シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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科学者の言葉の重さ(ロックダウン33日目・現時点の解除予定日まで残り16日)

今、米国でファウチ博士の名前と顔が一致しない大人がいるとしたら、その人は全くニュースを見ない、読まない人だ。米国感染症の権威であり、長年米国政権に感染症関連のアドバイスをしてきたファウチ博士は、3月以降毎日のようにテレビのニュースにもウェブのニュースにも登場する。

彼は政権の感染症関連スポークスマンとして、トランプ大統領の会見時に、専門家の立場から現状報告や今後の見通しなどを説明する機会が多いわけだが、その説明たるや、科学的根拠を明確に示しながらも、決して難解な話をしない。誰でも理解できる言葉を使って、非常に専門的な知識を基盤に今後の見通しをするだけではなく、トランプ大統領が調子にのって言っちゃいました的な発言を、その直後に柔らかい言動ながらも科学的根拠をあげてきっぱりと否定する態度によっても、多くの米国民から尊敬と信頼を集めている。背筋がスッキリとのびたスーツ姿は79歳には見えないが、その落ち着き払った態度は悟りを開いた仙人みたいなのに、自分のするべき仕事に対する衰えぬ意欲は80歳を目前にした人間とは全く思えない。

3月の中旬、多くの米国人が事態を甘くみていた時から、「(ウィルスへの対応は)今、やりすぎるぐらいがちょうどいい」と断言した彼の言葉が、今になって身にしみている米国人は少なくないと思う。

彼について語りたいことは、 誰もが山ほどあると思うけれど、私には2つある。

1つ目は、彼がアフリカ系アメリカ人が人口比に比べて不均衡に多く感染していることに対してのコメントを求められた時の発言だ。だいたいの趣旨は以下の通りだ。

今のように社会に何らかの危機が訪れると、その社会の本当の弱点や欠点に光が当たることが多い。アフリカ系アメリカ人が多く犠牲になっている理由は、彼らが感染しやすいのではなく、彼らには(社会的格差から生じる)健康的格差があるからである。HIV・AIDSの時に、LGBTQの人々にも同じような状況が発生し、彼らはひどい汚名をきせられた。その時、彼らは実に勇敢にアウトブレイクと戦い、その彼らの行動により、彼らの社会的汚名のいくつかを排除することができたと思っている。このコロナウィルスを将来解決できたとしても、アフリカ系アメリカ人が社会で余儀なく受けている健康的格差はなくならないことを覚えていてほしい。

彼は米国のHIV感染の時も、中心人物として働いたことで有名である。決定的な知識と経験に基づいた公平性と広く鋭い視点から発せられる言葉の重さに、米国にはすごい人がいるんだなと思わされた。ちなみに、彼がこの発言をした時に、彼の後ろには同性愛嫌悪者として知られているペンス副大統領が怖い顔をして立っていたため、この会見を見たLGBTQの人々は、ファウチ博士の勇気を讃えて大いに盛り上がったそうである。

もう1つファウチ博士のことで私が印象に残っているのは、このロックダウン規制が終わって、COVID-19の撃滅に成功したとしても、今後、握手という習慣はなくなるだろうと言ったことだ。世界中で普通の習慣として広がっている握手だが、彼は感染症の視点からいうとやめた方がいいと言い切った。彼以外の人が言ったら、何をバカなこといってるんだと思われるような発言だが、彼が言うと真実味と重みがあって、本当になくなるんじゃないかと感じた。彼のすごいところは、先の発言も同様なのだが、「これを言ったらまずいかな」と常人が考えてしまうような場面でも、科学的に正しく、言った方がいいと感じたことは、躊躇なく口にするところだと思う。

彼の発言もあって、最近はニュースでも握手に変わる挨拶のバラエティーが紹介される記事がいくつも書かれていて、今日もCNNで世界各国にある握手ではない挨拶がイラスト付きで紹介されていた。インドのナマステに始まり、タイの挨拶、ムズリムの挨拶、ハワイのシャカに到るまで様々な挨拶が紹介されているのだが、面白かったのはサモアの眉毛をあげて笑うという挨拶だった。私は眉毛を上に動かすことができない。眉毛を自由に動かせるのは一部の人ができる難しい技だと思っているので、もしこれが採用されたら挨拶できない人になっちゃうなあと苦笑した。

しかし、どの挨拶も既存の文化から取り入れると多分に宗教が関係してしまうことが多いような気がするし、ハワイのシャカは宗教と関係ないけど、握手の代わりにするにはちょっと楽しすぎるような気がする。

そんなこんなでピンとくるものがなかったのだけれど、まあ、私は日本人なのでお辞儀をしてやり過ごそうと思ったりしたのである。

 

 

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