シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

姉妹サイト「シリコンバレーをよむ」もぜひご訪問ください

ニューヨーク医療機器需要ピーク予想日前日(ロックダウン23日目・解除予定日まで残り26日)

*この日記でロックダウンと呼んでいる規制は正確にはShelter-in-PlaceまたはStay-at-Home(自宅避難)規制と呼ばれています。ロックダウンには広範囲の意味があり、緩い規制から厳しい規制にまで幅広く使われいます。

 

今日は巷に蔓延している噂の謎について書こうと思っていたのだけれど、今日のUniversity of WashintonのCOVID-19 Projections を見て気が変わった。

このサイトは、各国及び米国の各州で、COVID-19感染により必要になると予測される医療リソース数(ベッド数、ICUベッド数、人工呼吸器数)と実際に使用可能なリソース数の比較をわかりやすいデータマップにしている。信頼度の高いデータで、実際にカリフォルニア州政府も州が確保すべきリソース総数の一つの目安として使用している。

今日、このマップを開いてみたら、ニューヨークで必要となる医療リソース需要のピークは明日4月8日と予測されていた。そして、ニューヨークのピーク時に必要になると予測されているベッド数は25,486台。それに対して実際に使用できるベッド数は13,010台。さらに厳しいのは、必要となるICUベッド数は6,664台。それに対して使用できるICUベッド数はたったの718台だった。

この数字が意味するのは、ニューヨークの多数の病院で、ICUでケアしなくてはいけないほど重篤な患者をICUでケアできない事態が起こっているということだ。つまり、この時にも、ニューヨークの医者たちは、溢れる患者の中の誰を諦めて誰をケアするのかを決めなくてはいけないという厳しい立場に立たされている。死亡診断書を1日に10枚書くと、体力的にも精神的にも消耗すると言っていたニューヨーク在住の医者の友人の言葉を考えれば、十分な医療施設さえあれば助かるかもしれない苦しんでいる人々を救えないのは、相当な心理的な負担であるだろう。また、誰かをケアするためには別の誰かを結果的に諦めなくてはならないという状況は、ただでさえ精神的にも肉体的にも消耗している医者に「神の仕事」を強制することになる。その現場の悲惨さは想像に難い。

あまりのニューヨークの悲惨な状況をニュースで読むたびに、一体何がニューヨークをこうしてしまったのだろうと疑問がわいてきて、いくつかのニュースソースを読み比べて見た。

カリフォルニアのロックダウンの開始日はニューヨークより3、4日早いだけだ。それなのに、カリフォルニアに比べてニューヨークの感染者の伸びはうなぎ登りで突出している。もちろん死者数もだ。ニューヨークの方が人口密度が高いということもあるだろう。しかし、カリフォルニアは全米一人口が多い上に、ロサンゼルス、サンフランシスコのような複数の大都市を抱えていることを考えると、これだけの差がついたのは人口密度の差だけとは思えない。

そこで、あるニュースが報告していた事実が持ち上がってくる。ニューヨークの重篤患者にはブラックやブラウンと呼ばれる肌の色が濃い人たち多いというのである。実際にニューヨークの患者の分布図を見てみると、所得の高いホワイトカラーが多く居住する地域は患者が比較的少なく、サービス業や製造業に就職するブルーカラーが多く居住する地域は患者が多いのだ。

ニューヨークでウィルスが蔓延し始めた時に、在宅勤務が可能なホワイトカラーは自宅に引きこもり仕事をすることができた。しかし、ロックダウンが発動されたあとも、多くのサービス業、製造業は出勤して働き続けている。

それはカリフォルニアも同じなのだけれど、最大の違いはニューヨークの低所得者たちは電車や地下鉄を使って通勤するが、ただっ広く公共交通機関がほぼ役に立たないカリフォルニアでは、高所得者も低所得者もみんな車で移動する。車は一家に一台ではなくて一人一台なのだ。多分これは一つの要因であるような気がする。

また、米国では一般的に低所得者ほど糖尿病のような慢性疾患をもっていることが多い。米国の国民病である肥満は、高所得者層よりも低所得者層で大きな問題となっている。これは、所得が低い層ほど、高級で新鮮な食料品よりも、カロリーが高く格安なファストフードに依存する傾向があることと無縁ではない。

ニューヨークはカリフォルニアの都市よりも貧富の差が大きい。そんなニューヨークで慢性疾患を持っている多くの低所得者が、ただでさえ重篤のリスクが高いにもかかわらず、長時間地下鉄を使って出勤し、サービス業のような不特定多数の人と接する感染リスクの高い仕事を続けているのだ。リスクを下げるには仕事を休むか辞めるしかないが、それは別の意味で彼らにとっては命取りとなる。

感染症は金持ちにも貧乏人にも差別なく感染するけれど、実際は、感染症ですら貧富の差においては公平ではないのである。

しかし、医療関係者にとっては、運ばれてきた患者の命の重さは同じだ。この厳しい戦況の中で前線で戦い続ける彼らは一体何を思うのだろう。何を思う暇もないのだろうか。

彼らのために祈りながら、私たちは今日も家にいる。カリフォルニアで同じ悲劇が報告されることがないように、みんなで家にいる。

刻一刻と現状を反映して変わっていくCOVID-19 Projectionsが、今示しているカリフォルニアの医療機器需要のピークは7日後の4月14日だ。

covid19.healthdata.org

PVアクセスランキング にほんブログ村