シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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州知事vs大統領(ロックダウン29日目・現時点の解除予定日まで残り20日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

ここのところカリフォルニアのニューサム州知事は、毎日株をあげている。米国の中で最も早く州全体にStay at Home規制を発動したのは彼だ。カリフォルニアにおけるウィルス感染死亡者数は4月13日時点で累計725人であるが、実はこれはニューヨーク州のピーク時における1日あたり死亡者数よりも少ない。現在ニューヨーク州の死亡者数累計は一万人を超えている。もちろん人口密度であるとか、公共交通機関の利用率や貧富の格差など、ほかの様々な要因も見逃せないが、これだけはっきり明暗を分けているのをみると、ニューサム知事の判断は早かったし、正しかったと思わされる。

その上、彼は毎日の正午のデイリーカンファレンスで次から次へと新しい発表をして、州民を安心させている。連邦政府の基金でカバーされない小規模ビジネスへのサポート、水素燃料企業から協力を得た人工呼吸器の修理、州の各所でのコンベンションセンターやスポーツスタジアムを臨時医療施設に使用するための準備、戦況の厳しいニューヨーク州への人工呼吸器の貸与、マスクの確保などなど、毎日毎日本当に良く働いている。もちろん、彼一人ができることではなく、周りのスタッフがよほど優秀なのだと思うのだけれど、スクリーン越しにも溢れ出ている彼の説得力の高いリーダーシップ無しでは、ここまで物事はスムースにいかなかったかもしれない。

そんな彼が今日打ち出した政策は、これまた州民の歓迎を受けたに違いない。米国西部3州であるカリフォルニア州、ワシントン州、オレゴン州の知事がタッグを組み、協力して今後どのようにして、感染リバウンドを最小限に抑えながら経済活動を再開することができるのかを専門家の意見を取り入れて取り組むと発表したのだ。

時を同じくして、米国北東部のニューヨーク州、ニュージャージ州、コネチカット州、ペンシルバニア州、ロードアイランド州の州知事たちも同様な協力体制を発表した。

これは、一刻でも早く米国全体の経済活動を再開したいという願望があからさまで、言動にドキドキさせられるトランプ大統領への牽制であるというのが大方の見方だ。トランプ大統領がなんと言おうとも、自分たちの州民の命は自分たちが守らねばならないので、再開のタイミングや方法を決めるのは州知事であるという意思表示である。

この動きに、トランプ大統領もいち早くツイッターで反応した(いつも思うのだが、彼の陣営は彼からこのオモチャを取り上げた方がいいと思う)。「(彼らの動きは)正当ではない。(経済活動再開の)決定は大統領が行うものだ。今後も州知事たちと連絡を取り合って進めていく(略)」

今までもだが、今後さらに、これらの州知事たちと大統領はパチパチと火花を飛ばしながら、この非常事態をリードしていくだろう。

ここで気がついたことが2つある。まず、これらのタッグを組むと発表した西部及び北東部の州知事は皆、民主党所属であること。トランプ大統領は共和党であることを考えると、州知事たちは「私たちは、これを政治ではなく科学と健康状態の成果を基盤にして決定する」とは言っているが(そして実際そういうつもりなのだろうが)、やっぱり政治的なニュアンスを裏に感じずにはいられない。何しろ米国が感染のスパイラルにとらわれてからというもの、トランプ大統領の対応や発言にはブレが多い。あまり政治に興味のない私でも、彼のリードにはさすがに心配になる。そう感じている人は多分私だけではないから、秋に大統領選を控えている米国であるだけに、ここらで、一気に民主党の勢いをつけようという意図がないとは言えないだろう。

どちらにしても私たちに必要なのは、感染の危険性を最低限にしつつ、なるべくスムースに経済活動を再開して失業に喘ぐ人々をすくい上げることである。この2つのバランスは素人から見ても難しい。米国の頭脳である専門家たちにぜひ頭をひねってもらって最善の策を見つけて欲しい。

もう1つ気づいたことは、米国における州政府の力の強さである。米国は広い。あまりに広いので、各州はまるで一国のような自治権を持っている。今回の非常事態に対する対応も、各州のロックダウンの日付がバラバラであることが示すように、大きなことから細かいことまでほぼ全て州政府が決定して即実行している。大規模な連邦政府ではなくて、小規模な州政府の決定であるからこそ、全ての決定が迅速かつ確実に実行され、ニューサム知事は毎日州内をあっちに行ったり、こっちに行ったりしながら、デイリーカンファレンスを行い、ガンガンと物事を進められるのだ。とにかくやることが早い。

昔、日本の中学だか高校だかで、アメリカの歴史や地理を学んだ時に、州の自治権が強いという話を聞いたことがあったが、これほどまでとは知らなかった。そして、自治権は有事にこそ、その威力を発揮することもこの目で確認している真っ最中である。

中学生の息子がちょうど米国史を学んでいて、ついでに私も資料を読んだりドキュメンタリーを見たりしているのだが、米国はその建国の歴史からして、州というのは国のような枠組みだったことがよくわかる。その上、歴史が浅いが故に封建制度を体験していないこの国は、日本やヨーローパのように特定のグループが全土を天下統一したという歴史的事象は一度も起こっていない。United States of America というだけあって、この国は複数の国が集まって一国として認識されているのだと考えた方がしっくりする。

その複数の強いリーダーシップと、それらの間で繰り広げられる葛藤こそが、米国の政治力と柔軟性と行動力の源なのだなと感じる今日この頃である。

 

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