シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ライブじゃないサタディナイトライブ(ロックダウン28日目・現時点の解除予定日まで残り21日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

4月12日の今日はイースターの日曜日だ。例年であれば、街のあちらこちらでエッグハンティングイベントが行われ、教会で特別なミサが行われる、春の訪れを告げる週末だ。

もちろん今年のイースターは全く違う装いだ。教会のミサのほとんどはオンライン配信となった。中にはドライブインシアターを借り切ってミサを開いたというユニークな教会もあった。確かに家族ごとに車の中に閉じこもってミサに参加すれば、人々が一箇所に集まっていても感染を広める危険性はないが、車でミサという発想がいかにも車社会の米国らしい。

エッグハンティングイベントももちろん開催されていないが、子供がいる家の前庭にはイースターエッグが飾ってあったり隠してあったりして、ささやかなイースターパーティが各家で開かれているのがわかる。

ロックダウンの影響により、米国のニュース番組の多くは、キャスターが自宅からニュースを届ける形式になっているのだが、昨日のサタディナイトライブもとうとうStay at Home体制に移行した。35年も愛され続けている土曜深夜のライブコメディー番組だが、昨日のサタディナイトライブは、トム・ハンクスをホストに迎え、トム・ハンクスもレギュラーコメンディアンたちも、自宅からコメディを届けるという大胆な企画だった。さすがに初回からライブで決行するのはリスクが高すぎたのだろうか、録画編集形式だったが、確かに全員が自分の家からネットを介して録画をしたものだった。最終的には本当にZoomを使ったライブ放映を予定しているようで、相変わらず米国の人はチャレンジング精神が旺盛だ。

トム・ハンクスといえば、ウィルスに感染したと発表された最初の米国有名俳優である。映画撮影で訪れていたオーストラリアで感染が確認された時、米国の良心として慕われ続けている俳優だけあって、米国人の多くが動揺した。年齢も63歳ということもありだいぶ心配されていたが、無事に回復し米国に帰国することができた。

そのトム・ハンクスが自宅のキッチンからサタディナイトライブのオープニングに出演した。もちろんとっても素敵なキッチンである。優しく穏やかな話ぶりが、今の状況の番組ホストにはぴったりだ。

コロナウィルスに感染していると診断されて以来、今までで一番「アメリカのお父さん」の気分を味わったよ。誰も僕に近寄ろうとしないし、僕がいるとみんなが居心地悪そうになるんだ」と、おどけて笑わせてくれた彼は、最後に誠実な表情に戻って「一緒に頑張ろうね」という言葉を視聴者にかけていた。

彼に続いて、レギュラー陣も米国らしいティピカルな内装のキッチンから、リビングから、次々と彼ららしい政治的に毒性の高いコメディを披露していた。背景、ライティング、服装のどれをとっても、いかにもお家でやってますっぽいアットホームさが面白い。聞いてくれるスタッフすらいないコメディは反応がなくて難しいのだろう。コメディアンによってはZoomで繋げた知り合いの反応を見ながらの録画だったようだ。

こんな風に、米国の人たちは、苦しい時に明るく演じることで自分たちを盛り上げるのが得意だ。苦しい時ほど、頑張ろう、頑張ろう、という明るさを前面に押し出してくる。悪くない。

しかし、同時に放送50年以上の歴史をもつ60ミニッツが伝える米国の現状はなかなか悲愴だ。父親も母親もウィルス感染と診断された若い女性が、高校生の妹のと病気の母親を支えて暮らしているという内容のインタビューだった。父親はすでに入院中だ。彼女は家族で初めてカレッジを卒業した秀才で、メディカルの分野への進学を目指していたのだが、今や進学どころの話ではない、それどころか、働き手も家事をする人もいっぺんに失った家族を自分が世話をしないといけないと語っていた。番組の収録期間中に、感染の可能性からお見舞いもできなかった父親が病院で亡くなったという報が届いた。彼女はICUを訪れることだけが許可された。病気で苦しそうにしている患者のベッドが並ぶ中、父親は眠っているようだったと彼女は画面越しのインタビューで語っていた。彼女は、父親を抱きしめてあげられなかった、ごめんなさいと画面の向こうで泣いていた。ICUにいた医療関係者も泣いていたそうだ。このような状況で犠牲者の家族も医療関係者も精神的に消耗させられていく。そんな中でも、どうしたらいいのかわからないと言いながらも、彼女は家族の生活を支えていかなくてはならない。

番組の中で精神科医が言っていた。今はまだいい。ウィルスと戦うために米国民が「一緒に頑張ろう」と励ましあっているうちは、アドレナリンが発散されて精神的にも元気でいられる。むしろ、ウィルスが沈静化した後、団結力を失った個人にとって、身体的に健康が保証されたとしても、経済的にも精神的にも健康は保証されていない。仕事が失い。家賃が払えない状況にある人々は多い。痛めつけられた経済の回復には時間がかかると言われている。すぐに再就職できる保証はない。突然にして襲われた生活不安の中、人々がうつ病を患う可能性は高いと精神科医が語る番組は、なかなか悲観的だ

これが米国の二面性である。

そういえば、政府が約束した国民への給付金の銀行口座への振込が、今週から開始されるというニュースがあった。一人1200ドル、子供は一人につき500ドルだそうだ。相当なお金持ちであればもらう資格はないが、たいていの人は幾らかはもらえるはずだ。しかし、大人二人子供二人分もらったとして3400ドル。日本円にして34万円は相当な金額のように思えるが、実は狂ったように家賃が高騰しているシリコンバレーの一般的な3LDK借家の一ヶ月分の家賃すら満たさないのだ。

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