シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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パーティの怖さ(ロックダウン56日目・現時点の解除予定日まで残り20日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

今日のパサデナ発のニュースはなかなか衝撃的だった。パサデナはカリフォルニア州のロサンゼルス郡にあり、ロサンゼルス市の郊外のローズボールやローズパレードで有名な街だ。世界的に名声の高いカリフォルニア工科大学があり、ロサンゼルス郊外の高級住宅地や古いおしゃれな街並みを持つオールドタウンなどもある。

ニュースによると、パサデナのとある家で4月の上旬にバースデーパーティが開かれた。このパーティにはたくさんの親戚や親しい友人などが集まり、インドア及びアウトドアで盛大に行われたらしい。参加者はソーシャルディスタンスを守らず、マスクもしていなかった。ちなみに、カリフォルニア州が正式にShelter-in-Placeを宣言したのは、3月19日であり、パサデナ市が明示的に規制を発令したのは3月31日である。つまり、このバースデーパーティーは、規制を無視して行われたイベントであったわけだ。

それからほぼ一ヶ月経過した今週の土曜日、パサデナ市はそのパーティで発生したと思われる感染クラスタの存在と少なくとも5人のパーティの参加者が現在ウィルス陽性であり、まだテストを受けていない相当数の参加者に感染症状が見られていると発表した。

さらに驚いたことに、クラスタの発生元と思われる参加者は、パーティの時点ですでに咳をしていたそうで、「もしかしたらウィルスに感染してるかも」と冗談を言っていたそうだ。もちろんマスクはしていない。その冗談は冗談では済まされず、事実、彼女は感染していて、複数のパーティ参加者に感染させたというのだ。

その非常識な言動にもびっくりだが、もう一つ意外だったのは、パーティからクラスタの確認までに約一ヶ月かかっていることだ。つまり、その一ヶ月間の間に、パーティで感染した人々は別の場所で別の人間にも感染させている可能性が高い。そこで発生したクラスタは大きく膨れ上がって、症状のない感染者も症状のある感染者も増やし続けているのである。

このニュースを受けて日曜日の今日、母の日を迎えた米国に、母の日を祝うための大きなパーティをしないようにと念をおす警告が相次いだ。米国にとって母の日は大きなイベントだ。例年通りなら家族や親戚が集まってパーティをすることが多い。

しかし、パサデナの1つのバースデーパーティで5人以上の感染者がでたというウィルスの感染力の強さを考えれば、今、祖母や母親を招いたり、訪ねたりして、人を集めてお祝いをすれば、集まった誰か(または自分自身)が無意識のままウィルスを運び、ウィルスにより重症化しやすい高齢者を感染させてしまう可能性は相当高い。

米国人は母の日を大切にするので、母の日を祝えないことに罪悪感を感じる人々は多いだろう。しかしそれは、母の日を盛大に祝ってしまって、年老いた祖母や母親を感染させた場合の罪悪感とは比べものにならない。

これはもちろん、母の日だけではない。誕生日も、記念日も、卒業式も、結婚式も、今、パーティというパーティがどれだけ危険なのかをパサデナの事件は教えてくれている。米国内が経済再開に向けて規制緩和を始めた今だからこそ、この情報は重要だ。規制が緩和されても、安易に自宅でパーティを開いたり、友人たちとクラブやバーなどに集まったりするのはお勧めされない。事実、韓国のソウルでも、ナイトクラブやバーで新たなクラスタが発生し、沈静化していた感染者数が一気に増えたことを受け、ナイトクラブやバーの営業を禁止したというニュースも、今日入ってきた。

人々はワクチンが開発されていない現時点での規制緩和が、いかに難しいかを具体的にわかりやすく知ることになった。今後、どのように経済活動を再開していくのか、どのくらい慎重に進めるのか、また、規制は緩和するばかりではなく、再度厳しくなる可能性もあるのか。人々がウィルスのことを知れば知るほど、経済再開の速度は遅くなるだろうが、少なくとも感染者の急激な増加を避けることはできるだろう。ニューヨークの悲劇がどこかで繰り返されのは誰も見たくない。

今日、向かいに住んでいる老婦人がHappy Mother's Dayのサインを持って挨拶にきてくれた。彼女の息子も娘も孫もお祝いには来ない。それがベストなのだ。それでも、彼女は何か母の日らしいことがしたくてサインを作って挨拶にきてくれたらしい。

私と彼女は3メートル以上離れて短い会話をした。

「本当に毎日退屈なのよ。来年の母の日はもっとマシになっていて欲しいわ」

そう彼女は言い、首を振りながら帰っていった。

 

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