とコメントした。

ここまで予想されていたにも関わらず、ファウチ博士はやはりファウチ博士であり続けたことと、トランプ大統領がやはりトランプ大統領であり続けたことは、人々の大きな関心を呼んだ。良くも悪くも、彼らは彼らの人生で築いてきたものを、外圧によって曲げるようなことはしない人間なのだ。

この2人の発言に対しては、様々な立場の人がいろいろな意見を述べている。ファウチ博士もトランプ大統領も圧倒的な支持者もアンチも両方持っている。

ファウチ博士はなんとファウチ博士ドーナツなるものが売り出されるほど一部の米国人に人気である。彼の写真をアイシングでプリントしたドーナツは、常に冷静で勇気ある発言で人々を導く米国のヒーロードーナツとしてワシントン界隈で大人気だそうだ。しかし、同時にトランプ大統領の発言を、科学的見解から丁寧にではあるが遠慮なく切り捨ててしまう彼に対して、大統領の熱狂的なファンは嫌悪を抱いており、殺害予告のような反応まである。

トランプ大統領も同様に熱狂的ファンを多く抱えている。そもそも、そうでなければ、大統領には当選できない。しかし、同時に科学的なデータを軽視する姿勢や、調子はいいが論理性にかける発言が多いため、インテリ層の多くは彼の発言に呆れたり、怒りを抱いており、インテリ系マスコミを中心に批判の集中砲火を浴びている。

これまでもソフトに意見対立していたところに、今回の公聴会を通して対立が明確化してしまった2人であるが、実はそう思っているのは外野だけなんではないかなと思えるところもある。

そもそもファウチ博士は誰とも対立する気は全くないと思う。彼は科学的見地から事実を伝えることが彼の仕事だと捉え、彼が医者というキャリアを選んだ道徳的使命からその仕事をしているのだと思われる。

一方トランプ大統領もファウチ博士に対していは個人的になんの感情もないような気がする。ファウチ博士は科学の人なので、何をするべきではないとか、何をした方が良いと言うことはあっても、誰かの言動が間違っていたとか、誰かに責任があったとか、大統領を含め一個人を避難する発言をしたことがない。それは、普段から敵の多い大統領にとっては、個人的な敵対心をもつ必要のない相手であると捉えられているのではないだろうか。

だからと言って、ファウチ博士の現在の立場が安全なのかと言うと、それは怪しい。大統領が進めたい政策を進めようとすればするほど、ファウチ博士の科学的な見解がブレーキをかける現状を考えれば、マスコミが騒いでいるように、ファウチ博士がホワイトハウスのアドバイザーとしての地位を解任される可能性は低くないだろう。

ファウチ博士が解任されてしまったら、たくさんの米国人が失望するだろう。彼のホワイトハウスにおける存在は、実際のところ多くの人々に一種の安心感をもたらしているいるからだ。しかし、ファウチ博士本人はたとえ解任されたとしても、自分の信じる仕事を黙々と続けていくだろうし、マスコミに呼ばれれば、今と同じように科学的見地に基づいた事実を米国民に伝え続けるだろう。ホワイトハウスのアドバイザーとしての影響力は失うかもしれないが、どちらにせよ今まさに経済再開に向けて邁進しているロックダウン否定派の激流を止めることは できそうにない。今、この激流を止めるものがあるとすれば、それは唯一、感染の再拡大の波だけのような気がする。そうならないことを願ってやまないけれど。

 

ところで話が少しそれるが、過激なロックダウン否定派のデモの参加者がインタビューでこう言っていた。「個人が気をつければいいことで、政府に強制されることではないと思います。例えば、人は交通事故で死ぬこともある。それと同じなんじゃないでしょうか」

それは違うな。だって、交通事故の場合は、交通事故にあった人間が瀕死で病院に運ばれても、救命に関わった医療関係者が死ぬことはない。また、交通事故は本人が注意すれば合う確率は確実に減るが、ウィルスが蔓延した社会で感染死を減らすには、社会的弱者に家に閉じこもってもらうしかない。これは、「私たちは車を暴走するから、交通事故に会いたくなかったら家に閉じこもっていてね。仕事もできなくてご飯も食べられないかもだけど、自分でなんとかしてね」と言うことと同じである。

死に至る感染症流行を交通事故と一緒に並べて論理を展開するのはやめたほうがいい。

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