シリコンバレーロックダウン後日記

起点はシリコンバレーがロックダウンされた2020年3月。2021年6月、シリコンバレーのロックダウンが解除されてから、シリコンバレーと世界がどのように回復に向かっていくのかを日記に記録してみようと思う。

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若さの功罪

昨日書いたテキサスのマスク着用規制の撤廃を受けて、バイデン大統領は「ネアンデルタール人的思考」であり、今最も行うべきではないことだと、バッサリと切り捨てた。これを読んで思い出したのは、数ヶ月前に、ネアンデルタール人のDNAを受け継いでいる人は、受け継いでいない人よりも重症化しにくいという統計結果が出ていた記事だ。「これって信憑性はどんなもんかな」と首をひねりつつさらっと読み通してしまったのだが、バイデン大統領は知ってか知らぬか、同じ「ネアンデルタール人」という言葉を使ったため、偶然の一致にしてはできすぎていると苦笑した。

まあ、ネアンデルタール人が現存していたらすごい差別発言だが、幸い遠い歴史上の骨しか現存しない人たちなので、注目すべきはテキサス知事とその支持者がこの大統領の発言をどう受け取っているかだろう。米国の政治経済の特徴は、このように地方自治が非常に強く、連邦政府がなんといおうとも、大統領がなんといおうとも、州政府はまったく逆のことですら強行できるところだ。現に、前大統領のときは、カリフォルニア州知事は規制緩和を訴え続ける前大統領の言うことを全く無視して、厳しい規制で州を運営していた。今回は、その逆パターンが起こっているだけで、州と連邦の軋轢は特に珍しくはない。

さて、そのバイデン大統領だが、つい先日、5月末までに米国の大人全員分のワクチンを確保したと発表した。この前まで7月末といっていたので、なかなかドラマティックな進歩であるが、いったいなにが起こったのか。

もちろん、基本的には米国における3番目に認可されたワクチンであるジョンソン&ジョンソンのワクチンと多いに関係がある。このジョンソン&ジョンソンのワクチン、接種が一回でよいことや、冷凍する必要がないポータビリティ、アフリカ変異種に対する効果など、非常に優秀なワクチンであることがわかってきているのだが、同時にジョンソン&ジョンソン社が持つ設備では最初の計画レベルの量産が難しいことも発表されていて、バイデン政権をがっかりさせていた。なのに、突然にしてこの輝きである。

もちろんこれには背景がある。ジョンソン&ジョンソンと並ぶ米国の大手製薬会社メルクは、Covidのワクチン開発レースについこの間まで参加していた。しかし、初期トライアルの結果が思わしくなく、1月にワクチン開発から降りてしまった。そのメルクがなんとジョンソン&ジョンソンのワクチン製作に協力することが発表されたのだ。この2つの製薬会社はライバルなので、通常ならばこのような協力体制はありえない。しかし、今回のパンデミックは戦時体制と同じ緊急事態とみなされていて、様々な特別処置が可能になっている。仮に戦時中であれば、同じ国の大企業同士が協力して有効な武器を開発することがありうるように、今回も連邦政府の働きかけにより、2社は協力してワクチンを量産することになった。メルクはジョンソン&ジョンソンのワクチンを制作するために緊急に設備投資をしなくてはならないが、これにかかる費用は連邦政府の特別予算が投入される。

とにかく話の進行が早い。やっぱり米国はダイナミックだなあと、こういうときに感じる。現在、国際的に流通しているワクチンは7つほどあり、ジョンソン&ジョンソンは8つ目になると思われるが、そのうち、ファイザー、モデルナ、ジョンソン&ジョンソンは米国ベースである(ファイザーはドイツのビオンテックと協力製作)。そもそも1国が複数のワクチンの開発を早期成功させているのは米国と中国だけだが、世界の流通量としては、米国製が最も多く世界を駆け巡っている。それだけ国が大きいということもあるし、資金が投入されたということもある。そして今後は、たぶんポータビリティの高いジョンソン&ジョンソンのワクチンが、世界に向けての配給を席巻するのではないかと思われる。5月末までに米国の大人すべてにワクチンが確保される(数が確保されるだけで全員の接種が終了するということではない)ということは、その後は大量に世界に向けて供給することができるということだ。

今回のパンデミックを通して、米国の感染防止対応の不味さやら、政治的な思惑やら、自己中心的な国民性やら、なんとも呆れるような流れがいくつもあった。そのおかげで、感染の対応において世界最悪という不名誉な判をもらい、世界一の感染者と死者を出しているのも米国だ。

しかし、同時にそんなパンデミックの時期に、マスクとソーシャルディスタンスをして、民間企業による有人宇宙飛行を行ったり、火星への新ローバーを着陸させたのも米国だ。人種差別の大規模デモも展開されたし、選挙結果に納得できない暴徒が議会を襲ったりもした。そして、ワクチンの開発競争で突っ走っているのも米国だ。この国には、躊躇するということがあまりない。いつだって、良くも悪くも突っ走っている。

これが若さなのだと思う。米国は若い。築150年の建物が歴史的と言われるくらいに若い。若さにはエネルギーと大胆さがある。同時に、若さは愚かさにもつながる。この若さが、世界のどの国とも一線を画し、米国を米国にしている最大の特性なのだと思う。

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