シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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争う人々(ロックダウン36日目・現時点の解除予定日まで残り13日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

昨日の私の予想に反して、今日、ロックダウンの解除日延期の発表がされることはなかった。そもそも、4月20日のカリフォルニアの州都サクラメントはそんなことを言っていられない状況だった。サクラメントのカリフォルニア州議会議事堂前で、米国旗を掲げた何百人という人々が集まってStay-at-Home規制に対する抗議の集会を行ったからだ。

彼らは国旗を掲げ、自由という文字を踊らせて、大音響の音楽と車のクラクションのなか、車で徒歩で抗議の声をあげていた。そこでは、もちろんソーシャルディスタンスは守られていなかったし、マスクをしている人もほとんどいなかった。

「うちの3人の子供は全員職を失った!仕事を返せ!」と怒鳴る女性がいた。「私たちはウィルスを恐るべきではないと思います」と落ち着いて語る女性もいた。「全ての仕事は必要な仕事だ」と書いたプラカードを掲げる若者もいた。とにかく、集会にいる誰もがロックダウンを今すぐにでも解除するべきだと熱くなっていた。

以前に書いたように、ニューサム州知事とそのチームの迅速で的確な判断と強いリーダーシップにより、カリフォルニアはニューヨークで起こってしまったような感染者爆発を回避することができた。その後も、州政府は人工呼吸器やマスクの確保、引退した医療関係者の予備登録、仮説病棟の設置、ホームレスのホテル収容など、次々と州民を守るための政策を打ち出している。そんなニューサム知事を信頼し、支持するカリフォルニア州民は多い。ロックダウンのために職やビジネスを失なった人々の多くも、息詰まるようなストレスをグッと飲み込んで、失業手当や給付金や小規模ビジネスへの特別ローンをジリジリと待ちながらも家にとどまっている(ちなみに、家賃の支払いが遅れても強制退去させられない規制も同時に出ている)。

しかし、反対にロックダウン規制で自由と職を奪われたことに対してアグレッシブに抗議行動を起こす人もいる。今日の抗議集会に見られるように、ニューサム知事の政策に真っ向から反対する人々もたくさんいるのである。そして、米国のこのような抗議行動の根底には、大抵の場合、政治的な思想の違いがある。

私は実のところそれほど米国の政治に興味があるわけではないので知識も浅い。だから、政治的視点でこれらの行動を語ることはしたくない。ただ、今回の抗議集会に集まる人たちをニュースで見て思ったのは、この人たちの親戚や友達には病院に収容された感染者はいないんだろうなということだった。さすがに身近に感染した人がいて、病院で人工呼吸器に繋がれていたら、マスクもソーシャルディスタンスもない集会には怖くて来ることはできないんじゃないかなと思う。彼らにとっては、感染者は遠いどこかの国の話なのかもしれない。

カリフォルニアで公式に発表されている感染者数は約3万4千人、死者は1千2百人だ。カリフォルニアの人口が約4千万人であることを考えると、公式の感染者数は0.1%に満たない。確かに、私も身の回りで陽性になった人を1人も知らない。しかし、だから感染の拡大を抑える対策を講じなくて大丈夫なのかと聞かれたら、私にはやっぱりそうは思えない。全体の0.1%でも、1人1人の命の重さは同じだ。私の知り合いじゃなくても、誰かの知り合いや家族が1千2百人も死んだのだ。このまま患者が増え続ければ、ニューヨークのように万単位で人が死ぬかもしれない。

「ウィルスを恐るべきではない」と言っている人がいた。あの人は、自分や自分の家族がウィルスに感染してICUに入った時も同じことが言えるのだろうか。「子供の仕事を返せ」と言ってる人がいた。あの人は子供のなかの誰かがウィルスのクラスタになった職場で感染しICUに送られることになった時にも「あの子は運が悪かった」と思えるのだろうか。なんだか単純にそういう想像力が足りていないような気がする。

それとも、家族にも知り合いにも、年配者や基本疾患を持っている人がいないから、大丈夫だなと思っている人たちなのだろうか。それはそれで、他人への想像力が欠けているような気がするが、そういうこともあるのかもしれない。

それとも、職やビジネスを失って将来の展望もなく、社会的な死を感じているので、自分の健康や他人の健康のことを考える余裕がなくなっているのだろうか。そういうこともあるのかもしれない。

いずれにせよ、私にとっては、抗議集会にいた人たちの考え方を理解するのには相当想像力を必要とするし、想像力を最大限に使ってもやっぱりちょっと理解できない。しかし、米国はそういう国なのだ。お互いに想像を絶するくらい考え方が違う人たちが集まって暮らしている国なので、政府が何かをやろうとした時に、それが何であろうともすんなり行くなんてことはないのである。

この抗議集会に対するニューサム知事のコメントは「抗議集会をするのであれば、ソーシャルディスタンスを守ってやってほしい」というものだった。そして、「私たちがとり得る最悪の行動は、政治やフラストレーションを理由に何かを決断することだ」と語った。

ついでに書いておくと、ニューサム知事は水曜日に、規制緩和に必要な6つの体制(「New Normal-新しい常識」を参照)の進行状況について報告すると言ったので、今週の水曜日は注目の日になる。

 

 

 

 

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