Youth Night でワクチン
カリフォルニア州のワクチンの接種は順調で、少なくとも1回接種した人は州民の50%、シリコンバレーのあるサンタクララ郡では住民の約60%は1回は接種済だ。接種済住民が増えるの伴い、大型の接種会場の需要は徐々に減ってきている。
今後は、ワクチンの接種を躊躇する人たちをいかに説得するかが鍵となるので、受けたい人にガンガン打っていく大型接種会場よりも、それぞれの住民の近くで、終業時間外も接種してくれるような薬局、スーパ、学校、職場、または仮設のポップアップサイトなどによる接種の方が効率が良いと考えられるので、行政は徐々に作戦変更中だ。
さて、最も接種が遅れているとされるのはアフリカンアメリカンやヒスパニック系の若者だと言われている。そこで現在、特にワクチンの接種が許可されている最低年齢である16歳以上の高校生を対象に接種を積極的に勧めているところだ。
こんな広告を見つけた。この広告、いろいろ突っ込みどころが多いのだが、米国の縮図が見え隠れしている。
まず、この適度にダサいデザインだが、いかにも公立ハイスクールのイベントっぽい。洗練されてなさが、親しみを感じられるというか、まあ、本当によく目にするデザインを意図的に踏襲していると思う。また、内容の情報は多いが、文章は可能な限り短くすることで面倒臭がりな若者でもパッと読みやすいようにしてある。接種会場がフットボールチームのホームであるリーバイススタジアムというのも若者にアピールしている。
書いてある内容をざっと説明すると、これはリーバイススタジアムで行われる16歳以上の高校生とその家族を対象とした、ワクチン接種のための「Youth Night」(若者の夕べ)の宣伝である。3日間行われるこのイベントでワクチンを接種すると、NFLのロッカールームの見学、アメフトチーム、49’s 記念グッズ、毎日先着100名にChipotleまたはスタバのギフトカードが振舞われる。ちなみにスタバもChipotleも若者に人気の店だ。もちろんワクチンの接種は無料、その上、いろいろな特典がつくという、これはもう包み隠さず「釣ってます!」感がすごい。リスクの低い若者は、いろいろ説明してもきてくれないことが多いので、ワクチンの接種に特典をつけるという作戦だ。
それだけではない。真ん中辺りの写真の人物は、そう我らがファウチ博士だ。が、これはダンボールでできた等身大のハリボテだ。その隣で光っている宣伝文句は「ファウチ博士のクローンと一緒にセルフィを取ろう!」だ。そして、若者が大好きなSNSでワクチンを接種しました写真をシェアしてもらって、もっとたくさんの若者に宣伝してもらおうという作戦まで用意している。ファウチ博士はこのために肖像権を寄贈したんだろう。あの困ったようなスマイルで「それがワクチンの宣伝になるなら」と応じたに違いない。マスクをしているファウチ博士だというところがなかなかリアルだ。
そして、さらに米国の縮図だと思える様々な注意書きがある。
健康保険は必要ありません
米国は健康保険がないという理由で医者にかからない人が多いため、ワクチンの接種に健康保険が必要ないというのは重要なアピールポイントになる。
どのような移民のステイタスでも大丈夫です
違法移民は自分のステイタスが公になるのを恐れるため、どのようなステイタスでも問題なく接種できることをアピールするのは大切だ。多分会場では、どんなステイタスであるか質問もされないだろう。
16歳、17歳は親の許可が必要ですが、それには次の方法があります
フォームに記述する(親は来なくていいので気楽。特に違法移民の場合)
親と一緒に来る(ついでに親にも接種してもらいたい)
その場で親に電話をして確認させてもらう(親は来なくてもいいから気楽。特に違法移民の場合)
英語ができなくてもスタッフが助けてあげられます
というように、若者全般というよりも、さりげなくカリフォルニアに多いヒスパニックの貧困層をターゲットにしていることがうかがわれる内容となっている。
さて、これを見て、若者は集まってきてくれるのだろうか。ぜひぜひ詰めかけて、ギフトカードをもらって、有名選手のロッカールームを見ながら、お土産をもらって、ついででいいのでワクチンを接種して欲しいところだ。
ちなみに、この作戦はあまり頭がよくなさそうに感じる人がいるかもしれないが、実は結構賢い。単純にオマケにつられてワクチンを接種しに来る若者は、実はそれほど多くないと思う。このようなカジュアルイベントにすることで、躊躇していたり迷っていた若者が、友達と一緒にイベントに楽しみに行くんだと自分に言い聞かせるきっかけを与え、背中を押してあげる作戦なのだと思う。また、周囲がワクチンを受けないコミュニティに住んでいる場合、様々な理由でワクチンを接種しない親や親戚や友達からのプレッシャーで行きたくても接種に行きにくいと感じていた若者も、このイベントを言い訳にできるし、親にも一緒に行こうと誘うことができる。何しろギフトカードまでもらえるんだからと。
がんばれ若者。