シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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失業と食糧配給(ロックダウン25日目・解除予定日まで残り24日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

タイトルを入力しながら気がついた。私たちは今日、ロックダウン開始日からロックダウン解除予定日の折り返し地点にいる。

ここまで来たかという思いはあるが、素直に喜びを味わうことは全くできない。なぜなら、ロックダウン解除日は発動された時から常に予定でしかなく、すでに一度延長されているからだ。現時点におけるロックダウン解除日は5月3日だが、カリフォルニアの学校が6月の夏休みまで閉じたままオンライン授業を続けると決定された今となっては、この解除日も延期されるだろうというのが、現在の多くのカリフォルニア州民の推測である

この歴史的に前例のないロックダウンにより、経済的に最も打撃を受けているのは、小規模ビジネスの経営者とその従業員たちだ。自分が小さなビジネスの経営者なので余計にわかってしまうところがあるのだが、小規模なビジネスは体力がない。資本が小さい。幸いなことに、うちのビジネスは常日頃から在宅ワーク可能な分野なので、このロックダウンの打撃を直接的には受けていない。将来的には、間接的になんらかの余波を受けるのは覚悟している。

しかし、ロックダウンにより即日営業停止となった小売業、レストラン、その他サービス業には、そんな悠長なことを言っている時間は皆無だった。入ってくる予定のお金が突然途絶えたら、数週間後には従業員の給料の資金繰りができなくなる。経営者たちは従業員の給料を停止するか、雇用そのものを停止するかのどちらかを選択するしかない。それだけではない。月払いや先払いサービスのビジネスは、突然にして発生した膨大な返金に追われている。連邦政府も州政府もそんな彼らのために特別ローンを設定したが、その手続きは簡単ではないし、一朝一夕で入金してもらえるわけではない。実際のところ、申し込みが殺到したため、手続き用のWebサイトがハングしたり、遅くなったりして一向に処理が進まないため、知り合いの中にはアクセス数が比較的減る深夜に申請の手続きをする人がいるくらいだ。すでに倒産したり、倒産目前のビジネスも多い。

雇い主が溺れそうになっている時に、働けなくなった従業員はどうしているだろう。業種的に比較的低収入である大多数の彼らにとって、給料が手に入らないことは、即、家賃や光熱費の未払いに繋がる。食料品を満足に購入できなくなってしまう人もいる。

そこで、電気ガス会社からは、しばらくの間、光熱費が未払いでも電気ガスを止めないとう決定が早い段階で発表になった。また、州政府の方からも、個人の住居、ビジネスオフィス、店舗のどれに対しても、今後二ヶ月家賃が払われなくても、立ち退きを強制できないという規制が発表された。

それでも足らず、シリコンバレーの街のあちらこちらに無料のランチ配給所が設けられ、同時に教会などが主催する食料品の配給も始まっている。今日の地元のニュースによると、通常、週に2回400家族の食料品を配給している教会に、実に2000家族が集まり、あまりの混雑に道路を閉鎖しなくてはならない事態になったという。

過去3週間の間に米国で申請された失業保険給付申請数は1680万件という驚異的な数値を示した。この数字は米国の労働者の10人に1人が失業した計算になる。

たった3週間前、私たちの誰もこのような事態を予想できた人はいなかった。3週間前はシリコンバレーは好景気に湧いていて、レストランもショッピングセンターも人が溢れ、従業員たちは笑顔で顧客対応をしていた。エンジニアたちはより良い収入を目指して転職準備に余念がなかったし、子供達はスポーツイベントやアートイベントに参加して忙しくしていた。

今は、みんな、時が止まったように家にいる。在宅ワークの人は、家から仕事ができる幸運に感謝している。営業停止にならなかった食料品店の従業員は、リスクの高い仕事だけれども、少なくとも職を失わなかった幸運を感じているかもしれない。

できるだけ早くロックダウンを解除しなければ、さらに会社は倒産し、人々は失業する。政府のサポートは無限ではない。しかし、中途半端なロックダウンを解除したらどうなるのかも私たちは知っている

感染して死んだ人は運が悪かったね、と流すことはできない。医療機器は早い者勝ちだからね、なんてこともできない。どんなに厳しく苦しい経済状態であっても、感染の恐怖から起こりうる社会不安、助かる可能性のある命、医療関係者の安全と天秤にかけることはできない。

みんなが家にとどまって感染のピークを遅らせれば、州政府や医療関係者たちに時間を与えることができて感染の死亡率を大幅に抑えることができる。しかし、それは同時にロックダウンの期間が長くなることを意味し、働けない失業者たちや経営者たちの心理的ストレスと物理的ストレスは大きく膨れ上がっていく。経済的打撃から起こりうる社会不安とも隣り合わせだ。結果的に、お金が動かなくなるロックダウンによる経済全体のスローダウンは必須で、期間が長ければその傷跡は深くなる。

ここには大きな葛藤があって、ロックダウンを受け入れているシリコンバレーの住人たち一人一人もその葛藤と戦っている。戦ってはいるけれど、この葛藤で選ぶべき選択肢を私たちはすでに知っているのだ。

健康な世界が返ってくれば、経済は復活できる。だから、私たちは押しつぶされそうな不安を抱えて、でも表面上は曖昧に微笑みながら、やっぱり家にいる。

 

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