シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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あなたの知らない最前線(ロックダウン61日目・現時点の解除予定日まで残り15日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

米国ではあちこちで規制緩和が始まっている。規制緩和に慎重なカリフォルニア州でも感染者が少なかった農村部の郡から徐々に規制緩和が進んでいる。

が、シリコンバレーのあるサンタクララ郡は依然として厳しい規制のままである。北カリフォルニアで最も感染者が多かったのは、ここサンタクララ郡だったからだ。一方、南カリフォルニアではロサンゼルス郡の患者が群を抜いて多く、今でも入院者数を減らすのに苦労している。このため、ほかの郡に先駆けてカリフォルニアで最も早くロックダウンの延長を8月末までと決めたのはロサンゼルス郡だ。さすがに、現状のまま8月末までと言う訳ではなく、様子を見ながら規制内容を変えていくらしいが、基本的にロックダウン状態を解除することはなさそうだ。サンタクララ郡の現在の規制の有効期限は5月31日であるが、ロサンゼルスを追って延長することもあり得るのではないかと言われている。

ロックダウンに入って2ヶ月たった今となっては、私たちは、ウィルスが蔓延している間は規制が解除されたとしても、多分今の生活とあまり変わらないんだろうなと当然のように思えるようになった。人間は適応力が高い生き物なのだなと自ら感心してしまう。

さて、このウィルスとの静かな戦争で最も危険な最前線で戦っているのは医療関係者の人々だ。医者という仕事が、いかに大切であり、尊いかということを、ニュースを通して毎週のように再確認させられている。特に医療行為を通して感染し、亡くなった医療関係者のニュースを読むたびに、胸が痛むと同時に尊敬の念が湧きあがる。

また、食料をはじめとする重要な生活物資を作り、流通させ、販売している人々も最前線だ。狭い空間で多数の人が仕事をする食肉処理工場では感染の広がりを受け、20人を超える死者が出てしまったし、各地のスーパーマーケットでも、不特定多数の顧客が出入りする空間に長く留まって仕事をしなくてはいけない従業員の間で定期的に感染者が出ている。

彼らへの感謝の言葉は常に口にしている私たちだが、私が昨日知った、別の最前線の人たちを知っている人はどれくらいいるだろうか。葬儀屋である。私がそれを知ったのは、葬儀場経営者のドキュメンタリーからだった。

早朝から葬儀場のオフィスの電話はなりっぱなしだ。その日は朝から昼までに新たに10件の葬儀の依頼を受けていた。何しろニューヨークでは三月初めから四月初めまでの間で、例年の3.25倍の人が亡くなってことがわかっている。死者数のピークはその少し後だったので、実際にはもっと高いペースで人が亡くなったと考えていい。

厳重なマスクと防護服に身を包み、病院から遺体を葬儀場に運び込む従業員は、遺体に死化粧をして綺麗に整え棺に安置する。普段なら待合室や大きな葬儀に使うホールは並んだ棺でいっぱいだ。

実際の葬儀はロックダウンであることを考慮して、参列できるのは家族だけなので、希望に応じて葬儀をインターネットで中継する。もしくは、葬儀場の駐車場にテントを張って棺と共に立ち、その前を故人と最後の挨拶を望む人々の車が一台一台停車しては進んでいく、ドライブスルー参列も行なっている。

この葬儀場経営者にとって、ウィルスの近くで働き続けることは怖い。自分が感染することはもちろんだが、自分にとって家族のような従業員たちを感染させることは絶対に避けたい。しかし、マスクも防護服も常に不足気味だ。彼は、遠方の葬儀屋の知り合いに頼んで防護服の都合をつけて送ってもらっていた。ホッとしたと顔が映る。しかし、どんなに気をつけていても、感染のリスクはゼロではない。遺体は息をしないので空気感染のリスクは低いが、それでも遺体にも遺品にもウィルスは確実に残っている。

通常であれば、遺族に渡すはずの思い出の詰まった遺品も返すことはできず、遺体と一緒に焼却しなければならない。悲しみにくれる遺族は、故人を看取ることができなかっただけではなく、苦しんでいるのを励ますこともできなかったと悔いている。最悪のケースでは、普通に仕事に出かけていった人が、仕事先で具合が悪くなり、そのまま病院に行って陽性と診断されて隔離され、家族の顔を一度も見ることなく亡くなっている。

そういう何人もの家族たちと話し、それぞれのストーリーを知っていくうちに、経営者自身も毎朝、家を出るときに子供達をじっと見つめて時間をとって別れをつげるようになったそうだ。自分も、いつ何時、このまま家族の顔を見ることができなくなるかもしれないと感じるようになったからである。

そのようなストレスとプレッシャーの中でも、彼は自分の仕事は社会に必要であると誇りを持ち、こんなときであるからこそ、せめて故人をしっかり送りたいと思っている家族たちの希望をロッックダウンの規制の許す範囲で実現してあげられるように最善を尽くしているという話だった。

今回のウィルスの死者に共通しているのは、本来ならばたくさんの家族や友人に惜しまれて盛大に送られるはずだった故人が、寂しく一人で病院で亡くなっているということだ。残された家族たちは、せめて最後に家族や親しい友人たちにお別れをさせてやりたかったと無念と罪悪感を抱えて故人を送り出している。

その苦しみを少しでも共有し、死者に可能な限りの尊厳を与えようとしている葬儀屋の人たち。最前線の影の戦士である彼らにも大きな敬意を払いたい。

 

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