シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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ワクチン優先権を喜ばない人々

肥満とCOVID」にも書いたように肥満は Covid が重症化するリスクを高めることがわかっている。このため、州や郡によっては、BMI値が30以上の人々にワクチンを優先的に摂取させる動きがあって、それらの人々にワクチン接種可能通知が届き始めたらしい。

これは、とても論理的な政策だと思うのだが、この通知をもらった人々の心境はだいぶ複雑らしい。肥満というのはとてもデリケートな話題であり、一般的なアンケート結果でも、体重過多の人は自分の体型を標準だと思っている可能性が高く、肥満である人は自分の体型を肥満ではなく体重過多であると考えている傾向が高いそうだ。

米国では体重過多または肥満と分類される人の割合が42%だと言われているが、その背景の1つは高カロリー食を安く接種できるファーストフードとソーダで食費を抑えようとする貧困層の厚さであることは、前のブログでも触れた。

もう一つの背景は、肥満であることを健康問題であるととらえない社会通念の存在であると考えられている。実際のところ、肥満であると病気になる確率や突然死の確率が高いということは一般的に知られているが、だからといって、肥満体型の人に「健康のために体重を減らすべきだ」と医者以外の人間がいうと、これは政治的に不適切な発言=差別であると捉えられる。

このような社会通念の元、肥満傾向の人は自分の体型は問題ない、誇りに思うと表現することが多く、痩せようとは思わないと宣言する人も多い。このような人々に、今回のワクチン接種可能通知が届くと、その受け取り方は複雑だ。ワクチンの接種が早くできるのは嬉しいが、同時に、社会的に「あなたは生命の危険があるほど太っています」と通知されることと等しい。特に自分は健康的だがBMI値が高いだけだと考えている人にとっては、この通知にがっかりしたり、怒りを感じる人もいる。

しかし事実は事実である。実際にBMI値が高い人は死亡率が高い。今回のパンデミックでも亡くなった人の70%以上が体重過多または肥満に分類される人だったのだ。その事実を知っていても、BMI30を超えている人には体重を減らそうと思わない人も多い。今回のウィルスだけではなく、様々な病気につながる潜在要因であるにもかかわらず、それをやめようと思わないという点においては、喫煙に近い生活習慣であるような気がするのだが、喫煙者にタバコを辞めるようにアドバイスすることは政治的に不適切だとは言われないのだが、肥満体型の人に体重を減らすようにアドバイスすることは政治的に不適切だと言われる。肥満は実に複雑な社会背景を持っているのだ。

これには、肥満が長きに渡りバカにされたり嘲笑われてきたことがその背景にある。喫煙者に眉をひそめる人はいるが、バカにしたり嘲笑う人はいない。また、糖尿病やその他の生活習慣病を患った人が馬鹿にされることもない。が、肥満であることは、歴史上、また現代においても、馬鹿にされたり嘲笑われる傾向がある。コメディ映画で、バラエティショーで、子どもたちの間で、笑われ囃し立てられることが今でもある。それが、肥満傾向にある人々に対する差別意識を社会にもたらしてしまう。そして、そのような差別意識が存在するから、肥満に対する言動はつねにセンシティブで政治的に正しいか正しくないかを判断されてしまう要因となっている。

肥満傾向にある人が、自分の体型を愛し誇りに思っているのならば、それは彼らの選択であると考えればいいのかなと思うことがある。たとえ病気になる確率が高くても、死亡する確率が高くても、それを知ったうえで体重を減らす必要がないと思っていのであれば、それは彼らの選択なんじゃないだろうか。

だったら、ワクチンの接種の優先権もいらないのでは考えることもできるのだが、そこは微妙だ。最初に書いたように、米国の肥満の大きな原因の一つには貧困がある。どんなに健康的に良くないことがわかっていたとしても、健康的な食生活と十分な運動をとることができない人もたくさんいるのだ。体重を減らす時間と余力があるならば、少しでも栄養のあるものを食べて体を休め、翌日の糧にしたいと考えなくては暮らしていけない人々も存在しているのだ。

かくして、肥満というセンシティブな話題は、パンデミックでも特別な位置を占め、米国の高い死亡率の一因を担ってしまっている。

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