シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

姉妹サイト「シリコンバレーをよむ」もぜひご訪問ください

ロックダウン解除が怖い理由(ロックダウン34日目・現時点の解除予定日まで残り15日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

昨日、常用薬が切れてしまったので、病院附属の薬局にとりにいったのだが、中規模の病院の静まりかえったロビーで完全防備のナースやお医者さんとすれちがって緊張したけれど、それよりも他人(薬剤師さん)と会話をしたことが、なんだかもの珍しくて不思議な気分になった。

家族でほぼ家に閉じこもって生活を始めてから34日目。この間、直接会話をするのはほぼ家族だけ、しっかり顔をみるのもほぼ家族だけ、残りはほとんどオンライン経由という、先月の始めには考えられなかったような不自由な生活なのに、時間が経つにつれて、このミニマムな生活のリズムに慣れてきてしまっているのがちょっと怖い。人間は本当に環境適応力の強い動物だ。

これってロックダウンが終わった時には他人との接し方が不自然になってたりするんじゃないの?それとも、いずれにせよNew Normal-新しい常識な世界だから、それくらいの方がちょうどいいんだろうか?

実は今や慣れてきたロックダウン状態よりも怖いのは、ロックダウンが解除された後なんじゃないかと痛感させられるリサーチ結果が、昨日、スタンフォード大学の研究で明らかなった。

スタンフォード大学は、カリフォルニアでも最初にロックダウンが発令されたサンタクララ郡にあるシリコンバレーを代表する超有名大学だ。その研究所が4月3日と4日、サンタクララ郡の住人からボランティア3千人を募って抗体検査をした結果が昨日発表されたのだ。そのデータによると、サンタクララ郡の住民の2.5%から4%の人間が抗体を持っている可能性があるという結果が弾き出されたのだ。

どういうことなのかというと、4月初旬には公式に発表されていた感染者数の実に50倍から85倍の人間が、実際は感染していて元気に歩き回っていたということなのである。その数、4万8千人から8万1千人にのぼることになる。

現時点で感染の有無を調べる検査は、実際の症状が出ている人しか受けられないので(もちろん、この研究の治験者は例外である)、公式な感染者数はなんらかの症状が出ていた患者の人数であると思っていい。となると、残りの何万人もの感染者は感染しつつも気づかずにごく普通にロックダウン生活を送っているというわけだ。

それは私かもしれないし、私の友達かもしれない。

そのことを念頭に置いて、このままロックダウンが全面解除されて1ヶ月半ぐらい前の生活に戻れるとしたら、一体どうなるのかを考えてみよう。今は隠れ感染者も、家族以外の人間とはソーシャルディスタンスを保っているので、感染を広げる可能性はほぼない。しかし、規制がなくなって、マスクをせずに、職場や学校に行ったり、ジムやレストランに行ったり、コンサートやイベントに「普通に」参加すれば、当然ながら、あちらこちらに感染者を増やしてしまう。その新規感染者の多くは感染源と同じようにほぼ無症状で過ごしてしまうかもしれないが、そうやって感染の波紋が広がっていけば、やがては健康的な弱者、つまり年配者や慢性疾患を持っている者にまで感染の波が達し、今と同じ状況が容易に繰り返されてしまうのが推測できるだろう。

だからこそ、ニューサム州知事は、ロックダウンを軽減するには、以前に書いたような6つの厳しい体制が整う必要があると発表したのだ。このスタンフォード大学の研究結果は、なぜ住民は公共の場でマスクの着用した方がいいのか、なぜロックダウンが軽減された後もワクチンか治療薬が使えるようになるまでは、コミュニティは以前の「普通」には戻れずNew Normalが必要になるのかを雄弁に語っている。

マスクの着用もNew Normalも、自分が感染しないためではなく、自分から感染させないために必要なのだ。ニューサム知事が言っていたのだが、自分はウィルスを持っているという仮定の基で行動する必要があるのだ。それが、健康的な弱者を守ると同時に、再びコミュニティが感染の大波に飲み込まれることを回避できる方法なのである。

ロックダウンの前、いや、始まってからもしばらくは、マスクをしていると変な目で見られている気がした。ウィルスを運んでいると思われているかもしれないと、公共の場ではマスクをするのを躊躇したものだ。マスクをしているだけで周辺から浮いてしまうほど、普通の米国人はマスクというものに縁がなかった。

今はみんなマスクをしている。公共の場でマスクをしていないと罰金を課すというような強制性を設けた市町村もある。数週間前までは、マスクをしているとウィルスを運んでいると思われそうで避けていた日本人住民が多かったわけだが、今は誰もがウィルスを運んでいる可能性があるからみんなでマスクをするようと働きかけられる。住人の何万人にも及ぶ人間がすでに感染している可能性を持っている今、誰もがマスクをしなくてはいけない理由は明確だ。

感染しないためではない。感染させないためなのだ。

 

 

PVアクセスランキング にほんブログ村